小谷静香の俺様なヤツ。
~静香~
私の彼氏は、ちょっと問題アリなんだ。
「おい、サルのギャグを明日まで考えて来い」
「サルのぉ?サルが去る。みたいな?」
「さむッ!お前今の正気かっ?」
「いや、ギャグを考えろっていきなり言われても。なぁ、小谷」
「えっ?あ、あぁ。うん。そーだね」
私の彼のパシリである野ノ村遼平(自分ではパシリだとまったく気づいてないみたい)にあわせる。
「サルが去るでも別にいいんじゃない?」
「ダメだ。それじゃすぐに負ける」
勝負系が大好きな彼――――王野勇樹は拳をにぎりしめながら、
「勝たないと、明日合コンに連れて行かれる」
「ゴーコンッ!?」
野ノ村君が大げさにリアクションをしつつ私の顔を見ながら、
「それは・・・・・・大事件だな」
「別に、私のことは気にせず行って来たら・・・・・・」
「却下。俺はお前しかいらないのにわざわざあんなとこに行きたくない」
じゃあ考えとけ。と、野ノ村君に言い、勇樹は私の手をにぎりしめて歩き出した。
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「なに頼む?」
「う~ん、じゃあ、私はジャスミンティーで」
「ケーキは?モンブランとかいらねーのか?」
「今ダイエット中なのよ。おなかの肉がちょっとね」
落ち着いた感じのカフェで、私達は向かい合わせで座っていた。
「別に、お前はダイエットしなくてもやせてるし可愛いよ」
素面でそんなことを言える勇樹。
親友の佳奈いわく、
『あいつは、最強の自己チュー野郎で、最強の俺様で、最強のドSさんで、最強のツンデレ馬鹿。あんなに優しい微笑を浮かべるなんて、静香の前だけだよ』
だそーで。
「じゃあ、ショートケーキ1つと、ジャスミンティー2つ下さい」
付き合い始めてから知ったこと。
勇樹は、こどもっぽいものが好きだということ。
特にショートケーキは大好物なんだけど、学校では、
『はぁ?ショートケーキ好きだとかありえねー!5歳かお前』
とかって言ってる。
あの時は笑いをこらえるのに必死だった。
学校ではそんなだけど、私の前では優しい。
だから、ずっと好きなんだよね。
「そういやぁ、野ノ村もそろそろ独り身ってのがかわいそうだよな」
「あー、そうだね。あのルックスだとモテなくはないと思うけど・・・・・・」
「え?あいつ女から見てイケメンなわけ?」
野ノ村君は、いつも勇樹のそばにいる。
風見学園の三大美男子の1人である勇樹の隣にいれば、結構なイケメンでも輝きがなくなっちゃう。
勇樹は、カッコいい。
ルックスも性格も、魅力たっぷり。
と、ブーッブーッと制服のポケットで携帯が震えだした。
画面を見ると、
『メール受信:桜井佳奈
デート中ごめん!家のカギ忘れてファミレスで1人待機中。デート終わったら静香ん家行かせて!
☆KANA☆』
「1人で待機って・・・・・・」
佳奈は美人な方だから、男性に絡まれる可能性が高い。
一回、1人でコンビニにいたときに絡まれたって言ってた。
「勇樹、ごめん!ちょっと急用が出来ちゃった!またね!」
「えっ?あ、ちょっ、静香!?」
私は、超特急で学校の近くのファミレスに向かった。
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~勇樹~
「お待たせいたしました。ショートケーキとジャスミンティーでございます」
店員が、もういなくなった空っぽの向かいの席に、コップを一つ置いていく。
「何だよ急用って。あんなに急ぎやがって」
「急用ってのは、急ぎの用事という意味だから当たり前じゃない。脳みそ入ってる?」
声をいきなりかけられた。
顔を上げると、
「枝野!」
「なにおどろいてんの。すっげーその顔キモイ。やめて」
枝野マキ。ウワサによく聞く。超クールビューティーなおかつとんでもない冷血女。
すごい美人だが、とにかく口が悪い。
俺のタイプじゃない。
「静香ちゃんに逃げられたの。哀れね」
と言いつつ笑っている枝野がかなりムカつく。
しかもちゃっかり静香の席にすわりやがった。
「てめぇはなんでここにいる」
「どこの人間があたしがこのカフェに来ちゃダメって決めたの?そいつのことぶん殴るから教えて」
「・・・・・・」
「あっ、すみません、ガトーショコラ一つ下さい」
なんか勝手に頼んでやがる。
「うわっ、ショートケーキ・・・・・・。クッソキモイわーあんた」
「黙れハゲ」
「はぁ?ハゲ?あんた頭ヘーキ?あたしの頭見えてる?どこがハゲか30字以内に簡潔に答えなさい」
くそ、こいつとしゃべってるとイライラが止まらねぇ。
がむしゃらにショートケーキを食っていると、
「ちなみに、あたしのガトーショコラもあんたのお金だから。マネーマネー」
「はっ!?」
「あたしは静香ちゃんの代理。
カフェでなんか飲み食いしようかと思ってたら財布に10円玉二個しか入ってなかったかわいそうな静香ちゃんの代理。
払ってね☆」
「払うか!」
「じゃあ、学校であんたの好物がショートケーキだって言ってあげる。写真つきで」
カシャリと音が鳴ると同時に、枝野の携帯の画面に俺とショートケーキの画像が写った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・払います」
お見事!と言いつつ、枝野はケーキを食う。
「そういえば、お前今日春斗フッたんだろ?」
「だからー?」
「あんなイケメンを泣かすなんて怖い女だなーって」
ピクリと、枝野の眉が動く。
「イケメンとかどうでもいい。つかこの世に存在しなくていいからマジで。
もっちあんたも。イケメンといるとヘドが出る」
「じゃあ、今へドが出そうなのか」
「えーかなり」
「じゃあ何でここに座った」
「金欠じゃなかったらあんたのこと無視してるから。利用してるだけよ」
あ。
「それに静香ちゃんに誤解されるのもヤだし・・・・・・なに人の顔見て笑ってんの。ゲロキモ」
「いや、なんでもない」
「うわなんだこいつなんでもねーのに笑ってやがるつか笑顔キモ!」
「うるっせーよ。フハハッ!」
なんだよ、お前、かわいいとこあんじゃん。
辛口なこと言ってるけど、ほっぺにクリーム付けてやがる。