第28話 只より高い物はない
自分の曲を皆と歌っていいと言われた翌日、私は上機嫌で事務所に向かった。
「ライブで歌っていいって言われました!」
USBと歌詞カードをマネージャーに提出したら、ガクガクと腕を震わせながら受け取られた。
えっ、どうしたのマネージャー。
顔は冷静なのに、体全体が震えているんだけど……。
歌詞カードが社長の手に渡る。
内容を確認した社長まで震え始めた。
二人とも大丈夫かな?
「?」
数秒後。
マネージャーが静かに口を開いた。
「日向さん」
「はい」
「これ、貰ったんですか?」
「頑張ったご褒美に貰いました!」
地獄のようなスパルタと、熊さんの手作り料理という、見事な飴と鞭だったわ。
「貰ったって、タダで?」
「はい!」
「し、新曲……自筆の新曲……」
(社長、顔色悪いわね)
今日は体調が悪いのかもしれない、だったら長居はしない方がいいわね。
「他の子とも歌っていいって許可をもらったので、練習していいですか?」
「えっ、マジで?」
「社長、口調が乱れています!」
慌てているマネージャーからUSBを受け取り、サッサと事務所を後にした。
「社長」
「うむ」
「私の記憶が正しければ、去年のライブのテーマソング依頼は」
「断られたな」
億詰んでも、気に入らなければ曲は作らない。
そういう人だ。
「その前の大型イベントも」
「断られた」
逆に作ってもらえれば確実に売れる。
「こはる、貰ったと言っていましたね」
「縁が出来て、いつか依頼が通ればいいなとは思っていた。思ってはいた」
だが実際に曲を貰ったら、喜びより恐怖が上回るのはどういうことだろうか。
「何でこはる、こんなに気に入られているんですか?」
「知らん」
「只より高い物はないって祖父が言っていましたけど、本当だった!」




