第15話 次のターゲットは
その日は珍しく控室に誰もいなかった。
(みんなどこ行ったのかしら)
少しだけ不思議に思いながらも、ソファに腰を下ろす。
……誰もいない。
スタッフの姿も、仲間たちの気配もない。
(まぁ、いいか)
こういう時間は貴重だ。
私はスマホを取り出し、イヤホンを片方だけ付けた。
流れてくるのは大好きなバンド「PHANTOM BEAT」の新曲。
ロックを歌うボーカルと、ラップ担当のRio様。
その二人の掛け合いが最高で、気付けば何度もリピートしていた。
「Rio様の新曲、最高っ……!」
思わず声が漏れた。
ラップは専門外だけど、Rio様の歌をカラオケで歌いたくて、新曲が出るたびに何度も練習している。
「きれいごとじゃ 救えない夜」
違う。
もっと低く。
自分の存在を叩きつけるように。
「――……」
息を落とす。
音に合わせて、体を揺らす。
リズムが外からじゃなく、内側から鳴っているみたいに。
「へぇ」
振り向くとそこにはグリーン役のキラキラ王子。
目を楽しそうに細める姿は、どう見ても獲物を前にした猛獣だった。
(聞かれた)
いえ、歌うのが私の本職だから、聞かれても何の問題もないのだけど。
趣味で歌っているのを声優の仕事仲間に聞かれるのは、なんだか妙に気恥ずかしい。
(……というか、なんでここにいるのよ)
さっきまで誰もいなかったはずなのに。
「面白いものを見れたよ」
(は?)
そう言ってグリーンが視線を移すと、控室の扉が開いた。
「お疲れ様でーす!」
「いい素材撮れましたね~」
スタッフがぞろぞろと入ってきて、茫然とする私に『隠し撮り企画』だと説明された。
(聞いてないんだけど)
というか。
(全部、見られてたの?)
さっきまでの自分を思い出して、じわじわと顔が熱くなる。
――その様子を撮影していたカメラに、私は気付かなかった。




