第二話 悪魔と鏡
「お、俺は、、趣味で悪霊退治をやっているものだ。」
咄嗟に出てしまった苦し紛れの一言。
「そんな嘘信じないわ」
赤髪の少女がキッパリと告げる。
相変わらず俺は剣を向けられている。
「本当に霊を退治できるなら学園が放っておくわけないもの。」
学園、、?何のことだろう。そんな話ガイルや魔王から聞いていない。
「嘘じゃない。現にこうして悪霊を払っただろう?」
冷静を装い何とか弁解してみるが、いまいち手応えがない。
少女の剣先は、微動だにしなかった。
だがしかし、ここで事を大きくして現世にいられなくなるのはまずい。
「よし、わかった。それなら今から一緒に来ないか?悪霊を退治するところを見せてやるよ。」
説明で納得してもらえないなら見てもらうのが一番だ。
「うぅおぉりゃあああああ!!」
赤髪の少女と共に閑静な住宅街を散策して悪霊を探していると案の定すぐに悪霊が見つかった。
疑いを晴らすためにいつもより力を込めて、悪霊にマジパンチをお見舞いしてやった。
それはもうカッコよく。我ながら素晴らしいパンチだった。
「確かに霊を祓えているわね。しかも素手で、、。」
俺のお祓いを見て、何やら少女は考え込んだ。
これで納得して見逃してもらえるとありがたいけど、、、
それが無理だというならこの女はここで始末しなければならなくなる。
できれば避けたいものだ。
何やらぶつぶつと考え込んでいた少女がこちらにパッと振り向いた。
「あなた名前は?」
「俺の名前はアス、、」
俺の本名はアスラだ。しかし現世では馴染みが悪い。何と名乗ろうか。
えーっと現世っぽい名前、名前、名前、、
「お、俺の名前はアキラ!神崎アキラだ!」
咄嗟に某有名マンガのタイトルであり主人公の名前が出た。
「アキラね。私の名前は朱鷲宮カエデ!あなたうちの学園に来なさい!」
「はい??」
そこから俺は半強制的に学園とやらに連れていかれた。
魔王にも強制されることが多かったけど、女の子に強制されることは初めてだった。
何だろう、嫌な気持ちがしない、、。なんだろうこの気持ち。
俺はこの時何かに目覚めたのかもしれないが、またそれは別のお話だ。
学園までの道のりで彼女に学園について色々と教えてもらった。
『聖堂学園』
現世に蔓延る悪霊に対抗する存在「エクソシスト」。聖堂学園はそんなエクソシストを育成する教育機関らしい。
エクソシストになるには霊が見えることが最も重要な素質らしい。
そしてその中でも装具を使わずに霊に攻撃ができるものは、「霊質干渉者」と呼ばれ非常に稀だそうだ。
まぁ、俺の場合は魔族だから同じ種族が見えるのも触れられるのも当たり前なんだけど、、、。
そして「エクソシスト」の素質があるものは学園の特殊なシステムで調べ上げられて入学案内が届くらしい。
最初に朱鷲宮が話していたのはこのことだ。
つまり朱鷲宮から見れば「エクソシスト」の素質があるにも関わらず、学園に気づかれず、入学もしていない俺が異質に見えたのだろう。
そんな学園があるなんて知らなかったし、親父も知っているのだろうか、、。ガイルも知らなそうだしな。
別に学園に入りたいわけではないが、ここで拒否してもことが収まることはない。そう感じた俺は大人しくついていくことにした。
そんなことを考えていると学園にたどり着いた。
「ちょっと待ってなさい」
職員室らしき部屋の前で朱鷲宮はそう俺に告げて、中に入って行った。
「ーーーということがありまして。現在その男を廊下で待たせています。」
朱鷲宮は自分が目で見たもの聞いたことをそのまま聖堂学園の先生方に話していた。
「そんなことがあり得るのか、、、。」
一人の教師がまるで、話が信じられないかのような顔をしながら呟いた。
この学園の歴史は古い。
それこそ科学が発展するもっと前から、名前は変われど悪霊を払うスペシャリストの育成機関として受け継がれてきた。
学園には常にエクソシストの素質のある者を感知できる仕組みがあったが、それが現在のシステムに変更して50年、一度も誤作動を起こすことなく機能し続けてきた。
それが今になって急に誤作動が起きるなんて。
教師たちが信じられないのも無理はなかった。
「ただ、朱鷲宮くんのことだ。間違いではないのだろう。」
また別の教師がつぶやく。
聖堂学園の2年生朱鷲宮カエデへは教師を含む全学園関係者から尊敬され、信頼される生徒であった。
持ち前のルックスに加えて、圧倒的なエクソシストとしての知識と戦闘能力、さらにそれに驕らない勤勉さ。
そして何より朱鷲宮家というエクソシストなら皆が知っている名家の長女である。
彼女の全ては同じ2年生を遥かに凌駕しており、まだ2年生に上がって1ヶ月だというのにも関わらず
単独での悪霊退治を認可されている稀有な存在だった。
そんな彼女が悪い冗談を言うはずもなく、それがまた教師たちを悩ませた。
「正直これは前代未聞だ。我々では判断しかねる。理事長の指示を仰ごう。」
おそらく教頭であろう教師がそう判断を下し、他の教師も満場一致で賛同した。
「ーーーなるほど。」
純白のスーツに身をつつみ、少し長い髪を後ろで括った鋭い眼光の男がそこには座っていた。
理事長だ。ただならぬオーラを放つ理事長には、付き合いの長い教頭といえど緊張感が拭えることはない。
教頭から全てを聞いた理事長は少し考えた後
「その少年と朱鷲宮くんをここに呼んでくれたまえ。」
俺は訳もわからずに今度は理事長室の前へと連れていかれた。
「理事長はとても厳格なお方だ。絶対に粗相のないように。」
理事長室までの道中に教頭と呼ばれるおっさんからそう聞かされていた俺は、少しビビりながらも理事長室を前にした。
「大丈夫よ、基本は私が受け答えするから。あなたは横で話を聞いていたらいいわ。」
そう俺に優しく語りかける朱鷲宮はまるで女神のようで、
「「カエデは優しいなぁ、、」」
おっと心の声のつもりが思わず口に出てたみたいだ。
「な、馴れ馴れしく呼ぶんじゃないわよ!、、、さぁ、入るわよ。」
言葉こそあれだが、いまいち怒ってるように見えない朱鷲宮を横目に見ながら俺たちは中に入った。
そこにいたのは教育機関の長とは思えないほど、威圧感のある男だった。
「君が神崎アキラか、、。」
少しの間の後、理事長はさらに口を開いた。
「君の話は聞いている。エクソシストとしての素質がある以上君の入学を拒否する理由はない。」
別に俺入学したいだなんて言ってないんですけど、、。
俺が口を挟む間もなく話が進んでいく。
「ただうちは言わば魔族と敵対する機関だ。侵入し内部から学園の崩壊を目論む魔族がいても不思議じゃない。
そこで我が校では入学する生徒や新しく入る教師には我が校に代々受け継がれるこの鏡で姿が映るのかチェックさせてもらっている。」
壁にかけてある布を理事長が取り払うとそこには古く歴史を感じさせる、だがそれでいて細部まで作り込まれた美しい鏡が埋め込まれていた。
俺は焦った。魔族は鏡に映らないからだ。
いや、これは教わりはしたが実際のところ試したことはない。
なぜなら魔界には鏡がないからだ。映らないなら鏡など無用だから当然といえば当然だが。
そんなわけで実際のところはわからないが、俺は魔族である以上鏡にはおそらく映らない。
もしここで映らなければ安全に屋敷に、それどころか魔界に帰れる保証もない。
くそ、どうする、、、。
正体がバレる前にここで暴れて学園から逃げることも考えたが、この理事長がいる限りそれも叶わない。
この理事長にはそう感じさせる何かがある。
急に連れてこられて、鏡の前に立たされて、お祓いなんてされて日には俺はもうおかしくなっちまうぜ☆
ただもうどうしようもない俺は、ヤケクソで鏡の前へ出た。
不敵に笑いながら理事長は俺に語りかけた。
「ふむ、魔族...というわけではないようだね。
歓迎するよ神崎アキラくん。今日から君は聖堂学園の生徒だ。」
俺は鏡に写っていた。




