第002話 オワタ\(^o^)/
「ゲームの初期設定が終わったら、普通は街に転送されるもんじゃないか?」
周りは見渡す限り木、木、木。どう見ても森の中。街には見えない。
IFPも不親切ではあったが、最低限の説明はあったし、最初に跳ばされるのは安全な街だ。今日の夢はずいぶんと性質の悪いゲームが舞台らしい。
――キーキーキーキー
――クワックワックワックワッ
どこまでも鮮明に再現された草木、動物の鳴き声、肌に感じる空気感、植物の生臭い匂い、口内に感じる味、その全てに現実のような生々しさがあった。
「それにしてもなんかスースーするな…………は、裸!?」
普通なら服を着ているので、手や顔以外に風を感じることはないはずだ。しかし、涼はなぜか体全体に風を感じていた。
違和感の覚えて見下ろすと、その先にあったのは一糸まとわぬの裸体。
「ナニが……ない!? ど、どこにいった、息子よ!!」
しかも、生まれた時から共に過ごしてきた相棒が股間になかった。思いきりかがんで覗き込んだり、体のあちこちを確認したりしてみたが、どこにも見当たらない。
そして、胸の辺りが膨らんでいる上に、全体的に丸みを帯び、今にも折れそうな華奢な手足をしている。顔は見えないが、どう見ても女の子の体だった。
涼はいつも武術の鍛錬と筋トレとランニングを欠かしていないので、現実ではボクサーのように鍛え上げられた体つきをしている。
今の体とは似ても似つかない。
「なんでこんなことに…………もしかして!!」
涼は自分の体が女の子になってしまった理由を考える。
思い当たるのはさっきの神の声の質問に答えなかったこと。神の声の質問の中に性別はなかった。つまり、性別変更が隠し要素だった可能性が高い。
「いらねぇ……」
現実のVRMMORPGでは色々な観点から性別変更はできなくなっている。しかし、この夢の中のゲームではそれが可能。そういうことらしい。
強い必殺技とか魔法とかが貰えると思っていた涼にとって期待外れも良い所だった。
「まぁ夢の中だし、考えてもどうしようもないか。何か適当に巻き付けて隠そう」
周りに人はいないので恥ずかしいわけじゃないし、気温も寒いわけでもないが、普段服を着て生活しているので、真っ裸というのは落ち着かない。
周囲の木々は現実では見かけないよう大きな葉をつけている。涼はとりあえずその葉っぱをむしり、器用につないで体に巻き付けて水着のように纏い、胸と局部を覆い隠した。
「これでよし。探検してみよう」
夢の中でIFPよりもリアルな世界に来たので、折角だから楽しむことに。
この辺りは廃ゲーマー故の切り替えの早さだった。
涼は森の中を歩き出す。
「すごっ……夢の中なのにめっちゃ体が自由に動く。IFPでさえ思い通りとまではいかなかったはずなのに」
涼はさらに夢の鮮明さに驚いた。
IFPで感じていたようなほんの少しの動きにくさや動作の遅れのような違和感も一切ない。ただ、女の子になっているせいで、いつもよりも視線が低く、現実とは大分感覚が全然違った。
ただの夢のなのに、ここまでの再現度には脱帽しかない。
涼は、こんな面白いゲームの夢ならどうせならクリアするまで覚めなければいいのに、とさえ思い始めていた。
「うわっ」
少し進んだ所で現実での体とのギャップのせいで、涼は躓いて転んでしまった。
「てててててぇ……体の感覚が違い過ぎるな……」
涼はどうにか体を起こして立ち上がる。
「ん? あれ……痛い?」
そこで涼は自分が痛みを感じていることに気づいた。
膝がジンジンする。
夢の中なら痛みなんて感じるはずがない。それなのに涼は痛みを感じている。その上、自分の体を見下ろすと、膝が擦りむいて血が滲んでいた。
技術が一番進んでいたIFPでさえ、細かい体の切り傷や血が滲むなどというエフェクト機能は実装されていない。
それに痛みも基本的にダメージ判定があった時にその部分に衝撃が走るだけだ。
それは1つの可能性を物語っていた。
「えっと……いや、そんなまさかな……あはははははっ」
ありえないはずの仮定が脳をよぎり、涼の乾いた笑いが森に木霊する。
じくじくとする痛みが、夢なんかじゃないと涼の脳に訴えかけていた。
それは今も感じている嗅覚や味覚といった部分でも同じだ。IFPでさえ、物の匂いや食材と料理の味までは再現できていないのに、実際に今それらを感じている。
夢の中でこれほど鮮明に五感を感じることはないだろう。
「これってもしかして……夢じゃ……ないのか?」
つまり、これまで起こった現象は紛れもない現実であることを物語っていた。
余りに非現実的な話だが、涼は女の子になってしまった挙句、どこか分からない場所に転移させられたようだ。
神の声による質問が夢じゃないなら、今の状態は最悪。質問にはジョブや初期スキル、それに武器や防具などに関する内容もあった。
素っ裸なのが装備に関係する質問を無視した結果だとすれば、ジョブや初期スキルに関する質問を無視した涼は……。
「オワタ……」
色々と察した涼は、その場に四つん這いになって項垂れた。
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