第012話 おんぼろ道場には何かある
馬車に揺られること十分、涼は冒険者ギルドにたどり着いた。
王国でも二番目に大きな街の冒険者ギルドは迎賓館のように立派で大きい。
「ありがとうございました」
御者に礼を言って馬車を降り、涼は冒険者ギルドに足を踏み入れた。
屋内はファンタジー風の酒場の雰囲気をそのままに、役所のような窓口がいくつか並んでいる。
周囲の視線が涼に集まった。
涼にはまだまだ自覚がないが、今の見た目はエルフもかくやというレベルの美少女。そこにいるだけで圧倒的な存在感を放ち、人の目を引いてしまう。
おっ、おっ、テンプレが来るか?
しかし、周囲の気持ちなど知らない由もない涼は、いちゃんもんを付けられて戦闘に発展するのではないかと、ワクワクとしていた。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」
「新規登録をお願いします」
「かしこまりました。こちらの用紙にご記入をお願いいたします」
ちょうど空いていた紫色の髪をしたおっとり美人の受付嬢の窓口に足を運び、手続きをしてもらう。
おおっ、読める。
差し出された登録用紙を見ると、明らかに日本語ではない言語で書かれているにもかかわらず、まるで日本語で書かれているかのようにスラスラと読むことができた。
書く方も日本語を書いているつもりなのに、自動的にこの世界の言語に置き直すように手が動く。
何ももらえなかった涼だが、流石に言語が不自由ではこの世界で生きていくのも大変なので、神様が温情を出してくれたのかもしれない。
「これで大丈夫ですか?」
「問題ありません…………こちらに血を一滴垂らしていただけますか?」
「分かりました」
記入に不備がないことを確認すると、受付嬢は手元で何かの作業を進めた後、一枚のカードと一本の針しか刺さっていない剣山のようなものを差し出した。
涼は躊躇いなく人差し指を少し刺して、ぷっくりと滲んできた血を一滴カードの上に垂らす。
その瞬間、カードが淡く光り輝き、数秒ほどで納まった。
「これで登録が完了しました。冒険者の説明は必要ですか?」
「お願いします」
受付嬢の説明によると、ラノベでよくある設定で、ランク制になっていて上からS、A、B、C、D、E、Fと七段階に分かれている。
依頼は、クエストボードと呼ばれる大きな掲示板に詳細が掛かれている依頼票が張り出され、それを受付に持っていって受ける形だ。
ただ、日ごろから供給が追いつかないような薬草の採集や、倒しても倒しても湧いてくる繁殖力の強いモンスターの討伐などは、特に依頼を受けずとも討伐証明部位と呼ばれるモンスターの体の一部を持って来れば、その数に応じて報酬をもらうことができる。
また、当然最初はFランクから始まり、依頼達成数、依頼人からの評価、依頼達成率、ギルド貢献度などを総合的に見てランクアップしていくらしい。
ただ、ランクアップ条件は物語でよく見かける設定よりもシビアで、上に上がるためにはそれなりの実績が必要になる。
この辺りは非常に現実的だ。
そして、それはIFPの冒険者の設定と同じだった。
「説明は以上です。他に何か質問はございますか?」
「それじゃあ、警備がしっかりした宿を紹介してもらえますか? 多少高くなっても大丈夫です」
「かしこまりました」
説明を聞き終えて冒険者カードを受け取った涼。
これで身分証を手に入れた。後はこれから拠点とする宿が必要だ。
涼は強い者と戦うのは好きだ。寝込みを襲われても対処できるように訓練も積んでいる。しかし、寝る時はゆっくり寝たいし、折角戦うのならお互いに万全の状態で戦いたい。
懐も温かいため、安心して眠れる宿を紹介してもらい、冒険者ギルドを後にした。
結局冒険者ギルドで絡まれることはなかった。涼はそれが少し残念だった。
「どこだよここ……」
受付嬢が描いてくれた地図を頼りに紹介された宿を探すが、一向に見当たらない。
そして、あちこち彷徨っているうちに、もはや街のどのあたりに居るのかも分からなくなっていた。
「はぁ、誰かに聞いてみるか……」
うろうろと探し回っていたが、見つかりそうにないので、自力で探すのを諦める。
しかし、今自分が居る辺りには人がいないため、一度大通りに戻ることを決めた。
涼は人の気配がする方に向かって歩いていく。
「ん? ここは……」
その途中でひと際目を引いた建物。
それはさびれた武家屋敷のような見た目をしていて、ファンタジー風の街並みの中では異質だった。
そして、以前はさぞ立派だったであろう屋敷の門には『雷華流道場』という看板が飾られている。
「もしかして道場か? これは思いがけない収穫だな!!」
涼は元々宿を決めたら、街を散策しつつ武術を習える道場を探すつもりだった。
しかも、今目の前にあるおんぼろでさびれてしまったような道場を。
なぜなら、IFPで闘気と呼ばれる、人が元々体の内に持っている不思議な力を解放することができたのは、そのおんぼろ道場で修行をしたからだ。
ここはIFPによく似た世界だ。試してみる価値はある。
そう思って探すつもりだったのだが、棚から牡丹餅、探す前に見つかった。
この幸運を逃すつもりはない。
「ちょっと寄ってみるか。ついでに宿の場所も聞いてみよう」
涼はもう一度ここに来る自信もないし、ワクワクした気持ちを抑えきれないので、早速道場の門を跨いだ。
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