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ファッションショーは聞いてません

「さっそく案内、と、いきたいのですが...」


 ミドラン王女はヒナタの容姿を上から下へ、下から上へと見る。

 無作為の延ばされた髪は目にかかるのを誤魔化すように分けているだけだ。服装も日本の冬間近の秋の格好で、特にオシャレをしているとかではない。


「少し身だしなみだけ整えさせていただきますね」

「そうなりますよね」


 ヒナタも流石に自覚しているので、ため息をつきながらも連れられるがまま部屋を移動した。移動と行っても数部屋隣に移動するだけだ。


  ∮ ∮ ∮ ∮ ∮


 部屋に入るといい感じに貫禄のある絵に描いたようなおじいさんが凛とし佇まいで待っていた。


「ゼクト、本日はこの方のコーディネートをお願いいたしますわ」

「かしこまりました」


 ゼクトと呼ばれた男はルーナ国王家につかえる執事の一人だ。

 ゼクトは細い目をうっすらと開けヒナタを見た。


「ではまず髪の方から整えさせていただきます」


 そう言うと、あっという間にヒナタは椅子に座らせられ、美容エプロンを付けられていた。


「ではどのようにセッいたしましょうか?」

「わたくしと一緒にいても恥ずかしくないようにして頂戴」


 ヒナタが答える間もなくミドランが言った。いうだけ言って用事があるからと部屋を出ていった。

 ヒナタは「セットしなくていいようにしてほしい」と心の中で叫びながら斬り終えるまで目を閉じることにした。


 時間にして焼く15分ほどだろうか。


「終わりました」


 ヒナタが目を開けると、鏡に映っていたのはクラスに一人は良そうなイケメン枠あたりの顔だ。しかし、ヒナタはそんないいようにとらえていなかった。


「これってセットしないとどうなります?」


 天パがこれでもかと抑えられている髪型を憂いていた。ヒナタの意見を聞く間もなくエプロンを外されていた。


「ヒナタ様の場合、2~3時間ほどに一度セットしていただかないとこの形にはなりませんね」


 ヒナタはあからさまにがっかりした。


「まだ終わりではございません」


 ヒナタは一瞬希望を持った。このまま髪形を固定する魔法でもあるのかと。しかし、そんなものはなかった。ゼクトが用意したのはなん十着もの貴族が着るような服だった。


「この中からお好きなものをお選びください」


 ヒナタは服を端から端まで見ていく。しかし、赤や朱や黄色の服ばかりだ。普段は寒色の服しか着ないのに、暖色ばかりだ。


「俺にそんなセンスはないんで何でもいいです」


 色だけではない。すべてがらも違ったのだ。どの服がいいも何もどの服も着方が分からないので選んでもらうことにした。


「それでは似合うものを選定いたしますのですべて着ていただきましょう」


 ヒナタはその瞬間公開した。何でもいいから適当にこれとかそれとか言っておけばすぐに済んだことだったろうに。

 ヒナタが一着目を手に取ろうとしたとき、戸が開いた。


「終わりましたか?」


 ミドランが戻って来たのだった。


「なかなかいいではありませんか。これから洋服を選ばれるのですね。どれになさるのでしょうか?」


 冷静すぎる彼女の言葉に、取りあえず手前の服を取ろうとしたヒナタの手が止まった。


「決められず悩んでおられるそうです」

「それならわたくしが見て差し上げますのですべて着せて差し上げて」

「かしこまりました」


 そして昼過ぎに始まったヒナタの服の選定は日が沈むまで続いた。当然の様に途中、髪のセットが挟まり時間を浪費していた。

 最初はいろいろ言われた。立ち方、姿勢、表情など、似合う似合わないではなく根本の指摘から始まったのだった。

 結局、何十着も来たのに、選ばれたのはほんの3着だけだった。それも最初の方に着た服ばかりだった。


 ようやく服装が決まったのでみんなで食事、にはならなかった。

 ヒナタはゼクトに食事のマナーを叩きこまれるために別室に連れていかれたのだった。ヒナタはこれをすんなりと受け入れた。「王家と食事とかどんなご身分だよ」と言いたげだが、それを押しつぶして愛想笑いで了承したのだった。

 しかし、この後すぐにヒナタは後悔した。

 マナー講座、名前だけ聞けば小学校でもやりそうな名前だ。だがその内容はそんな生易しいものではなかった。常に何か言われ続け、他から見れば食事を強要されているように見えなくもないだろう。ヒナタもそのような気がしていた。


  ∮ ∮ ∮ ∮ ∮


 翌日、ヒナタはミドランに連れられて研究所に来た。研究所と王城は歩いて数分ほどの距離にあった。

 王女が来たというのに研究所の様子は普段と変わらない。それもそのはずだ、ミドランは暇さえあれば研究所に来ては何をしているのか聞きまわっているので、研究所にいるみんな慣れているのだ。


「ミドラン王女殿下、本日はどちらを見てわまられるのでしょうか?」


 薄紫色の少し髪の長めの男が声をかけてきた。イケメンというほどではないが彼女がいそうと偏見を持てそうな顔だ。


「所長、本日はこの方が研究所にご興味があるそうでご案内に」


 本来ならここで何か挨拶をすべきところをヒナタは表情一つ変えずに、ただただ立ち続けていた。ヒナタも何か言うべきだと思ったものの「話し方は何一つ教わってないのにそんな振りされてもしゃべれないんだけど」という考えが混ざり、だんだんと目が回って来た。


「そうですか。では彼の案内はわたしが引き継ぎますので殿下はご自由にお回りくださいませ」

「ありがとうございます。それではわたくしは父の公務の様子を診てまいりますので失礼いたしますわ」


 そう言ってミドランは速足で王城に戻っていった。

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