1 『異変』
椅子に座り、ゲーム機の電源を入れる。
訓練が終わった翌日、俺達は自由行動の許可をもらった。仕事に行ったり、学校に行ったり。
俺達だって一人の人間だ、生活がある。
ナンバーズとわかり、確保され、訓練まで。濃い一日だった。
身体が疲れていたのか、深夜に帰宅してからすぐに眠った。そして現在、目が覚めた俺は昼間からゲームするために椅子に座っている。
ヘッドホンをかけて、フレンド欄を開く。
「お、またこの時間帯か・・・」
フレンドの欄には白銀とランカの名前があった。
招待を送ろうか迷っていると、向こうからの招待が飛んでくる。
「よし、やるか・・・」
ボイスチャットを繋ぎマイクの電源を入れる。
「おはようございます」
俺がそういうと、明るい声で二つの返事が飛んでくる。
「おはようございますー」
「おはようございます、神楽さん」
相変わらずこの3人だ。
そこでランカが口を開いた。
「神楽さん昨日の夜オンラインになっていませんでしたね?なんかあったんですか?」
「いやぁ、昨日は忙しくて・・・」
ナンバーズだと言うのは伏せておきたい、この関係が崩れるのは怖かった。
「あー・・・残業的な?お疲れ様です」
ランカがそう言った。
「どもっす」
嘘をついた罪悪感と、バレずに済む安心感が混ざり、複雑な気持ちになる。
「まぁ、確かに珍しいですよね〜」
白銀がそう言った。
と言うのも、休みの日は昼間にゲームをするが、仕事の日は夜にやる。 このサイクルを繰り返していたら、いつしか二人に出勤か休日かバレてしまっていた。
「ま、まぁ。取り敢えずランクしましょ!」
俺はこの話題を早く変えたい一心で、半ば無理やり話を切り出した。
「お、やる気ですねぇ」
ランカがニヤニヤとしているような声色で言う。
「ランカさん、その笑い方やめてくださいよ!」
俺はそれに返事をした。
準備完了のボタンを押し、マッチが成立するのを待つ時間で、ランカがあることを話した。
「あ、そういえばナンバーズの4番って知ってますか?」
ランカがそう言った。
もう出回ってるのか・・・昨日の今日だぞ・・・
「あぁ、日本に一桁が現れたみたいですね。昨日の銀行強盗のナンバーズを止めたとかなんとか」
その話題に白銀が反応した。
「でも、今ってスマホとかでなんでも出るじゃないですか?それこそ人身事故だったり、殺人事件の映像だったり」
ランカがそう言った。
「あぁ、出ますね。僕は見たいとは思いませんが・・」
「いやいや、私もや!」
白銀の反応にランカがツッコむ。
「なんでも出る時代なのに、4番の情報は一つもないんですよ」
なるほど・・・
神宮寺が言っていた個人情報の保護とはこれか・・・
軍が動くと凄まじいな。
マッチが成立し、戦場を駆け回る。
「あ、ソイツ瀕死です」
「了解」
冷静に対処していく。
戦争ゲーム・・・数字が現れるまでは憧れていた。英雄のように戦闘に立って戦う。仲間に慕われ、どんな困難も乗り越える主人公達に。
つまらない日常を楽しくしてくれるのはゲームだった。それは刺激が強ければ強いほど、俺は人生を楽しめてるような気がした。
ヘッドホンから銃声がする。
白銀とランカの声も・・・足音や武器の音、異世界だと思ってた。
ずっと非日常に憧れていた。
俺が描いた非日常はキラキラとしていて、常に必要とされていた。 実際は違ったが。
瞬間、ヘッドホンから聴いたことのない音が響く。
「ん?なんの音ですか?」
俺が聞くと白銀が答える。
「あ、やっぱり聞こえましたよね? ランカさんですか?」
白銀に名前を呼ばれ反応する。
「ん?なになに。戦闘に集中していて聴いてなかったです」
まだ音はなり続けている。
ギチギチ・・・いや、ギューと言うような。 金属を無理やり捻じ曲げてる音だ。
「なんの音ですかね?」
俺がそう言うとランカが言った。
「あ、私かも。た・・・!」
ランカが何かに驚いたように一瞬声が高くなり、音が聞こえなくなる。
「あれ、ランカさん?」
「ランカさーん」
返事はない。それから白銀と数回呼んだが・・・特に反応はなかった。 すると突然ガタガタと暴れるような音が響く。
「かぐ・・・!白銀さん!」
ランカが何かを言っている。
物音は次第に大きくなる。
大きなものが倒れる音や、何かが割れる音。
食器だろうか。
耳を澄ませていると、ランカの声がヘッドホンの奥で響いた。
「助けて!」
はっきりと聞き取れた。
間違いない。 助けてと。
「ランカさん⁉︎何かあったんですか⁉︎」
ヘッドホンから白銀の声がひびき、耳が痛む。
だが、ランカからの返事はない。
押し倒されて暴行か、拉致か・・・
最悪の事態は考えないことにした。
「神楽さん!警察に電話!助け呼ばないと!」
違う。何かが違う。
多分相手は普通の人間じゃない。
「違う、白銀さん!あの音、多分鉄製の扉をこじ開けたんだ。真昼間からの犯行だし、逃げ切れる自信があるんです!だったら相手はナンバーズの可能性が高い、警察は役に立たない!」
俺の言葉に白銀が息を呑む。
「だったらどうするんですか⁉︎ 友人見捨てるんですか!」
「ナンバーズの本部に連絡します!俺たちは合流して、ランカさんを助けましょう!」
スマホを取り、神宮寺に電話をする。
数秒の後、神宮寺の声がした。
「はい、神宮寺です。どうした?」
落ち着いたら声色、いつも通りだ。
「知り合いがナンバーズに襲われてる、助けるために力を貸せ!」
俺の言葉に神宮寺がため息をつきながら言った。
「ダメだ。私情での出撃は許可出来ない。それに、まだスレイヤーズは公に発表されていない」
「一般人助けるために結成されたんじゃないのかよ!」
ダメだ。と低い声で一蹴されてしまう。
「なら俺だけでいく」
「勝手な行動をするな!お前の行動一つで今後のナンバーズの扱いが変わるかもしれないんだぞ!わかってるのか⁉︎」
神宮寺が叫んだ。
かなり怒気のこもった声だ。
「しらねぇよ・・・俺はただ、助けたいだけだ。 名前も顔も知らない数万人より、笑って遊べる友達一人の方が何千倍も大事だよクソ野郎」
薄々勘づいていた。スレイヤーズは軍だ。私情では動かせない。 だが、もしかしたらと思った。
「白銀さん、合流しましょう。確かランカさんって大阪に住んでましたよね・・・飛行機ならすぐに行けます」
「合流して、現場に行って・・・それからどうするんですか⁉︎ 相手はナンバーズ、喧嘩すらしたことないような男性二人が行って、なんになるんですか!」
白銀はかなり焦っている様子だ。
いつもは落ち着いた口調で話す白銀も今回ばかりはそうもいかないらしい。
「神楽さん、なんであんたそんなに落ち着いてるんだよ⁉︎友人が・・・」
「白銀さん、よく聴いてください」
もう言わなきゃ・・・白銀は動かないだろう。
絶望だけじゃ人は動けない。
「俺はナンバーズです。 詳しいことは合流してから。いいですね?」
俺がそう言うと、荒い息づかいだった白銀が落ち着いていく。
「・・・は? ナン・・・バーズ・・・?」
「合流しましょう。ランカさんを助けるんです。いいですね?白銀さん」
ヘッドホンの奥からガダンと音が響いた。
白銀が勢いよく椅子に座ったのだろう。
「勝算はあるんですか?」
「さぁ?相手の能力がわからない以上、はっきりとは言えません。 でも・・・助けます」
その曖昧な言葉に白銀がため息をつく。
「はぁ、わかりました。合流しましょう」
「なら、早く準備しなきゃですね」
落ち着け、焦ってるのをバレるな。
俺は椅子から立ち上がり、クローゼットを開ける。
支給された軍服を手に取り、着てみる。
サイズはピッタリ、いつ測ったんだろう。
黒い刀の柄を腰にかけ、銃をホルダーに差し込む。
軍の身分証を持ち、ドアノブに手をかける。
「よし、行くか」
初任務は名前も顔も知らない友人の救出。
目的地は・・・大阪