8 『戦闘訓練2』
不動が俺の背中を何度も戦いながら言う。
「情けないなぁ!」
「うるさいですよ・・・」
と言うのも、20代の成人男性が女子中学生に負けたのだ。馬鹿にされても仕方がない。
皇にさえ腹を抱えて笑われるレベルだ。
正直、自身はあった。 だが、再生能力が高いと言うだけで、痛みが感じないわけではないし。
『痛み』と言う恐怖からの支配は逃れられそうにない。
手も足も出なかった。 一歩及ばない。ではなく、幾つも、数えきれないくらいの何かが俺にはなかった。
「次、不動さんと皇くんですよ。 準備してください」
そう言うと、ささっと準備運動を終え、歩いていく。
「不動さん、俺負けねぇっすから!」
「俺だって負ける気はないよ」
ともに高め合う。これが青春か?
俺が経験しなかったせいか、その後ろ姿は眩しく見えた。
座りながら背中を見送る俺のそばに、有栖川が大きな端末を持ってくる。
「一緒・・・見よう」
どうやら、観戦をしたいと言っているようだ。
「おう・・・」
気まずい。
あまり話さない子だし、今の若い子はどんな話をするのだろう・・・
端末に不動と皇が映る。
「どんな闘いになるかな?」
「・・・皇には・・・勝てない・・・」
有栖川はそう言った。
見た目だけじゃわからない何かがあるんだろうか。
「あなたは・・・恐怖に・・・支配されすぎ・・・。死を・・・恐れないで・・・」
有栖川が端末の画面を見ながら言った。
「人間は臆病くらいが長生きするんだよ、有栖川さんは強いね」
俺がそう言うと、ため息をつきながら俺の瞳を覗き込むように見つめてくる。
「私は・・・怖くない・・・慣れてるから・・・」
恐怖を捨てたと・・・そう言うのだろうか。
死にたいしての恐怖は消えるはずがない。それが消えてしまっては、生物としての何かが欠落した状態になってしまう。
刹那、訓練開始の合図のように銃声が鳴り響く。
突然の音に身体が跳ね、端末をみると、不動がすでに走り出していた。
一方の皇は目を瞑ったまま動かない。
「なんで動かない?」
「音を・・・聞いてる・・・」
有栖川はそう言うが、障害物も多く、音は遮断されやすいはずだ。
それに、かなりの距離が離れてる。
叫び声ならともかく、足音は聞こえないはず。なんせ、俺には聞こえてない。
「さっきの銃声は?」
「あれは・・・皇の・・・音を・・・反射させて・・・地形を・・・把握したの・・・」
なるほどなるほど、って出来るかい!
聞けば聞くほど化け物じみてきた。
皇の『聴力』はそこまで強力な者なのか?
「湊さん・・・不動さんが・・・捉えた」
端末に目を落とすと、不動は皇の頭上にいた。
距離にすると20メートルもないかもしれない。
不動が落下の勢いに乗せるように皇に両刃剣を振り下ろす。
かなりの速度、視認してからの回避は不可能。
それでも、皇は目を閉じたままだった。
「何してるんだ⁉︎」
「見てて・・・」
皇の脳天に両刃剣が叩き込まれる瞬間、皇が身体を逸らして回避をした。
目を瞑ったままだ。
「なんで・・・」
端末を見続ける。
何が起きているのかを把握するためだ。
不動はありとあらゆる角度からの攻撃を繰り返すが、それは一撃も当たらずに皇に回避される。
だが、皇は回避しているだけだ。一向に反撃をしない。
「動く・・・」
有栖川がそう言った瞬間、皇の身体がグニャリと曲がった。
正確にはそう見えただけだ。
そのくらい早かった。
数発、不規則な皇の攻撃が不動を襲う。
だが、見る能力は凄まじく、かなり余裕がある回避をした。
だが、それでも不動は驚いている。
「なんなんだ今の⁉︎」
不動の声が響いた。
姿は見えない、表情は端末でしか確認ができない。
だが、声だけで十分受け取れるほどの焦りが伝わってきた。
動体視力・・・不動の目を持っても、驚きと焦りを感じさせる攻撃だったのだ。
「そこまで!」
神宮寺から声がかかる。
正直、これ以上やっても決着はつかないだろう。
体力が尽きるまでの耐久戦になるのは目に見えている。
フィールドから出てくる不動と皇を見る。
汗一つかかずに、不動はあれだけの動きをしていた。皇は息を切らさずに不動の攻撃を全て回避した。
番号は強さじゃないのか?
・・・まぁ、一撃必殺の銃も当たらなければ鉄の塊だ。 今の俺はそう言う状態なんだと・・・実感した。