7 『戦闘訓練1』
神宮寺が確かに言った。
訓練をすると。
「よし、これから戦闘訓練だ。お前達で対戦相手を自由に選べ、そこで戦ってもらう。 別れろ」
そう指示され、ペアを作る。
「どうする?」
俺がそういうと、全員が首を傾げた。
数秒の静寂。最初に口を開いたのは皇だ。
「俺、不動さんと戦ってみたいっス。いつも訓練している不動さんは強いと思うんすよね・・・男ならやっぱ、自分より強い相手じゃないと!」
その言葉で対戦相手が決まった。
「皇!いい心意気だ!」
不動が笑いながら皇の背中を叩く。
鈍い音と共に皇の身体が跳ねた。
「やめてくださいよ不動さん!びっくりするじゃないすかぁ!」
じゃれあってる二人を横目に有栖川を見る。
「じゃあ、君は俺とだね。それでいいかな?」
そういうと、有栖川はチョコレートを一粒口に放り込み、頷いた。
「別に・・・構わない」
有栖川はこちらにほんの少しだけ視線を向けてそう言った。
なら次は順番だな。
「どっちが先にやる?」
その質問に不動が答える。
「湊君、君たちが先でいいかな? 君の能力がどんなものか見てみたいんだ」
と言っても、再生は見せたし、刃のない武器なら再生のしようがない。
「じゃあ、やりますか」
俺がそういって神宮寺の方を見ると、新しい端末をポケットから出して操作し始めた。
「決まったみたいだな。模造の武器だが、限りなく近くしている。銃は銃声はなるし、弾丸の速度は実銃と変わらない。 だが、君達の身体は常人より頑丈だ。
弾丸こそ貫通するが、偽物なら痛みだけ、酷くて骨にビビが入るだけだ。 やり合いたまえ」
話しながら端末を強く叩く。
すると、床が上がり、武器が出てくる。
どの武器も先程選んだ武器と瓜二つの模造の武器が出てくる。
「適当に位置について、自分達のタイミングで始めろ。敵はヨーイドンを言ってくれないぞ」
有栖川と俺は武器を手に取り、互いが見えなくなるところまで行く。
フィールドは広く。障害物が多い、見失えば見つけにいだろう。
頼りになるのは足音か・・・
開始の合図はなく。見えなくなって仕舞えば相手が動いているかどうかもわからない。
そんな中、神宮寺の声が響く。
「障害物は壊してもいいがなるべくやめてくれ!修復がめんどくさい!」
なんだその理由。
まぁ、そう言うことならまぁ、加減はしよう。
相手は子供だしな。
神宮寺の声の反響が止み、完全な静寂を作り出す。
訓練なのに異常な緊張感が漂う。
汗が滲み、シャツが張り付く。
ちなみに、軍服はまだ着なくていいとのことだったからまだきてない。
「足音は・・・ない。息もなし・・・」
視界は障害物に遮られてる。
移動しないと接敵しないかもしれない。
それとちなみに、この訓練は観戦ができる。
どうやら部屋の至る所にカメラがあるらしく、当事者以外は端末の画面を見ながら俺達の行動を把握できるらしい。
後で不動と皇の試合を観戦しよう。
動き出さないと、埒があかない。
だから動くことにした、幸い障害物が多いから身を隠しながら移動ができる。奇襲はないだろう。
歩き、障害物に隠れる。
FPSでは被弾を避けるのが勝つまでの近道だ。
被弾さえ抑えれば十分に勝機はあるはず。
まぁゲームの話だけど。
瞬間、右から足音がした。
音に惹かれ、右を向くと杭が3本ほど飛んできている。咄嗟に頭を右に倒す。 すると背後の障害物に刺さった。
3本は全て顔を目掛けて投げられていた、回避に失敗したら眼球の一つは確実に潰れていたかもしれない。
音がした方向には何もいない。
投げたのは有栖川のはずだ。
足音も息の音もしない・・・ なるほど、暗殺特化は伊達じゃないな。
瞬間、背後から服の擦れる音がする。
振り返ると有栖川の姿はない。 なら少し上
見上げるとナイフを持った少女の姿が見えた。
「っ・・・バレた・・・」
有栖川が小さく呟く。
振り下ろされたナイフを銃で受け止める。
ガチガチと音を立てる。
有栖川は足が地についた瞬間、空いている左手で杭を持ち、投げてきた。
さっきまでは持っていなかったはず・・・いつ出した?
どこに隠してた?
杭に気を取られ、視線が下に落ちる。
有栖川は、その隙を見逃さなかった。
ナイフをずらし、受け止めていた銃から外す。
杭を回避して身体の軸がずれた瞬間、有栖川の姿が視界から消え、突然視界が回転する。
足払い・・・そうだ。ナンバーズは身体能力が上昇している。筋力も脚力も全てだ、それに+で超特化型の能力が付属している。
つまり、有栖川の観る能力が消えても、常人より遥かに強い。
手加減なんてしていられない。
「ぐっ・・・!」
全身に力を入れ、倒れる際の衝撃に備える。
身体が床に当たり、痛みに耐えた瞬間、有栖川の靴が視界に入る。
あ、これは蹴られるわ。
顔面に激しい鈍痛が走ると同時に、身体が障害物を破壊しながら床を滑る。
身体が止まり、血が垂れる。
鼻が折れたか? 鼻血が止まらん。
だが1秒もしないうちに傷が回復した。
「なるほどね」
俺は刀の柄を振るい、刀身を出す。
銃を構え、有栖川に向ける。
撃って大丈夫か?・・・当たったら痛いぞ、コイツらは再生しない。治療に時間がかかるかも。
「そんなこと・・・考えるの・・・無駄」
俺の考えを読んだ有栖川が走り出し、目の前に来る。 かなりの速度、今のだけでも陸上の走り世界大会を簡単に優勝するくらいの速度は出ていた気がする。
あまりのスピードに驚き、拳を前に突き出すが、あっさりと回避されてしまう。
「チッ」
回避した有栖川の身体が華麗に周り、俺の顔面にナイフを突き立てようとする。
それをギリギリで掴みとめた。
「ん・・・力・・・強い」
力の拮抗。
成人男性の全力が、女子中学生と同じくらいだ。
ナンバーズの身体能力の向上は想像以上に強い。
向上の仕方も個人差があるのだろうか。
瞬間、有栖川の視線が下を向いた。
それに釣られて俺も下を向いてしまった。
視界には飛んでくる杭。
回避しようとナイフを掴む手を離し、距離をとる。
これがまずかった。
視界が外れた瞬間、腹に強い痛みが走る。回し蹴り、かなり運動能力が高いな。
痛みには耐え、衝撃にも耐えた・・・だから反撃だ。
俺は刀を振るうが、掠りすらしない。
最終的には、絡め取られてしまい、床に打ち付けられる。
「そこまで!」
神宮寺の声が響いた。
それは俺達の訓練が終わった合図だ。
有栖川は俺から手を離す。
「すごいな・・・一発も当たらなかった」
俺がそう言うと、有栖川は自身の目を指差した。
「人が・・・何かをする・・・時は・・・必ず理由がある。・・・あなたは・・・目でよくわかる・・・」
有栖川はそう言いながら、チョコレートを口に入れる。
これが観る能力・・・無意識のうちにいろんな情報が入ってくるのか・・・
まだまだ、勝てそうにない。