5 『特殊部隊』
ポタポタと血が床に落ちて弾ける。
痛みに反応するように額に汗が滲む。
弾けた血が逆再生をするかのように一点に集まり、一粒の血に戻り傷口に戻る。
ジュワッと傷口が治り、それを見た3人が驚いた顔をする。
「これが再生・・・」
不動がつぶやいた。開いた口が塞がらないとはこの事だろう。
「次から撃つ時は言ってくださいよ」
「フンッ、言ったら嫌がるだろう?」
嫌がるとわかるならするなよな。
「よし、一つ上に行くぞ。不動、お前もだ。私はあまり時間がない、汗を流すのは後にして今は拭くだけにしろ」
そう言うと先に行ってしまう。
不動が汗を拭き、ついてくる。
足音が5人分響く中で不動が小さな声で質問してきた。
「なにするか知ってるか?」
「知りませんよ。俺だって急に連れてこられたんです」
俺がそう言うと、不動は皇と有栖川の方を見るが、二人とも首を横に振った。
エレベーターに乗り、一つ上の階に上がる。
エレベーターが止まって扉が開くと薄暗く長い廊下が見えた。ホラーゲームなら確実に何かに追われる。そんな雰囲気プンプンの廊下だ。
廊下を歩いていくと、自動扉が見えた。
神宮寺は自動扉の横にあるスキャナーに自分の手帳をかざす。
機械音がなり認証を知らせると、扉がスムーズに開いた。
中に入ると、明るく馬鹿みたいに広い空間がある。
障害物やバリケードのようなものが見られて、サバゲーのフィールドのような場所だ。
だが、確実に違うところは、正方形のこの空間の四方の壁に、サバゲーのフィールドのような障害物が設置されている事だ。
なにもわからずただ広い空間を見つめる俺たちを見兼ねた神宮寺がため息を吐きながら口を開いた。
「ここは訓練施設だ」
その答えに、俺は気になった事を投げかける。
「なんでこんなに広いんですか?四方にあるのもフィールド・・・ですかね?」
神宮寺は俺をチラッと見た後、側壁についたフィールドを指差しながら言った。
「ナンバーズの能力は身体能力の向上。跳躍力が向上してる場合は忍のように高所からの攻撃もあり得る。障害物が多いのは隠れたりできるように。実戦向きに設計した」
「なるほど」
神宮寺は胸のポケットから端末を出してなにやら操作を始めた。
端末をポチポチといじりながら、俺たちの方には視線すら向けずに口を開く。
「お前達、武器は何がいい?」
その質問に無意識的に声が漏れてしまう。
「武器?」
神宮寺の突拍子もない質問に、首を傾げる。
「お前達は身体能力が高いだけの人間だ。湊、お前だって再生はするが、頭が離れたらそこで終わり。 お前達は特別だが、死・・・と言う共通概念からは逃げることは出来ない」
神宮寺の言葉を聞きながら不動を見ると、不動は肩をすくめ、小さく首を横に振った。
その光景をチラッと神宮寺は見た。
「あぁ、説明してなかったか。とうとう準備が整い計画が動き出した。不動、皇、有栖川には1ヶ月ほど待ってもらっていたな」
神宮寺は俺たち全員を見た後に腕を組みながら言った。
「今日からお前達は『特殊能力者制圧部隊』通称『スレイヤーズ』に所属してもらう。 特殊能力者の制圧や確保、抹殺を目的とする部隊だ」
初めて聞かされた情報に驚く。
何言ってんだコイツ。
そんなことは気にせずに神宮寺が続ける。
「先程も言った通り、お前達は身体能力が高いだけで簡単に死ぬ。だから、死なないために武器が必要だ。そのために選べ」
入隊は決定事項なのか?めちゃくちゃだ。
皇と有栖川は特に反応がないし、不動は頷いている。
「入隊を拒否した場合は?」
神宮寺はこの質問を予想していたのだろう。
ニヤリと笑って口を開いた。
「特にない!」
罰せられる事はないのか・・・なら入隊は断ろう。
「だがメリットはある」
神宮寺がそう言った。
メリット・・・
「どんな?」
またこの質問も予想していたのだろう。
ニヤリと笑って、話し始める。
「まず、お前達の個人情報が晒されないように手配しよう。 もし第三者によって拡散されていた場合はネット上にある情報の抹消に全力を注ごう」
最初に提示したメリットだ。まず・・・と言っているからまだあるのだろう。
「次に、家族の安全だ。 第三者によって住所が開示される事もあるだろう、その場合秘密裏に別の住宅を用意しても構わない」
これはありがたい。
インターネットが進みすぎた現代は情報社会。
情報が大事と言いながら、プライバシーを守らない人間が多い。
面白いからと撮った動画は無許可だったりする。
自身には特に不利益が無いからとやりたい放題な現状はわかっている。
「さらに、お前達の給与的な面だが・・・命がかかる仕事だ、死んだりもあるかもしれん。 家賃や電気代など、生活する上で必要な出費は全て会社からだそう。もちろん、家族の分もだ。別居していようが、血のつながりが証明出来るなら構わない」
その後、神宮寺の目が鋭くなる。
「好条件だが、一つ奪う物がある」
神宮寺は低い事で言った。
「奪う物?」
俺はわからずに質問をする。
その質問に神宮寺はこちらを見つめながら答えた。
「時間と自由だ、デート中だろうが学校に行っていようが、買い物中だろうが料理中だろうが、要請があったらすぐに出撃してもらう」
そう言った後、神宮寺はゆっくりと頭を下げて話を続けた。
「ナンバーズによる犯罪は増える一方だ。正直、警察や軍じゃ太刀打ち出来ないのが現実。 幾らの兵士を導入しても皆殺しにされて敵は無傷なんて事は良くある。 だから、お前達に助けて欲しい。 頼む」
数秒・・・数分か?長く感じる静寂が流れる。
力を持って、裁くものが存在しないとわかれば、犯罪を犯したい放題かもしれない。
でも・・・それでも・・・
俺の考えを弾くように静寂を切ったのは、有栖川だった。
「いいよ・・・やる。どうせ・・・私はここ以外じゃ役に立てそうに無い・・・それに・・・悔しい思いと・・・悲しい思い・・・見えたから・・・」
有栖川がそう言った。
次に口を開いたのは皇だった。
「これって、学費とか出るんすか?出来れば妹と弟を大学まで行かせたいんすけど。今の稼ぎじゃキツくて、それに母親は俺が小さい頃から一人で育ててくれました。少しは休ませてやりたいんす」
皇の言葉に神宮寺が頭を上げ、皇を見つめる。
「あぁ、手配しよう」
「なら決まりっすね」
神宮寺の言葉を聞き、皇は笑いながら言った。
次に話始めたのは不動だ。
「小さい頃から人を助ける仕事がしたかったんだよな、もちろんやるさ」
不動は歯を見せ笑う。
3人が俺の方を向く。
「湊さん。君はどうする?」
不動が俺に言った
「俺は・・・」
普通に好条件だ。
やらない理由がない。
「やります」
俺はそう答えた。
好条件でやらない理由がない。
そして、とある目標がある事、それはこの世界に入れば達成出来るかもしれない。
だが、それは伏せておこう。
「ありがとう・・・」
神宮寺が言った。
顔が少し明るくなっただろうか。
「では、『特殊能力者制圧部隊、スレイヤーズ』結成だ!」
これが、俺の物語の始まりである。