3 『初戦』
93番が投げた鉄の玉は、凄まじいスピードで俺を捉えた。
さっきみたいに掴み取れるか?
人間じゃ確実に反応出来ないスピードで迫り来るが、しっかりと視認でき、反応もできる。
右手を前に出し掴もうとした瞬間、手のひらを紙を辛くように簡単に貫通し、骨を砕き肩を貫いた。
「ぐっ・・・あぁ・・・」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
感想はそれだけだった、人間は痛みが大きすぎると呼吸すらままならなくなるのか。
俺はまだ人間なのだろうか。
大量の鮮血が流れ出るが、まるでそんな物は無かったかのように血が浮き、体内に戻る。
大きな傷口が一瞬で治療された。
「嘘だろ・・・」
無意識的に声が出た。
傷が回復するならともかく、排出された血まで取り込むとは思わなかった。
そう言えば・・・身体能力の向上がどうとか言ってたよな。
姿勢を低くして、クラウチングスタートの構えをとる。
「何してんだよ、4番ってのもなりたてじゃ弱者じゃないか」
93番の言葉に少しカチン来て、無駄に力んでしまう。
駆け出した瞬間、視界がブレる。
あまりの速さに足がもつれ、まるでスケートリンクを滑るかの如くコンクリートの上を滑る。
「いってぇぇ!」
危ない。コンクリートにおろされるところだった。
これがホントのもみじおろし、なんてねっ
先程と同じようにモザイク必須の傷は一瞬で再生する。
93番は酷く驚いた顔をしている。
俺の再生能力に驚いているのだろうか・・・
と言うことは、人間本来の治癒能力が大幅に特化されたのが俺の能力だろう。
・・・弱くね?
戦えないじゃん。勝てないじゃん。
怪力に対しての対処法がない。
どう戦う?
「4番・・・お前は再生能力か?」
「らしいですね」
93番が腰に手を当てたまま吹き出した。
「はっはっ! で、どうやって勝つんだ?」
93番も気づいているのだろう。
再生能力だけじゃ戦えない。
「やるだけやってみますよっ」
さっきは走り出しのスピードに驚いたが、それは普段とのギャップの話だ。少し早い程度、時速60キロか、ちょい早いくらいだ。
俺は言葉の終わりと同時に走り出し、距離を詰める。
怪力は純粋な力比べ、威力を出すために大振りでのインパクトが予想される。
再生力の高さは見せつけた。
なら人間の弱点。
一撃で殺せるような場所を狙うはず、俺だったら頭!
ギリギリまで近づいた時、予想通りと言うべきだろうか。相手は俺の頭目掛けて拳を突き出す。
回避しろよ、身体!
前進する力とパンチによる後退する力が加わると、最悪頭と身体がサヨナラする可能性があるかもしれない。
「物理は得意じゃないけど!」
ギリギリで回避するが、少し掠ったのだろうか。
右頬の肉が少し抉れ、出血する。
そんなのは気にせずに、93番の伸ばされた右腕を掴み、力を思い切り加える。
バギッと音が響き腕が簡単に折れた。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!」
93番の叫びが野次馬をさらに増やす。
「これに懲りたら辞めるんだな」
俺がそういうと、野次馬の中から声がした。
「その通り」
ヒールのような音が響く。
野次馬が多いせいで姿の確認が出来ない。
ナンバーズか?
野次馬の壁をかき分けて現れたのは、薄紫髪のスーツを着た女性・・・いや、少女?
その姿を見て、つい無意識的に言葉を発していた。
「子供か?」
「失礼な。これでももうすぐ30だ。」
クールに言った女の身長は150センチもないような気がする。 30歳と言うには若く見え、まだ幼いように見える。
そんな話をしていると、93番が視界の外から声をかける。
「おい、クソ女! テメェの年齢なんざくだらない話どうでもいい! ぶっ殺すぞ!」
瞬間、銃声が響く。
「あ、うぐっ・・・」
弾丸を撃ち込まれたのは93番・・・撃ち込んだのは・・・スーツの女だ。
「特殊能力者制圧部隊指揮官・・・神宮寺 桜花 私は数字を持たないが、お前ら人外を殺す権利は持っている。口の利き方には気をつけるんだな」
見下されたことに腹を立てた93番が、神宮寺を狙い走り出す。
瞬間をパァンと響き、93番の額に穴ができる。
それを見た神宮寺がため息を吐き、右耳につけたインカムに手を当てた。
「私は発砲許可を出してないぞ?・・・・・・あぁ、いや。まぁいい。どうせ役に立たない人材だ・・・もう一人は連れて帰る・・・あぁ、そうだな」
インカムから手を外し、神宮寺はこちらを見る。
「お前は何番だ?」
「・・・4番」
それを聞いた神宮寺は目を丸くして口に手を当てる。
「ほう?これはいい拾い物をした。ついてこい」
先に歩き出した神宮寺についていく。
「先輩!」
「町田さん。気をつけて帰ってね。じゃ、また。」
そう言って、その場は後にした。