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No.S 〜数字が刻まれた部隊〜  作者: 鬼子
No.3 『絶唱の歌姫』
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3 『お願い』

 フードを深く被った何者かを俺たちは追いかける。

 かなりの速度、足に関係する能力だろうか。


「クソ!追いつけない!」


 飛ぶように走る姿は次第に小さくなり、ついには建物の中に侵入していく。


「やばい、早くいくぞ!」


 それから数分。多分3分から4分程度だろう。マラソンの大会では数十秒が勝敗を分ける。 この数分はこちらに取って、どれほどのデメリットが生まれるか理解出来ない。


 勢いよく扉を開ける。

 カラオケ、と言っていたが、全てがカラオケのビルではない。


 階段を駆け上がり、彼女を探す。

 いない、いない。いない。あらゆる階を捜索するが、奏音の姿は見えない。


「なんでいないんだ」


 すると、階段の方から何かが崩れる音がする。

 確認すると、先程はなかった上に続く階段が現れている。


「あぁ、瓦礫で隠れてたのか」


 階段を駆け上がり、屋上の扉を開ける。

 すると、彼女は座っていた。


「大丈夫か⁉︎」


 怪我をしたのか、動けるのか?

 なぜ座り込んでいる。


「話せるか?」


「は、はい。・・・どうにか・・・声は抑えますが」


 奏音はそういう。

 綺麗な桃色の髪に、青色のメッシュが入ったド派手な髪をしている。

 胸は普通くらいか、プライベートということもあるのか地味な服装だ。

 座っている状態で床に髪がついているから、立ち上がると尻より下まではありそうな長さのツインテールだ。


「声は抑える?パッシブスキルか?いや、アクティブ?」


「な、何の話ですか?」


 おっと、ゲーマーの癖が出てしまった。

 

「変なフードを被った男は見なかったか?」


「見てません」


 奏音はそう答えた。

 おかしい。確かに入って行ったはずだが。

 すると、開けたままの扉から皇の声が響く。


「湊さん、早く奏音さんを安全な場所に運ぶっスよー!」


「わかった!今行く!」


 俺は奏音の方を見て問いかける。


「立てるか?辛かったら肩を貸すが」


「たぶん・・・立てます・・・」


 奏音が動いた瞬間、奏音の足元の床にヒビが入る。


 まずい、崩れる!


「きゃっ!」


 俺は咄嗟に走り出し、落ちていく奏音の腕を掴む。


「よ・・・し。掴んだ!このまま引き上げるから」


 完全に床にうつ伏せになるような体制で奏音を掴んだからか、身体に力が入らない。


 その時背後から足音がする。

 不動か、皇か透華か。


「良かった、引き上げるのを手伝ってくれ俺一人じゃキツそうだ」


 足音は次第に近づいてきて、止まった。

 力が限界に近い。早めに手伝ってくれと願うが、一向に助けの手は伸ばされない。


「何してるんだ!早く!」


 俺の体は限界でも、腕を掴む手は離さない。


 その時、奏音が俺を見つめていることに気がついた。

 だが、その直後、それは勘違いで、俺の後ろを見つめていると気づくまでに時間は掛からなかった。


「どうした?」


「あの・・・フード・・・」


 その言葉が耳に入った瞬間、反射的に後ろを向くと、先程いたフードの男が後ろに立っていた。


 男はニヤリと笑い、足を少し上げる。


「みんな仲良く落ちようぜ」


 男がそう言った瞬間、足が俺の体を踏み抜く。

 激しい衝撃に骨は砕け、床が勢いよく崩れ落ちた。


「あ・・・いって・・・クソ・・・」


 瓦礫をどかし、立ち上がる。

 フラフラする。

 視界は土煙であまり見えない・・・


 クソ・・・どこかに寄りかかりたい。

 先に右手を伸ばして壁につく。

 その瞬間、右手は空をきる。


「あれ、距離感が・・・」


 衝撃で五感がバグったか?

 その直後、水音が耳を刺した。

 まるで滴るような音だ。


 とたんの寒気とともに、右腕を見ると肘から先が千切れてなくなっている。


 気づいてないと痛みはないが、気づいた瞬間が問題だ。

 強烈な激痛が全身を駆け巡る。


「あぁぁぁぁぁぁぁ・・・腕が・・・」


 その場に跪き、右腕を抑えるが出血は止まらない。

 このままだと死ぬかもしれん。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その時女性の叫び声が響く。

 おそらく、奏音の声だろう。


「次から次へと・・・!」


 痛む右腕は取り敢えず放置して、叫び声のする方へ向かう。


「奏音さん!大丈夫⁉︎」


「はい、私はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!腕が!お兄さん腕!」


 俺の腕が千切れていること確認した奏音が先程より高い悲鳴を出す。

 鼓膜が揺れ、脳が揺れ、散らばった砂が踊り始める。

 あまりの爆音に耳を塞ぎ、その場に立っていることさえ困難だ。


「あ、ごめんなさい・・・」


「いや、いいんだ・・・それより、最初の悲鳴は?」


 俺の質問に答えるように、奏音が左腕を掲げると、千切れた腕が奏音の左手首をがっしりと掴んでいた。


 あ、俺の腕や・・・


「それ俺の腕!ちょっと返して!」


 右腕を掴み、力一杯引っ張る。

 なかなか外れない。そんなに強く掴んでいただろうか・・・


 こうなったら。

 俺は自身の右手の指の骨を全て折り、奏音の左腕から無理やり引き剥がす。


「どうするんですか?」


 奏音からのその質問に、俺はニヤリと笑いながら右腕の傷の部位を合わせて、くっつける。

 接着部から、傷はたちまち治り、まるで何もなかったかのように正常な動作を行う。


「え、どうして・・・」


「ナンバーズの能力だよ」


 俺の傷が治ったことに、奏音は驚きの表情を見せる。

 だが、俺自身も千切れた腕が再生するとは思わなかった。 よくアニメなどで見ていたから、試しにやってみただけだ。


「再生?」


「いや、治癒かな。多分千切れた腕が回収不能な場合はくっつけられないかも」


 俺の能力はあくまでも『治癒』。ちぎれたからといって、新しい腕が生えてくるわけではない。


「取り敢えず、避難しよう。さっきのやつが来るかもしれない」


 土煙が徐々に腫れていき、視界が開ける。

 俺は避難。移動をしようと、そう言いながら奏音に手を伸ばした。


「もういるぜ」


 背後からした声に振り向く。

 瓦礫の上、少し高いところに男はいた。

 長い丈のパーカーか。

 建物が倒壊したせいで、外部から丸見えになり静かで気持ちのいい風が流れる。

 前髪を揺らし、男のパーカーがヒラヒラと揺れる。


「何なんだお前」


 ゆっくりと腰に携えた刀に手を伸ばす。


「なんだろうな?」


 異様な圧。 異常なまでの自信。


「湊さん!大丈夫ですか⁉︎」


 皇の声と共に三人が姿を現す。


「四人?チームで行動してるってことは、何かの部隊か?」


 その質問に答えたのは皇だった。


「特殊能力者制圧部隊『スレイヤーズ』対ナンバーズに特化した部隊っス」


「へぇ?そんなのもいるんだ、それって俺でも入れるかな?」


 男がニヤニヤと笑いながら質問をする。

 その問いに答えたのは俺だ。


「いや、悪意のある行動が目立つ。よくても確保して隔離だろ。 アホか」


 俺のセリフにカチンと来たのか、歯を食いしばる。


「あぁ、そうかい!」


 男は勢いよく瓦礫を蹴り上げる。

 舞った瓦礫で視界が遮られ、次の瞬間腹部に鈍痛が走り、体が高く飛ぶ。


 視界が晴れたのは俺が空にいるから、蹴り上げられてマンション4階分に相当するくらいの高さまで上げられる。

 

 落ちても怪我しないか⁉︎

 いや、治癒できるから・・・

 でも痛いのは嫌だしな。


 そう思いながら勢いよく着地する。


「アイツは⁉︎」


 皇や透華に聞くと俺の後方を指差した。

 俺は振り返り、状況を確認する。


「いや・・・離してっ・・・」


「黙ってろ・・・クソ女」


 そこには奏音の髪を掴み、引きずるように移動する男がいた。


「待て、その子を離せ」


「あぁ?邪魔すんなら殺すぞ」


 俺は刀に手をかけ勢いよく振る。

 キンキンと金属音を立てながら刀身が姿を現した。


 それを合図に、不動達も武器を構え、鞘を解除する。


「やってみろ」


 男にそういうと、奏音が男の腕を振り解くように腕を掴む。

 視界の外だからか、空を切る。

 痛みは相当なものだろう。


「いやぁ、助けて・・・」


 今にも泣き出しそうな奏音の顔をチラッと見て、頷く。


「任せろ」


 武器を構えながら腰を落とす。

 チームでの任務はこれが初になる。

 少女一人、たった一人助ける簡単な任務だ。


 だが、男の異様な自信はなんなのか。

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