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No.S 〜数字が刻まれた部隊〜  作者: 鬼子
No.3 『絶唱の歌姫』
18/55

2 『歌姫現る』

 場所は秋葉原・・・と言いたいとこだが、あいにく渋滞にハマっている。


「なんでこんな道混んでんスか!?」


 そう愚痴を漏らしたのは皇だ。


「仕方ないだろ、逃げる人たちもいる。行きたい奴もいる。なんなら、車を捨てて逃げてる可能性だってある」


 俺がそう言うと、透華が溜息をついた。


「走る?」


「数キロだしな・・・走るかぁ」


 そう言いながら車から降りる。


「車はどうする?」


 不動がつぶやいた。


「神宮寺に回収してもらおう。連絡入れといてくれ」


 俺の指示に全員が頷く。

 働いてくれ神宮寺。雑用だけど・・・帰りになんか美味い土産でも買っていくか・・・・


 そう思いながら一斉に走り出す車の上を走り抜け、たった数分で3キロ程を走り抜ける。

 現場はどこかと・・・すぐにわかった。

 そこに広がるのは、非日常的な今まで見たこともない光景だった。


「なんだ・・・これ。 どうなってる・・・」


 サイズはわからない。距離もわからない。

 だが、秋葉原の見慣れた風景が、建物が。丸ごと高範囲に消し飛んでいた。

 ミステリーサークルのように綺麗な円形を描きながら更地となった現場の中心に、避雷針のように建つ背の高い建物が一つ。


「あそこが円の中心か? 何キロある?」


 残った建物を中心にサークルが出来ている。あそこにいる誰かが原因と見ていいだろう。


「取り敢えず行ってみるか・・・」


 一歩前に。サークルの中に足を踏み入れた瞬間、中心の建物から声が響く。


「近づかないでください!お願いします!」


 それは風となり、緩やかな衝撃を生み、俺の髪を揺らす。


「まて、あの距離で声が届くのか?」


 あの距離というのは具体的な表現が難しいが。

 5階建くらいの小さいビルが、手を前に突き出した際に遠近法で、大体同じくらいのサイズになる距離だ。拡声器を使ったところで、ここまで声が届くとは考えにくい。


 そうなると、ナンバーズとしての何かの能力だろう。

 声を馬鹿デカくする能力などあるのだろうか・・・声の大小は、果たして身体能力なのか・・・


 その時、皇が口を開く。


「あれ?この声。奏音ちゃんスか!?」


 誰だそいつは。


「ん?誰だ」


 俺の質問に答えたのは、透華だった。

 透華はスマホを取り出し、俺に画面を見せてくる。


「この人よ」


「いや、誰だよ」


「奏音。超有名・・・とまでは行かないけど、人気の歌い手さんだよ。 テレビに度々出てるし、歌番組なんかでもちょくちょく取り上げられてる、今ブームがきてる人」


 透華はそう言いながらスマホを操作する。


「大舞台。武道館ライブとかを目指して歌の特訓をしてたみたい。 さっきまで生配信でカラオケで歌ってた見たいね」


 もう終了している配信のアーカイブからその配信のコメント欄を表示する。

 コメントの9割は応援や、歓迎というのか。

 『頑張れ!』や『奏音ちゃん好き!』など、一般的なコメントの中に心無いコメントも見られる。


 特に、『このレベルで武道館目指すとか草』や『そこら辺の中高生の方が100倍上手い』など。過激なものはそれだけで目を惹く。


 このコメントを読んでまで、歌をつづけるか。

 コメントする側は何の気なしかもしれない、取り敢えず言ってみようなのかもしれない、だが、コメ主が言われて平気でも、他者が平気とはかぎらない。


「ひどいな・・・」


 その時は、背中をドンと何かに押される。

 ふりかえると、大型のカメラやマイクを持った人たち。いわゆる報道関係者だ。


「はい、どいてどいて。3.2.1」


 誰かの合図とともにキャスターと思われる人物が話し出す。


「はい、現在秋葉原・・・」


 マズイな。人が増えてきた。

 危険だと思って離れた人間が、安全地帯を理解して戻ってきたのだ。

 スマホを掲げ、現状と惨劇を写し、SNSに投稿する。

 いつもの流れだ。本人が嫌がるかどうかなど関係ない。民衆はそういうふうに出来ている。


 すると、透華が苦い顔をしながらスマホを見せてきた。


「マズイよ、美咲」


「何がだ」


 スマホに表示されてたのは、SNS。生配信をしていたのもあり、この騒動の原因は奏音と言うこともバレているからか、叩きたい放題。動物園を見ているような感覚にさえなる。


 目の前に広がるサークルのような惨状の写真と一緒に、何やら言葉が書かれる。


 『秋葉原破壊の原因は歌い手の奏音。これ被害総額いくらなん?みんな奪われたものもあるし、家族皆殺しにしてもお釣りくるんちゃう?笑』


 冗談でも言って良いことと悪いことくらいはわからないものか。


 その記事のコメントも、『どうせナンバーズやろ』や『ナンバーズと、ナンバーズを産んだ家族は同罪。死んで償うべき』など。 見ていて気分の悪い書き込みが目立つ。


 その中でも、ナンバーズを擁護する声も少なからずあるが、擁護すれば標的になる。


「取り敢えず、マスコミを止めるぞ。国民はニュースでの放送をあっさり飲み込む。真実かどうかは後回しになる。 ここで止めないと、奏音の今後が危ない」


 俺はそう言って、報道陣が持つカメラに手をかける。


「やめてください」


「撮るな。配信するな。カメラを下ろしてくれ」


 俺の言うことは一切聞かない。

 俺を回避し、睨み。報道を継続する。


「ふざけんな!撮るなって言ってるだろ」


「アンタ何の権利があって報道止めようとしてんだよ!この事を国民に伝えるのが仕事なんだよ!」


 カメラを構えた中年の男性は叫んだ。

 仕事だから、国民に伝えるため。わかっている。


「だったらこの惨状を写して、やばいから近づくな。それだけでいいだろう。プライバシープライバシー、カメラ止めろ」


 被災地の人間にインタビューしたり、日本の報道陣は腐ってるのか?


「いるんだよねー、そういうひと。プライバシーがどうとか言うけど、表現の自由ってのがあるからさ。ごめんね」


 そう言って、俺の体を強く押してサークルの中に男性は足を踏み入れた。


 瞬間、パァンと銃声が鳴り響き、カメラが破壊される。


「湊さんが言ってんスよ・・・近づくな・・・!」


 発砲したのは皇だ。

 好きな・・・というか、推してる人を悪い方向に持っていこうとする報道陣にカチンと来たのだろう。まぁ、完全にやりすぎだが・・・


「な・・・何なんだ君たち!」


「誰だっていいでしょう!取り敢えず、みんなカメラおろせ!降ろせよ!」


 だが誰も従わない。まぁちらほらとカメラを下げてくれる人はいるが、大半は下げてはくれない。

 何なら、皇が市民に発泡した事でさらに騒ぎになる。


「表現の自由だよ!撮れ撮れ!」


 表現の自由をはっきりと理解していない有象無象が騒ぎ出す。

 まぁ、俺もあまり理解出来てないけど。


 その時、透華が民衆の前に出て、俺の方を向く。


「私なら止められる。やろうか?美咲」


「あぁ、頼む」


 何をするかわからないが、取り敢えず透華に頼んでみる。


 そうすると透華はスマホを高く掲げた。


「はい、みんな注目。 私が持つスマホは今生配信中。 人を集めるのは簡単。具体的な数字は言わないけど、すでに数万人単位で視聴者がいる」


「だからなんだよ!」


 説明をした透華に男が文句をいう。

 透華はまずその男をソイツにした。


「あなた。浮気してる。結婚は10年?もうちょい長いね。娘が一人・・・いや、二人かな。家はかなり遠いし、仕事場はここ付近じゃない。あなただけ視線の動きがおかしいもの、でもスーツだし、奥さんに仕事に行くって言ってここ付近の誰かに浮気しに来た?」


 そういうと、男が挙動不審になる。どうやら全てあっているらしい。 多分、これが透華のナンバーズとしての能力だ。


 その後、複数人、主に報道関係者を標的に同じ事を繰り返す。

 誕生日、年齢、家族構成、たまに住所などを言い当てることもあった。


 そこで誰かがいう。


「個人情報を公開するのは、プライバシーの侵害だろう!」


 その言葉の後、透華が笑った。


「プライバシーの侵害? いるんだよねそういう人、表現の自由だから。ごめんね」


 透華はニヤニヤと笑いながら言った。


 なんかもうやりすぎ。

 表現の自由の域を軽く通り越してる気がしなくもないが・・・まぁ、SNSであることないこと呟く連中がそんな事を知る由もなく、全員を黙らせることに成功した。


 その静寂の中、背後から男の声がした。


「やっと見つけた・・・一人目」


 振り返ると、深くフードを被った男がいた。

 その男は顔を少しだけこちらに向けると、ニヤリと笑って、奏音がいるであろう建物まで一直線に走り出す。


「おい、待て! クソっ!不動さん、皇、透華、変な奴が建物に走ってく!追うぞ!」


 その男を追うために、俺たちは走り出した。

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