1 『虚構の太陽』
医務室から出ると、ちょうど神宮寺と鉢合わせた。
「湊・・・」
「神宮寺、帰ってきてたのか」
透華の母親を送ってから帰ってきて、多分様子を見るために医務室に足を運んだ・・・と言ったところだろう。
「ご苦労だったな」
「いや、別にぃ? 医務室に来るなんて初めてだしワクワクもあったな。 夕日を見ながらだから痛みは忘れられた」
俺がそう言うと、神宮寺は眉を歪めた。
「何を言っているんだ。ここは地下だぞ? 夕日があるわけないだろう」
あれ、本当だ。
この基地は地下にある。夕日が見えるはずがない、じゃああれは。
俺は医務室の扉を開け、夕日に似た何かの光を指差す。
「じゃああれはなんだ?」
「あ、あぁ! 溶鉱炉のことか」
溶鉱炉? 普通は黒い筒状の変なやつじゃないのか。
「そんな顔をするな。溶鉱炉と呼んでいるだけだ。特に名前はないからな」
俺が理解していない顔をしていたのか、指摘される。
「まぁ、あれはお前らの武器を作るためだ。必要なんだよ」
「熱は感じないな」
「そう設計してあるからな」
なるほどなぁ。
溶鉱炉モドキというわけか。 あそこから俺たちの武器が出来上がるんだろうか。
「武器がないと、お前らはナンバーズと戦えないからな」
生物兵器としても導入されているらしいからな。
武器は必要だろう。
そこで、ある奇妙な事が頭をよぎる。
神宮寺が言っていた軍では太刀打ちできないと言っていた点だ。
神宮寺との初対面は、ナンバーズを撃ち殺すシーンだ。それは通常通りの武器での殺害も可能にすると、俺は勝手に思っていた。
「なぁ、神宮寺」
俺の呼びかけに軽く視線をこちらに向ける。
「神宮寺は最初、ナンバーズを殺害したよな? 軍が動かせるなら、ナンバーズの四方を囲んで、銃を打ち込めばいいんじゃないか?」
「ナンバーズに普通の銃は効かない・・・」
いや、そんなわけないだろ。
俺の質問に神宮寺は険しい顔をする。
「効かないってのは語弊があるな・・・効きにくいが正解だな。ナンバーズは身体能力が上がる。これは一般的に言う身体能力が高い人ではなく、字の如く『身体の能力』が高い。 そして、お前ほどではないが治癒能力も桁違いに高い。 骨折は数時間で完治するだろう」
「マジか・・・」
神宮寺が通路の壁に体重を預ける。
そして、腰に携えたホルダーから銃を抜く。
「仕掛けがあるのは銃じゃなく弾だ。 それも超能力的ではなく化学的。 まぁ、私は化学は苦手でな、よくわからないんだが、打ち込んだ傷は火傷が続くらしい。最も、お前には効かないみたいだがな」
マガジンを抜いて、弾丸を指差し、軽く説明した後マガジンをセットしてホルダーに挿す。
「傷が治るなら、傷をつけ続ければいいじゃない。いわば毒を塗った矢のような感じだな。単純な作戦だが、案外ハマるものだな」
神宮寺は苦笑しながら言った。
「なるほど、それであの溶鉱炉。 俺たちの武器には全部その加工が?」
「そうだ」
だが、俺の最初の質問にはまだ答えていない。
それなら、一般の兵士に弾丸を利用させれば解決する話だ。
「なぁ、なんでその弾丸を使わない?取り囲んでやればいけるだろ」
「そんな事をしたら、国とナンバーズの戦争が始まる。 それに、その構図になるまでに何人の兵士が死ぬか考えたくもない。逃げられた日には、弾薬と命を無駄に浪費しただけになってしまう」
そうか・・・豪脚の能力を持っていた奴がいたな。
簡単に言えば高速に移動ができた。瞬間移動という奴だ。 あれだと、一人を取り囲む間に何人か、何十人かは犠牲になるかもな・・・
俺は顎に手を当てながら少し考える。
その思考を遮るように、神宮寺が口を開いた。
「あぁそうだ。新しい情報だ」
俺が視線を少し上げ、神宮寺を見つめると、話を続けた。
「ナンバーズはあくまでも人間だ。まぁかなり強化されてはいるが、死と言う概念から逃れられないように、人間にある別の機能もしっかり備わっている」
「別の機能?」
なんのことを言っているのかわからない。
聞き返すと、ため息をつきながら神宮寺は言った。
「弦楽器を触る人間は、指の皮を切る。再生すれば分厚くなり、硬くなる。 スポーツ選手は骨折をする。骨は折れれば硬くなる」
まて、嫌な予感がする。
「筋繊維は再生して、太くなる。他にも、暑さや寒さは慣れもある。全て能力には敵わないが、ある程度の強化ができる」
「冗談だろ!?身体能力の強化が可能なのか?」
冗談じゃない。
ただでさえかなりの能力が備わっているのに、さらに強化ができるのか!?
確かに、これからの戦闘は苛烈化しそうだな・・・
刹那、基地全体に警報が鳴る。
「警報発令。 秋葉原にてナンバーズを確認。入手した情報から、敵対対象ではないと判断。おそらく、ナンバーズになりたて、突然変異の可能性あり、スレイヤーズは直ちに出撃して、対象を保護してください。繰り返します・・・」
警報が情報を羅列しながら話す。
神宮寺は手をヒラヒラとさせていった。
「行きたまえ、お前らの初任務だ。 気をつけろよ」
「了解」
警報を聞き、走り出す。
途中で不動らと合流する。
「湊くん、初任務は秋葉原かぁ。 あ、君は大阪か」
「大阪のはノーカンですね、チームでの初任務はこれです」
そう言うと、勢いよく扉を開け、皇が入ってきた。
「いやぁ、初任務!ワクワクするっス! いや、大阪に行ったから初任務じゃないかな」
「皇、それはノーカンだ」
俺がそう言うと、皇はなるほどぉ。と言いながら軍服に袖を通した。
着替えが終わり、更衣室を出ると、透華がすでに待機していた
「遅い!」
「悪いな、透華。行くぞ!」
不動が運転する車に乗り込み、移動を始める。
「渋滞にハマったらどうするんスか!?」
「その時は走る!」
えぇーー! と仰け反る皇を横目に、目的を確認する。
対象の保護・・・ なんだが一番難しそうな任務だ。。
目的地は秋葉原。
安全な任務であってくれ