表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
No.S 〜数字が刻まれた部隊〜  作者: 鬼子
No.2 『闇に潜む者』
16/55

8 『帰還と融解』

 水族館の外。

 端的に言えば、従業員は無傷で縛られていただけ。

 特に面白い話もなく。今は外だ。


 もしアニメや小説なら、従業員の捜索はバッサリカットされているだろう。そのくらい何もなかった。


「ご苦労だった・・・湊、お前には言いたいことはあるが・・・まぁ、この部隊の目的を取り敢えずは遂行したわけだから、今回は不問にしてやる」


 神宮寺が俺を睨みながら言った。

 まぁ、勝手な行動だしな。 睨まれただけで済むのならラッキーな方だろう。


「どうも・・・」


 俺が礼を言うと、神宮寺はため息をつきながらも優しく微笑んだ。

 その時、警官が神宮寺の後ろから小走りで近づいてくる。


「ご苦労様です。あとは我々が引き継ぎます」


 警官はそう言いながら俺たちを置いて水族館内に入っていく。

 それを見送ったあと、神宮寺が胸ポケットから端末を取り出し、軽く操作して画面を見せてきた。


「我々スレイヤーズは国家から正式に受理された部隊となった。良かったな」


「案外早かったな?結成してから2日しか経ってないぞ」


 国家からと言うとなんか色々な手順を踏んで、なんやかんやしながらするもんじゃないのか?知らんけど。


「確かに部隊を結成したのは2日前くらいだが、ナンバーズ自体は2年か3年くらい前から発生している。国々はこれを今まで隠蔽してきたが、流石に隠し通せる数じゃ無くなってきてな・・・犯罪も増え、国民の目に触れる事案も増えてきた。だから、かなり前からナンバーズに特化したナンバーズの部隊は提案されてだんだ」


 神宮寺は手をヒラヒラとさせながら言った。


「なるほどな・・・そんな前から」


「そう、そんな前からだ。ナンバーズは他国では戦争に導入される生物兵器だ。 そうなると相手は歴戦、または戦闘経験豊富だ。普通の兵士が太刀打ちできる相手じゃない。これからの戦闘は苛烈になる。 仲間が死ぬかもしれない。覚悟しておけ」


 神宮寺が目を細めながら言った。


「取り敢えず、基地に帰るぞ」


 東京のどこか。

 そこに基地はある。

 ランカは警察に保護され、白銀は神宮寺に他言無用と口酸っぱく言われ、疲弊しながらも帰路に着いた。


 エレベーターに乗り、存在しない階層へと降りる。

 チンッと音がなり、エレベーターが開くと何やら怒号が聞こえた。


「やだ!離して!嫌だって言ってるでしょ!」

「ちょっと、暴力は良くないですよ!」


「あんたは黙ってなさい!」


 なんだなんだ。 最初の方は有栖川と不動の声だ。

 三人目は女性だが・・・誰だろう。


 神宮寺と皇と目を合わせ走り出す。

 声がする方に走り、姿を捉える。


 最初に飛び込んできたのは、有栖川と、有栖川の腕を掴む女性。それを止めようとする不動と、あたふたしている警備員が二人ほど


 おぉ、なんだなんだ。


「どうしたんですか⁉︎」


「あ、湊くんおかえり。いや、透華ちゃんのお母様が」


 母親?母親か⁉︎


 取り敢えず力ずくで引き剥がしたいが、セクハラとか騒がれたら嫌なので、母親の拘束は神宮寺に一任する。


「ちょっと、何があったか教えていただけますか?」


 俺が言うと、母親の女性は俺を睨んだあと、有栖川をみた。


「娘を連れて帰るのよ! こんな施設みたいなところに入れておけない!娘が可哀想よ!」


 有栖川は俺と皇の後ろで不動に慰められている。


「どうして可哀想だと思うんですか?」


「だってそうでしょ⁉︎あなた達みたいなのに囲まれて、国にいいように使われて!」


 と言うかこの女性はどうやって入ったのだろう。

 一応の手順としては、エレベーター内の防犯カメラに身分証を見せる必要がある。


 事前にアポがあれば警備員が通せるのか?


「この人達の事をそんなふうに言わないでよ!」


 有栖川は叫ぶ。

 そんな声出たのか。いつもゆったり静かに話すからそれがデフォルトかと思ってた。


「透華、帰るわよ!」


「嫌だ!」


 親子喧嘩に赤の他人が首を突っ込んでいいものか。

 そこで、神宮寺が母親を宥めるように口を開いた。


「ほら、娘さんもこう言っている事ですし、今回はお引き取りいただいて、娘さんは大切にお預かりしますので・・・」


 その言葉に母親が激昂する


「娘はね、何回も自殺未遂をしているの! 赤の他人のあなた達が管理できるわけないじゃない!精神が不安定な子供を、どうするつもりなの⁉︎ もし死んだらどう責任取るの⁉︎」


 その言葉に俺の心が異常を発する。

 ドクンッと本能的に違和感を感じ取る。


「あのー・・・」


 俺は恐る恐る母親に声をかける。


「なによ」


「娘さんの事を『管理』って言うのやめません?物じゃないんですから」


 そう言うと、母親の目つきが鋭くなる。


「なによ、私が産んで、私が育てた私の娘でしょ、私のじゃない!」


 間違っていない。何一つ間違っていないのだが、何故か、気分が悪かった。


「アンタの娘なのは否定してねぇよ! でもアンタの娘ってだけで物じゃねんだよ!管理って言うな!」


 あー・・・俺も怒鳴ってしまった。

 ここからは苛烈の一途だ。


「神宮寺!」


 俺が突然神宮寺に声をかけたせいか、神宮寺の体がビクッと跳ねる。


「有栖川さんとはどこで会った?」


 そう聞くと、神宮寺がうーんと思い出すように言った。


「確か、家出中? 自殺しようとしていたのか、夜遊びかは知らないが、深夜に一人で歩いてる最中に能力が発現した。 それであまりにも痛がってる有栖川を見て、通行人が通報、救急車を要請して、我々が保護した感じだ」


「何故家出とわかった?」


「服はズブズブ、泥か何かで汚れていて、靴は履いてない。衝動的に家を飛び出したんだろう」


 それを聞いて俺は有栖川に声をかける。


「有栖川さん、家出した日の事を簡単に説明できる?ゆっくりでいいから」


 俺がそう言うと、ゆっくりと話し始めた。


「あの・・・私、自殺しようとして・・・それをママに止められて・・・何も考えてない・・・残される方の身にもなれって・・・」


 ここまでは別に普通の家庭だ。

 子供が自殺しようとしたら、親はそれを止めるだろう。なんなら、親じゃなくても大人はそれを止めようとする。


「どうして自殺を?」


「ママは・・・仕事帰ってくると・・・冷たい・・・。遊びに行って帰ってこない日もあるし・・・小学生以来・・・手料理なんて食べてない・・・」


 忙しい場合もある。正直、これだけで母親が悪とは言えない。男遊びが激しいのか、だが娘の前でそれは聞けない。


「アンタ、またママを悪者にして!いつも被害者ぶって、いい加減にしなさい! アンタが弱いからすぐに崩れるんでしょ⁉︎」


 母親がそう言った。

 あぁ、これか・・・


 俺も良く言われていた。

 死にたくもなる。


「おい、アンタいい加減にしろよ。ちゃんと原因あるじゃんかストレスを娘にぶつけんなよ」


「仕事が忙しくて・・・」


「仕事が忙しいのは仕方ない。嫌なこともあるし、ストレスが溜まるのもわかる。・・・でもさ、仕事のストレスは娘には関係ないだろ。娘が何か悪さをしたなら怒るのもわかる。 なのに、勝手にアンタが怒って、娘が機嫌悪くしたらそれに対してまた怒るんだろ? 原因はアンタじゃんか」


 瞬間、母親が神宮寺の拘束を振り解き、俺の胸ぐらを掴んで壁に打ち付ける。


「湊くん!」

「湊さん!」

「湊!」


 不動達が止めようとするが、俺は手を前に出しそれを制止する。


「結婚も、まともな仕事もしてない、子供もいないアンタがわかったような事を言うな! 私は一人で娘を育てた、立派に育てようとした!私は娘が大事で私には娘しかいないから!なのにこの子はくだらない理由で死のうとした、私の努力を知らないで!」


 胸ぐらを掴む力が次第に強くなる。

 だが、ここで負けたら、有栖川は連れて行かれてしまう。


「死ぬ理由がくだらない訳あるか!悩んで悩んで、悩みついた場所が死だっただけだろ! 人生がつまらない!それは未来が見えない、だから生きていても意味がない。 人間は生きるための活力が必要なんだよ!目標だったり、好きな人だったり、活力がないのにどう生きるんだ! 娘が大事?娘しかいない?だったらなんで死にたいと思えない環境を作ってやれよ!死ぬ理由をくだらないとか言って、全部透華に押し付けんなよ!アンタが原因だろ!」


「うるさい!」


「立派に育てる⁉︎違うね、アンタは躾じゃなくて、管理って言った。裏に隠れてるのは娘に対しての愛情じゃなくて支配欲だ! 娘を立派に育てて大事にしてるってのは、自分が無能じゃないと認めて、すごい娘を育てた母親って言うステータスが欲しいだけだろ、アンタが透華を大事にする理由は愛情じゃなくて、アンタ自身が褒められるための道具にするためだろ⁉︎」


 瞬間、頬に痛みが走る。

 母親から放たれた平手打ちは、かなり強烈だった。


「黙りなさい!」


「アンタ、負けそうになったら暴力に切り替えるのか?透華にもそうしたのか? 自分に不都合が起きたら暴力で解決か?」


 瞬間、有栖川が母親と俺の服を掴む。


「もう・・・いいから・・・やめて・・・」


「有栖川・・・」

「透華」


 有栖川がポロポロと涙を流す。


「もういいよ・・・もう、いい・・・私は何言われても帰らないから・・・ママ・・・もう帰って」


「透華・・・」


「帰って!! 私の友達を傷つけないで!帰って!」


 有栖川は母親の身体を強く押す。

 母親はひどく混乱していた。 多分。ここまではっきりと拒絶されたのは初めてなのだろう。


「待って、透華。ママは・・・」


「聞きたくない! 早く帰ってよ!」


 それを見かねた神宮寺が、母親の手を掴む。


「今回はお引き取り願います。 みなさま気が立っていますので、お互いに頭を冷やしてからまた後日機会があったらお話しと言う事で、お願いします」


 神宮寺がそう言うと、放心した母親がため息を吐きながら頷いた。


「・・・そう、ね」


 神宮寺は母親と一緒にエレベーターに乗る。


「私はこの方をお見送りするから、湊。お前は念の為医務室に行け」


「うす、了解」


 ゆっくりとエレベーターが閉まったのを確認する。

 静寂が流れ、気まずい空間になる。


「あ、あー。じゃあ、俺。医務室行きますわ」


「お、おう・・・」


「了解っス・・・」


 有栖川は俯いたままだ。


 俺は医務室に足を運ぶ。

 医者は席を外しているのか姿が見えない。適当に湿布やらを探し、頬に貼り、白いベットに腰をかける

 

「いって・・・唇切れちゃったよ・・・まぁ、治ったけど」


 傷は治っても、痛みは残る。

 ジンジンとする頬は今回はなかなか回復しなかった。


 瞬間、医務室の扉がガラガラと開く。


「あ、今先生いないから、後にした方がいい・・・」


 振り向きながら言うと、視界に入ってきたのは有栖川だった。


「有栖川さん・・・」


「透華でいいよ」


 かなりスッキリと話すようになっている。

 心境の変化か?

 心を開いたとか。


「じゃあ透華、何しにきた?」


「ん?いや、ちょっとお話し」


 そう言いながら、透華は俺の横に座った。


「まぁ・・・なんだ。さっきは揉めて悪かった」


「全然いいよ、言いたいこと全部言ってくれたし」


 そう言いながら、透華は俺の肩に頭を乗せる。


「ねぇ」


「ん、なんだ」


 透華の声に返事をする。

 夕日が差し込む医務室で、太陽はより眩しく見える。


「なんであんなにわかったの?心を読む能力?7


「いんや、俺にもそんな時期があっただけだ。死にたくて死にたくて、毎日死ぬことばかり考えてた。 でもな、両親は遺される方の身にもなれって、親不孝だって言うんだよ」


 そう、親は子供を大事に。それが普通


「私のママと一緒だ」


「そう、でもな? 毎日毎日。後何年あるかわからない人生毎日毎日『死にたい』って思いながら生きる方も、苦痛なんだよ。その苦痛を誰もわかってない。 いつも遺される方に焦点が合うが、逝く方が辛くないことにはならない。 それに、遺された方は時が経つにつれて辛さは軽減され、記憶は薄れる。 でも、死にたいと思う方は永遠だ。感じなくなるまで感じる。これ以上の苦痛はない」


 透華は頭を上げ、俺を見つめる。


「ふーん、だからわかったんだ」


「・・・まぁな」


 そう言うと、透華はチョコレートを一粒取り出し、俺に向ける。


「何・・・」


「はい、口開ける。あーん」


 ため息を吐き、口を開けると、チョコレートが放り込まれる。


「喧嘩は頭使うから、糖分大事」


「甘い」


「チョコだからね」


 ニッと笑いながら透華は言った。

 勢いよくベッドから立ち上がり、数本歩いて振り返る。


「ねぇ」


「ん?なんだ」


 チョコレートを舐めながら返事をする。


「名前呼んでいい?」


「好きにしろ、第一、俺は駄目なんて言ってない」


「確かにー」


 夕日に照らされる医務室。

 笑う少女、初対面の時より幼く感じ、年相応に見えた。


「ありがとね、美咲」


 笑いながらそう言った彼女は、医務室を出て扉を閉める。


「名前って・・・そっちかよ」


 俺は少し笑いながら言葉を漏らした。


 いつも死にたいと思っていた。

 両親は駄目だと言った。


 死にたい奴は、遺された方の気持ちはわからないし、遺された方は死にたい奴の気持ちはわからない。


 だから食い違い、争う。

 ちゃんと言っていれば、わかるんだろうか。


 夕日を見ながら口の中で溶けていくチョコを味わう。甘いが・・・美味い。悪くない。


「もう一粒。もらっておけばよかったなぁ」


 俺はそう呟いた。

 そしてあることを思い出す。


「扉をこじ開けた怪力は・・・誰なんだ?」


 気づいた時には頬の痛みは引いていた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ