5 『豪脚と暗視』
御堂筋の構えたナイフがキラリと光る。
「白銀さん!ランカさんと下がって! 皇、二人を守るぞ!」
瞬間、背後から声がした
「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ・・・」
最初に現れた男だ、名前すらわからない。
男はズボンのポケットに手を入れると、銀色の玉を二つ取り出し、床に投げた。
その玉は床をころころと転がり、開いて板のようになる。
板状になった何かの上に男が足を乗せると、カチカチと音を鳴らしながら靴を覆う。
「マジか・・・」
「あぁ、マジだよ。鉄製の靴の完成だ。これで蹴られたらどうなるか、わかるだろ」
男はニヤリと笑いながら言った
「靴・・・脚力か?ならパイプはどう射出した?」
俺の呟きが聞こえていたのか、男はニヤリと笑いながら答えた。
「たとえば、どんなものでもいい、コップでも、ピーナッツでも・・・衝撃ってのは、ぶつかるから発生するんだよ。だから壊れる。 でも、押せばいい」
男はそう言いながら靴の先端にビー玉を乗せる。
「だからっ!こうする!」
男が足を振り切った瞬間、後の壁にビー玉がめり込み、砕けた。
あぁ、これはまずい・・・
俺は本能的に後ろを見て、モタモタと逃げる白銀に声をかける
「白銀さん!早く退避して!皇、戦闘準備!」
「湊さん、前向いて!」
皇の声が館内に響き、前を向く。
「しまっ!」
映ったのは靴底、腹目掛けての蹴りか?
回避・・・は間に合わない。
瞬間、腹部に激痛が走ると同時に身体が後ろに引っ張られる。
「湊さん!」
「神楽さん!」
皇と白銀の声が響く、その直後、背中に強烈な痛みと浮遊感が走る。
どうやら壁にあたり、止まったらしい。
当たった壁は砕け、頭に落ちる。
「俺は昔陸上の選手でな? まぁ大怪我をして走るのが嫌になってた・・・だが手に入れた能力は足。皮肉だよな? って聞いてないか・・・さぁ、まず一人だ」
男が俺に言う。
揺れる視界と、耳鳴りが続く。
まだ・・・
「終わってないぞ」
すでに傷は治っている。
蹴られた瞬間、骨が砕けたのだろう。能力の力は凄まじく、蹴り飛ばされてから壁に当たるまでの間に、砕けた骨は完治している。
だが、治すのはあくまで『傷』であって、脳震盪による眩暈や吐き気は残る。
ガラガラと瓦礫を払いながら立ち上がる。
「なんだ・・・まだ死んで・・・無傷?」
男の顔が歪む。
かなり本気で攻撃を浴びせたのだろう。
「なにしとんねん!もっと本気でやらんかい!」
御堂筋が男を怒鳴りつけた。
「いや、本気だ!少なくとも、人間が耐えられるような威力じゃない!」
男が大声を上げる。
普通なら、内臓が破裂して重症になるかもしれないが、俺の身体は即死でもしないと、確実に耐える。
「神楽さん!避難完了しました!」
背後から声が聞こえて振り返ると、白銀はかなり下がっていた。
それはもうやり過ぎなくらいに避難していた。
「いや、下がりすぎ・・・まぁなんかあるよりいいか・・・」
肩を落としながらもそう呟く。
「湊さん、俺も戦えるっス」
皇がそう言いながら武器を構える。
御堂筋がゆっくりと前に出てきた。
「あーあ、めんどくせぇ・・・お前ら全員殺してやるから、覚悟せぇ」
そう言いながら御堂筋が指を鳴らす。
瞬間、光という光が全て消え、あたりは暗闇に包まれる。
何も見えない。
感覚だけが頼りだ
「ワイの国へようこそ。 ワイの能力は暗視、光が一ミリもなくても昼間と同じに見えるっちゅう能力や。貴様ら、戦ってみぃや」
御堂筋の声が、深い闇の中に消えた