1 『ある日のこと』
朝起きて、仕事に行き、帰ってきて寝るだけ。
そんな日々を送っている。
必死に働いて稼いで家賃を払ってる家は、家というより、家の形をした倉庫のようなものだ。
風呂に入るために帰ってきているような感覚だ。
「クソ・・・こんな人生の何が面白いんだ」
たまの休日に遊ぼうかと思っても、仕事の疲労でそんな気力はない。
ゲームか・・・昼過ぎまで寝てしまって落胆するのが目に見えている。
人生は素晴らしいと言うけれど、運や、稼ぎに左右される。
テレビをつけると増税だ物価高騰だと、入る金は増えないが、出る金は増えていく。
こんな政治で、こんな国で、こんな状況で・・・明日の飯さえ切り詰めなければ生活すら困難な日常で、生きる意味を見出せない。見出せるわけがない。
今日は仕事が休みだ。
だからゲームをすることにした。
この間だけは、嫌なことを忘れられる。
それに、ゲームをしていると集中しているからか、時間があっという間に過ぎていく。
その結果、飯を食わない。 いや、温存できる。と言っておこう。
ゲーム機の電源を入れ、ヘッドホンをかける。
周りの雑音は消され、創作された世界にのめり込める。
その時だけ感じる、別の世界の環境が好きだった。
ゲームの画面が表示され、メニューを開き、フレンド欄を開くといつものメンバーがオンラインになっていた。
「お、この時間からやってるのか」
グループを作り、数少ないネットの友人の数人を招待する。
招待を送ってから5秒もしないうちにグループ内に名前が表示される。
「お、神楽さん。この時間帯からゲームとは、珍しいですねぇ」
「いいですね、ちょうど1人欲しかったんですよ。人数集まりましたし、ランクマ回しちゃいますかぁ〜!」
神楽。と言うのは、俺がネットで使用しているハンドルネームだ。
本名は湊 美咲小学生や中学生の頃は、苗字も名前も、両方名前みたいだと揶揄われたのを覚えている。
それに、女みたいだと言われた。
と言うのも、美咲という名前だが正真正銘の男である。
髪は染めてないし、ピアスもしてない。化粧もわからず、まぁ普通の人だ。どこにでもいる一般男性だな
「白銀さん、ランカさん、おはようございます。ランクマいいですね、行きますか!」
白銀さんとランカさんはいつもゲームを通信している人たちだ、俺が学生の頃から繋がっているから、多分歳は向こうが5歳か、それ以上は離れていると思う。
「キャリーおなしゃーす!」
「いやいや、ランク一緒でしょ!」
ランカさんがキャリー、いわゆる手伝ってくれ、引き連れてくれと言う言葉を発する。
男子高校生のような乗りで接してくれるから、話しやすいが、ランカさんは女性だ。
ランカさんが言った言葉に白銀さんが返す。
こちらは男性だ。まぁFPSゲームという事もあり、女性のプレイヤー人口が多少男性より少ないのは仕方がない。
ゲームのプレイ中にランカさんが突然話し始めた。
「あ、そういえば今朝のニュース見ました?」
あまりの急な話題に驚きつつも返す。
「いや、見てないですね。目を覚ましてからすぐにゲーム始めたんで」
俺がそう答えると、ランカさんが面白いことを言い始めた。
「真偽は確かじゃないんですが、世界中で変な病気?みたいな物が流行ってるみたいで」
「ほう」
病気・・・インフルエンザとか、そんな話だろうか。また新型のウイルスだったりして。
「なんでも、体の一部に大小さまざまな数字が出現するらしいです」
「なんですかそれ」
笑いながら俺は返した。
刺青か何かを誰かがふざけて公開して、広めたのだろう。
そんなことを考えていると、ランカさんが口を開き続けて話した。
「しかも、発表されたのは今日なんですが、海外では1ヶ月ほど前から現れたみたいですよ?」
その話を聞きながら、ほへーと馬鹿面でゲームをプレイしていると、白銀さんから補足が入る。
「数字が現れた者は全員、身体能力の向上と超能力が発現するらしいですね」
その言葉に俺は反応する
「うわぁ、胡散くせぇ。 あ、岩裏に1パーティいます。狩りますか」
俺はカチャカチャとコントローラーを操作しながら会話を続ける。
「超能力って、火を出せたり、物を操れたりするんですかね?」
「いや、そういう感じじゃなく、人間に備わった一つの能力が異常なまでに発達するとかですね」
白銀さんがそう言った。
その答えがイマイチわからず更に聞いてみる。
「なるほど?・・・具体的には?」
俺の問いに、わかりやすく白銀さんが答えてくれる。
「予知夢ってあるじゃないですか、あれが100発百中になったり、今確認している中だと、アメリカにいる何番だっけな。 ビルにヒビを入れるくらいの怪力らしいです」
本当だったらすごいな・・・
俺には関係ない話だけど
続けて白銀さんが話す。
「それに、数字が若い。・・・小さくなればなるほど超能力が強力になるみたいですね」
「身体能力の向上ってのはどんな物なんですか?あまり変わらないなら意味ないですよね」
俺がそういうと、ランカさんが口を開いた。
「あ、そっちは世界記録を一息で塗り替えれるレベルまで発達するらしいですね。 それに、身体能力の向上は数字の大小に関係ないらしいですよ。 身体能力+数字に合った強さの超能力という感じですかね」
「なるほどー」
胡散臭いが、ちょっと面白そうなので後で調べてみることにしよう。
その時、ランカさんが口を開いた。
「でも、いいことばかりじゃないみたいですね」
その言葉に白銀さんが反応する。
「あぁ、実験対象として保護されるんですよね。身体能力の高さ、身体の丈夫さを利用して色々されてるって話も聞きますもんね」
そうか、研究者のモルモットになる可能性もあるのか。
確かに、それはいいとはいえないな
そのあとは別に珍しくも無い普通の会話をしながらプレイを続けていた。
それから数時間経って、もう昼の12時を過ぎて、もう15時になろうとしていた。
「あ、俺この試合でやめます。流石に腹が減りました」
俺がそういうと、2人も似たような事を言った。
「僕も昼ごはん食べますね」
「私もー」
試合が終わり、お疲れ様の挨拶を済ませてゲーム機の電源を落とす。
冷蔵庫を開けて中を覗く。
「あれ・・・何も入ってない。 仕方ない・・・買いに行くか」
自炊の方が安く済むとネットにあった情報を信じ、数年前から自炊をしている。
スーパーに行き、材料をカゴに入れレジに並ぶ。
昼時だからか、どのレジも長蛇の列になっている。
その間にスマホを開き、ブラウザで先程の情報を調べる。
「えっと・・・『身体 数字 超能力』」
記事が引っかかりそうなワードを入れて検索をかけると、案外騒がれているのかかなりの件数がヒットした。
1番上に『日本でも確認。数字を持つ人たち』という記事があり、それをタッチする。
ズラッと文字が並び、かなり長文の記事が出てきた。
『実は日本にも潜んでいた、数字が刻まれた人は16人確認』
なんだ、意外といるじゃ無いか。別に珍しくも無いのか。
『日本に一桁は存在せず。現在5つ確認されていて、見つかっていない一桁は3、4、8、9と発表されている』
まだ見つかってない数字もあるのか。
まぁ、実験とかされるの嫌だもんな。
記事を更に下にスクロールすると、数字を持つ者によるテロや闇仕事について書かれていた。
海外では犯罪に手を染める数字保持者は多く、日本にもその懸念があるという内容だった。
強すぎる力は不可能を可能にする。
だからこそ、今まで出来なかったことや、やってはいけなかった事に手を出す連中が出てくるのだ。
もしかしたら、知らない間に日本でも数字保持者が依頼を受ける殺し屋的なサービスがあるかもしれない。
会計を済ませ、自宅に帰る。
料理をし、テーブルに置いて食事を始める。
テレビをつけると、ちょうどニュースで数字保持者の話がされていた。
「続報です。世界各地で確認された数字保持者ですが、世界は彼らを『ナンバーズ』と呼称するようです。 数字の大きさや数の大きさに違いはありますが、等しく人間を軽く凌駕する能力を持っているとされ、警戒の声が多く寄せられています」
「マジか・・・事実だったのか・・・」
ニュースを見続けると、キャスターが色々話し始める。
「また、『ナンバーズ』に特化した部隊や、警察組織も組まれる方針が見られ、近いうちに発表がされると思います。 発見された『ナンバーズ』は、国の保護下に置くものとし、顔写真などの公開。 また、前科がある場合は、顔写真に加え、住所などの公開もする方針との事です。 次のニュースです、埼玉県で・・・」
関係ない俺からすると、特化した部隊や警察組織を組むとなると、かなりの金がかかるはずだ。
それが国民に来ないといいが・・・
食事を済ませて食器を洗う。
動画を見たり、SNSを見ていると時間があっという間に過ぎていく。
「歯磨いて寝るか・・・」
洗面所に行き、歯磨きを開始する。
静かな空間にシャコシャコと歯を磨く音だけが響く。
洗面台に吐き出し、水を口に含み更に吐き出す。
顔を洗ってタオルで拭いて、鏡を見ると違和感に気づいた。
口の中から光が漏れている。
「え・・・ガンダム?」
いや待て、ガンダムな訳がない。
俺は人間だ。 そう、口内が光る人間も探せばいるだろう。 ・・・いや、いる訳ないか。
瞬間、汗が噴き出るレベルの痛みが舌に響く。
「あっ・・・いって・・・!」
水を口に含むが、痛みが和らぐことはない。
舌が熱い・・・
まるでナイフで切った傷口にチャッカマンを差し込み、火を出しながらなぞる様に炙るような、芯からズキズキとする痛みが1分ほど続いた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
鏡を見ると汗で顔が光り、顔色が見ていられないくらい青くなっていた。
「舌大丈夫か?」
べっ と舌を出し確認する。
驚くことに、舌には先ほどまではなかった数字が浮かび上がっていた。
目に映り込んだ数字は『4』だった。