メンヘラさんとの180日間 ①
さて、わたくしが看護大学に入学して始めたアルバイトは雀荘の店員だった。
何故か?〝ギャンブルが好きだから〟という身もふたもないクズ人間だからとしか言いようがない。雀荘の店員とは時給がとても高い。わたしの学生だった時分の最低賃金は700円ちょいだったが、時給で1200円貰うことができた。
しかし当然ながら時給が高いのにはカラクリがある。雀荘の店員は接客や卓の整理や掃除だけでなく〝麻雀を打つ〟ことも仕事の一つ。勝てば貰えるし、負ければ払う。しかも店員であってもゲーム代は払わないといけない。当時働いていたのは1000点100円(点ピン)の4人麻雀の店で、ゲーム代は600円。
最初に25000点持っていて、箱がひっくり返る――持ち点が0点以下になる――と5600円の支払いだ。それにチップ制度があり、赤牌・一発・裏ドラに1枚づつ。そのチップが1枚500円。麻雀をやったことがある人間ならわかるかもしれないが、一発でツモって裏が3枚乗るなど珍しくない。それだけで6000円の収入だ。
そんな1時間で2~3万動くことも珍しくない麻雀をひたすら打つことになる。給料を下回って負けることをアウトオーバーといい、言うなれば働いているにもかかわらず店に借金する状態に陥る事もある凄まじい仕事だ。
幸いその頃は麻雀初心者だったこともありそこまで卓に座らされることもなく、アウトオーバーはしたことないが、月のバイト代が30万だったことも2700円だったこともある。
そんな夜の町で働いていたわたしは必然と言うべきか、夜の街の女性と知り合い、やがて恋仲となった。当時20歳になりたてのわたしの4つ上で24歳。俗に言う【風】の仕事をしている女性だった。
自分で言うのも何だが、〝何でおれと付き合ったの?〟というくらい可愛らしい女性で、ノリも良く話しやすい人だった。
しかし、付き合い始めるとトンデモナイ爆弾女であることが徐々に浮き彫りになってきた。わたしはその彼女に『いつもお疲れ様。』『頑張ってるね。』と声を掛け、仕事に忙しい彼女の家の風呂掃除やごみ投げ、トイレ掃除、買い物などを積極的におこなった(そのたびお小遣い貰っていた)
どちらかといえば自分の家に帰る機会は少なく、彼女の家に居ることが多かったのだが、それは付き合い始めて一月前後のこと。看護学校の友人たちと飲み会をして、0時を過ぎて帰ってきたときのことだった。彼女はひどく酔っており、酒瓶が部屋に散乱していた。
「ねぇ、どこに行ってたの?」
それは今まで聞いたことが無いほど冷たい声色で、その瞳はまるで別世界をみているかのように虚ろだった。わたしは正直に看護学校の友人と飲み会に行っていたことをはなすと彼女は癇癪を起こし始めた。
「あんたも私を裏切るのね!」「どうせ女でしょ!」
そんな訳ない。看護学校の友人を恋愛対象としてみたことなど一度もない。しかしそんな説明をする前に……
彼女の投擲した鏡月の瓶がわたしの顔の横をかすめ、壁に当たって粉々に砕けた。