打算から始まった恋 ③
「ごめん!5年付き合っている彼氏にバレそうなの!別れて!」
頭が真っ白になるとはこのことだろう。付き合って【2年】の初彼女から発せられた言葉に、わたしの脳みそは理解が追いつかなかった。しばらくの沈黙が続き、その後わたしが何をしゃべったのか覚えていない。それほど脳内は極限状態に追い込まれていた。
5年ってなに? 借りた金どうしよう? 浮気? 違う俺か!? 後ろのお客さん若いのに大分ハゲてるな。 目の前にいる人誰だっけ? 俺って何者だ?
ただ覚えていることは思考が奔走し、まるで走馬灯のように様々な考えが浮かんでは消えていったことだけだ。
浮気をされていたのではない、〝知らない内に浮気相手になっていた〟など誰が想像出来よう。男とは本当に鈍く愚かな生き物だ、今思い返せば不自然な言動らしきものは何となく見えてくるが、当時は本当に気が付かなかった。
ススキノの居酒屋を出て、茫然自失となったわたくしは、特に意味も無く徒歩で3時間かけ自宅へ戻った。お酒を呑んでいないにも関わらず、道中で何度も嘔吐した。また、人間とは打算で始めた恋であっても、月日がたてば本当に相手を大切な人と思ってしまうよく解らない生き物だということも理解した。
こうして初めての恋愛は幕を閉じた。一週間大学に行くことも出来なかった。ひたすら家で呆然とし、元彼女の痕跡を全て消し去る努力をした。それは決して失恋ソングにあるようなセンチメンタルな気持ちではなく、魔祓いの祈祷を行う神主に近い心境だったように思う。
兎に角女性というものが恐ろしくなった。未知の化け物のように感じた。飲めもしない度数の強い酒を呑んでトイレで吐いてそのまま気絶したりもしていた。
そんなわたしを心配し、看護学校の戦友たちが家に押し寄せてきた。男性2人、女性2人。わたしがあったことを洗いざらい話すと、その友人たちは皆一緒に怒ってくれた。軽口で笑わせてもくれた。
そうして何とか胸に傷を負ったものの、再び学業に復帰でき、元彼女のことも笑い話として昇華できるようになった。
さて、女性の恐ろしさを知ったわたくしであるが、もう恋は諦めたか?
そんなはずはない。クズの性根とはそうそう簡単に変わるはずもなく、わたしは再びヒモ活動を再開することとなった。