打算から始まった恋 ②
「ごめん!5000円貸して!」
17歳高校生の時分、その後の人生で何度この台詞を吐いたか覚えていませんが、初めて口にしたのは初めての彼女が出来て3か月目のときでした。さて、彼女の反応ですが……
「もー。ちゃんとお金の管理くらいしなさい!」
と財布から1万円を出してくれました。そのときのわたくしの率直な感想を言いましょう「え、チョロ」です。ヒモという目標を立ててそのために意味が解らない程、精神が蝕まれるほどの努力をして、ようやく手にした1万円ですが、感慨深さも何もありません。
当時高校に内緒でアルバイトもしていたのですが、もちろんフルで入れる日など限られており、月に精々3万円。言うなれば10日働いて得られる賃金を一瞬で手に出来たわけですが、謎の呆気なさのほうが上回りました。
その後も彼女にはちょくちょくとお金を借ります。彼女は彼女で「これで最後だからね!!」といいつつ何度もお金貸してくれました。【食事は割り勘だけれど元を正せば彼女の金】なんてことも多々あります。こうしてダメ人間はどんどん熟成されていきます。
さて、話は変わってわたしも高校3年生。進路を決めなければならない時期になりました。「上京して劇団に入って劇作家になりたい!」と親の前で言ったら顔の形が変わるくらいぶん殴られ、〇〇ヨットスクールに行かされそうになりかけたので、違う進路を考えます。
……といっても、バイト生活にヒモ活動に忙しく、学校は机で寝るところだと思っていた私の成績などいいはずがありません。将来何になりたいか?なんて考えたことも無かったです。
それでも興味のある分野はありました。それは人間の心理であったり精神に関することです。本棚にはラノベに混じって夢野久作や小林泰三の精神をテーマにした幻想小説や精神科医や心理士のエッセイが結構あった人間でした。
なので最初は「臨床心理士になりたい!」と言ったのですが、そもそも育成する大学まで偏差値が足らず浪人を覚悟しなければならないこと、資格習得に6年かかること、そんなにコスパが良くない事 などを理由に諦めます。
「でも精神科で働きたいなら看護師や作業療法士という手もあるぞ。……まぁお前の成績なら浪人覚悟だろうが」
と進路相談で教員に言われ、わたしは何となくで看護師の道を目指しました。
そのことを彼女に言うと「素敵じゃん!!」と大層感心してくれました。そこからわたしはバイトを辞め看護大学を目指して勉強を始めます。看護師を目指したのは既に夏の終わりでしたが、毎日予備校に通い、過去問を何度も繰り返し、奇跡的に第一志望の学校へ一発合格致しました。
さて看護学校とは女性だらけです。高校では女性と碌にしゃべったこともなかったわたくしですが、ヒモ活の経験が活きたのか、そんなに苦労する事も無く同窓生たちと仲良くなり、遊びに行ったりといったことが出来ました。
……女性社会の怖さを知っている分、もし女性に忌避感を持った状態で看護学校に入学していればと考えればゾッとします。人生何が役に立つか解らないものですね。
さて、看護大学に入学して1年目の夏。当時付き合っていた彼女と〝そろそろ2年目〟という時に、彼女から居酒屋に誘われました。
彼女はカシスオレンジを、わたしはお酒が一切ダメなのでウーロン茶を飲んでいた時です。急に彼女から嗚咽が聞こえ始め、目に涙が溜まっていきました。
どうしたの? 体調でも悪いの?
そんな声をかける間も無く、当時の彼女の口から凄まじい爆弾が投下されました。
「ごめん。5年付き合っている彼氏にバレそうなの。セパの事は好きだけれど別れて。」
……わたしは何を言われたのか一瞬サッパリわかりませんでした。