第七話 ボスモンスター
第七話 ボスモンスター
二日後、三人でダンジョンに来ていた。目標は今日中のダンジョンクリア。ただし、方針は命大事に。
装備を整えた後、受付を過ぎてダンジョンに入り使い魔をだす。
いつも通りの陣形で印刷した地図を頼りに最短ルートを選び進んでいく。途中何度かモンスターに遭遇するが、紅蓮が問題なく処理する。
そして、一番下の階層、第十層の奥。大きな扉の前にたどり着くぞ。
「じゃ、バフかけるぞ」
スキルを唱えて全員に世界樹の加護をかける。
「にしても、わりとインチキだよな、そのスキル」
「ゲームだったら状態異常完全無効に特殊攻撃無効、毎ターンHPが八割回復って感じか?」
「さあ?まあ毎ターンじゃなくて五分間毎秒回復だけど」
「じゃ、バフ切れる前にいくか」
扉をあけると、体育館ぐらいの空間の中央に、赤い狼がこちらを見据えている。このダンジョンのボスモンスター『レッドウルフ』。強さはEランクの上位。
「紅蓮!」
何かさせる前に、先手をとる。向こうもうなり声をあげながら走り出す。
一線。
初めてゴブリンを倒したような光景が広がる。
「え?」
そんな声を上げたのは誰だろうか。自分かもしれないし、別のやつかもしれない。
紅蓮の態勢と転がってきたレッドウルフの首から見るに、ハルバートを下から切り上げて首を刎ねたらしい。
予想はしていたけど、紅蓮さん強すぎである。
「か、勝ったな」
「ああ、実感ないけど」
「さすが紅蓮」
紅蓮がドロップした魔石を持って戻ってくる。これを査定してもらえば無事Eランクに昇格である。
「じゃ、戻るか」
帰り道でも気を抜かずモンスターを倒しながら進み、無事ダンジョンを抜けた。
「こちら、前回の査定額になります」
「「「おおっ」」」
提示された金額に思わず声を上げる。一人頭約三万。高校生の一日の稼ぎとしてはかなりのものである。
それから今回手に入った魔石をわたし、ランクの更新のためライセンスを預けて帰宅する。
「それにしても、えらくあっさり終わったな」
「まあいうてFランクだし」
「いやどう考えても紅蓮だろ」
そうつっこまれて『やっぱり』と思う。
移動中とかどれだけモンスターが現れても行きがけの駄賃とばかりに気づいたら両断されているのだ。そのため足止めされるという状況がなかった。ボスモンスターも紅蓮にとっては途中のゴブリンと変わらなかったようだ。
「けど、速さはともかく楽勝なのはリザもだろ」
「その速さが重要なんだよなぁ」
「高機動高火力重装甲とかどうしろと」
なんかやけに紅蓮を褒められる。まあ悪い気はしないが。
「それにお前スキルまで強いじゃん」
「まあ、うん。けど便利さでいえば滝沢の鑑定もだろ」
「鉄板だからな、冒険者系の物語では」
佐藤がため息をつく。
「俺はスキル持ってないし、マリーは女性としては最高でも戦力としてはなぁ」
ツッコミどころがあった気がしたがスルーして、しょうがないことだと思う。
「そもそもキキーモラって支援型のモンスターじゃん」
「大事だぞ支援型。ランクが上がれば上がるほどにな」
「その上位互換みたいなスキル持ちが目の前にいるんだよなぁ」
まあ僕自身はともかくスキルと使い魔がめちゃくちゃ優秀なのは認める。そっちが本体と言ってもいい。むしろ大半の冒険者はそうである。
「よし、俺決めた。貯金する。そして戦闘型のモンスター手に入れる」
「「おお」」
あの宵越しの金は持たないと熟女物のエロ本を買いあさっていた佐藤が貯金とは、正直意外である。
「ちなみにどんなの目指すんだ?やっぱ最初はDランクのモンスター?」
「Dってなるとボブゴブリンとかイエティとかか?」
「いや、目指すなら山姥」
「「性癖ぃ……」」
「なんだよ強いって噂だぞ山姥。見た目も好みだし」
山姥は確かにDランクとしては強い部類に入る。しかし不人気である。見た目の問題で。
逆にDランクで一番人気なのはサキュバスだ。伝承によっては美しいのは幻覚で、実際は恐ろしい姿をしていると言われているが、モンスターのサキュバスはしっぽのあるちょっと八重歯が長い美女や美少女である。サキュバスのカードは百万普通に超えるからCランクのカードより高い場合もある。
「まあ、うん、がんばれ」
「おう!目指せハーレム!」
佐藤から二人でちょっと距離をとりながら帰った。
「ちなみに滝沢は買うとしたらどんなの?」
「え?サハギンのメスだけど?」
サハギンにもメスは存在するが、オスとほぼ見分けがつかない。
「言っとくけどお前も大概だからな?」
「えっ」
なんか意外そうな顔しているけど佐藤も滝沢もどう考えても特殊性癖である。
三日後、Eランクに昇格したライセンスが届く。
早速両親に報告すると、とても驚かれた。
「え、もうランク上がったのか」
「早くない?あんた、危ないことしてないわよね?」
ダンジョンに潜っている段階で危ないとは思うが、そういう意味ではなく無茶な攻略をしていないかという事だろう。
「大丈夫だよ、Fランクのダンジョンは一日でクエストとボス攻略する人も(稀に)いるらしいから」
「そう?無理していないならいいけど……」
その日の夕飯は、反対する両親を押し切ってクエストの報酬を使って寿司を食べた。あまり散財をするタイプではないが、初めて稼いだお金は両親に少しでも恩返しとして使いたかったからだ。
「それにしても……」
眠る前に紅蓮にスキルをかけながら、その姿をみる。
紅蓮は最近マシュマロの上にチョコを乗せてから、頭の炎であぶって食べるのにはまっている。その姿からはダンジョンでの武士のごとき冷静さと勇猛さは見受けられない。
眺めていると、紅蓮が首を傾げてマシュマロを差し出してくる。それを苦笑しながら首を横に振ると、また黙々とマシュマロの上にチョコを乗せ始めた。今度家庭用のチョコフォンデュの小さいやつでも探してみようか。
Eランクに昇格し、レッドウルフの魔石分の報酬をもらってから、また三人でダンジョンに向かった。
ただし、今度はEランクの。
大半の冒険者が、このEランクダンジョンで止まる。冒険者が連れる使い魔の大半はDランク。Cランクの割合は少なく、B以上はほぼいない。
そして、DランクモンスターではEランクに囲まれると負ける。Cランクなら突破も可能だが、冒険者の増加に伴ってただでさえ高かったカードは値上がりを続けている。
ではDランクの使い魔を連れた冒険者はどうしているかと言えば、数には数を、つまりパーティーを組んで挑んでいる。しかし、頭数が増えるという事は分け前も減るわけで、日々の生活や使い魔を死なせてしまった場合の予備カードの準備などを考えると、中々Cランクのカードを購入することはできない。
ちなみに、数をそろえると言ってもダンジョン組合からパーティーと認められるのは四人までだ。これは十人も二十人も徒党を組んで攻略しても、次のランクで強いモンスターに一蹴されるだけとされたからだ。
閑話休題。
Fランク以上の賑わいを見せるEランクダンジョンの待合室。当然だ。冒険者一本で食べている人の大半はこのランクのダンジョンに通っている。本気度が違う。
中には会社からダンジョンに通うよう言われたサラリーマン冒険者もいるだろうが、同年代は少なく、なんとなく肩身が狭い。
どうにか人の波を突破して更衣室で装備を整え、受付に。今回ホームページから受注したクエストは『ゴブリンの魔石十個納品』のみである。なぜならFランクの時受けたクエストと違い長めではあるが期限がある。しかも、ダンジョンの人口密度が高いという事はモンスターとのエンカウントも減るという事だ。
このダンジョンに出てくるモンスターはゴブリンとアルミラージだ。アルミラージとは角の生えたウサギで皆角ウサギと呼んでいる。ウサギなのに狼より上の強さ。ついでに狂暴性も強い。サーチ&デスとばかりにその小さな体と素早さを活かして物陰から不意打ちを仕掛けてくる危険なモンスターだ。
危険なモンスターだが、見た目が可愛いので殺すのに罪悪感がわく。今まさに紅蓮にハルバートでミンチにされる角ウサギを見て進行形で。
「う……」
なんならゴブリンの時よりショックが大きいかもしれない。自分の価値観も狂ってきていると思っていると、魔眼が左斜め前の物陰から角ウサギが佐藤に跳びかかるのを予知する。
「佐藤!」
「え」
叫ぶのとほぼ同時にリザが角ウサギの進行方向上にはいり、紅蓮が空中で叩き落す。
「び、びっくりした。サンキュー」
「いや、大丈夫か」
「ああ、お前たちのおかげでな」
焦った。角ウサギはそこまで攻撃力の高いモンスターではないが、それでも人間が食らえばかなりのダメージを負う。そうなれば最悪マリーでは戦闘不能一歩手前まで行くかもしれない。
少しの油断が命取りになる。そう気を引き締めてダンジョンを進んだ。
二時間ダンジョンに潜って得られたのはゴブリンの魔石七個と角ウサギの魔石が十二個。角ウサギの方が多いのは、やたら襲い掛かられたからである。
ダンジョンを出てすぐにスマホからクエスト『アルミラージの魔石を十個納品せよ』を受注してから受付に向かう。ダンジョンに潜った後でも査定前なら受注できるようになっていて本当に良かった。
受付で魔石を納品し、帰路につく。ゴブリンの魔石の方は残り三つ納品してからまとめて報酬がでるとのことだ。
しかし、これでもかなりの高ペースだ。普通だとEランクダンジョンで半日潜ってようやく魔石を合計十個手に入ったらいい方と言われているのに、今日だけで十九個も魔石が手に入った。
今は駅をでて少し歩いたところだ。
「やっぱすげぇな、紅蓮」
「ああ、倒すペースが段違いだ」
「さすが紅蓮やなって」
最後に言ったのは自分だ。二人の顔が妙に暗いのが気になって冗談めかしに言ったのだが、効果はあまりないようだ。
「なあ」
「じゃあ、俺こっちだから」
「俺も……」
「あ、うん。また学校で」
「ああ」
「またな」
去っていく友人たちの背中が、やけに遠く感じた。
Eランクに昇格してから二週間、ようやく『アルミラージの魔石を十個納品せよ』『ゴブリンの魔石を十個納品せよ』『アルミラージの角を三つ納品せよ』を達成できた。
特に最後の角の納品は一番時間がかかった。魔石でさえドロップするのに十体倒して一つゲットできるかなのに、それ以外のドロップアイテムとなるとそこそこ周回する必要があった。一度モンスターハウスめいた小部屋に遭遇したのだが、そこは紅蓮がハルバートから炎を噴出させて一瞬のうちに焼き払ってくれたので問題なかったが、あれは普通の冒険者が遭遇していたら死んでもおかしくないのではないだろうか。
そうして三つのクエストを終え、今はボス部屋の前に来ている。前のボス戦の時同様スキルを発動して全員にバフをかけてから入る。
Fランクの時とは違い、おそらく今回は苦戦するだろう。なんせこのダンジョンのボスはDランクモンスターの『ボブゴブリン』。ゴブリンの上位種たるこのモンスターは、二メートル近い身長に筋骨隆々の体。ランクはキキーモラと同じだが、こちらは近接戦闘に特化している分正面からぶつかると厄介だ。
しかし、一番警戒しなければならないのが、こいつらは群れるところだ。普通ボスモンスターは一体のみだが、ボブゴブリンの場合のみ三体から七体ほどの集団で出てくる。
こちらには紅蓮とリザがいてマリーがサポートする。自分のバフもあるし負けることはないだろう。しかし、それでも不安だ。扉を開けようとする手が少し震える。
すると、肩に手が置かれる。視線をやればそれは紅蓮だった。
紅蓮は軽く肩をすくめる。『心配するな』と言っているのだろうか。その様子に、不思議と不安が消えていった。
大丈夫だ。自分には紅蓮と、仲間たちがいる。
「開けるぞ!」
一声かけて扉を開ける。中には五体のボブゴブリンが待ち構えており、それぞれ盾と棍棒で武装している。
雄叫びを上げながら突っ込んでくるモンスターたちに、紅蓮が前に出る。
「紅蓮、薙ぎ払え!」
気合を込めるために言ったのだが、本当に薙ぎ払った。
紅蓮がハルバートを斧側でなく火が出ている方を向けて構えた。それはモンスターハウスで一度見た光景。しかし、今度は規模が違った。
薙ぎ払った瞬間、炎が膨れ上がり、視界が紅蓮に染まる。ボブゴブリンたちの悲鳴が響き渡ること数秒。炎が消えるとそこには炭化したボブゴブリン達が地面に転がっていた。
死体が消えてドロップアイテムだけになると、紅蓮が振り向いて胸をはる。
『どうだ、大丈夫だっただろう』
そう言っている気がして、思わず笑ってしまった。
ダンジョンを出て帰る途中、つい顔がにやけてしまう。
ボスモンスターは確定で魔石を落とすのだが、今回はなんと一枚カードも落ちたのだ。Dランクのカードとなればかなりの収入になる。これには恵比須顔になるのも無理からぬ事だ。ちなみに、カードのドロップ率はランクが上がるほど下がると言われている。
ついでに言えば、紅蓮のかっこいいところも見れたので機嫌がよくなっている自覚がある。
「なあ、ボブゴブリンのカードどうする?誰か契約するか?それとも売ってほしいカードの資金にする?」
友人二人にそう問いかけると、二人は立ち止まってお互いを見た後、一つ頷く。その顔は妙に真剣みをおびていて、嫌な予感がする。
「ボブゴブリンの魔石とカードはお前だけで受け取ってくれ」
「は?」
佐藤がそう言うが、それでは三人で決めたルールに反する。
「いや、なに言ってんだよ、どうして」
「今回俺たちはなにもしてない。いや、今回だけじゃない、ずっとだ」
滝沢が遮ってくる。そのもの言いに、嫌な予感が増していく。
「たまたまだろ?これからDランクのダンジョンに行くようになったら連携とか」
「いや、Dランクでもお前と紅蓮ならどうにでもなるよ」
まるで、自分達だけでDランクに行けとでも言いたげな口調だ。
「パーティー、解散しよう」
目の前が、真っ白になった。




