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第六話 高校デビュー

第六話 高校デビュー


サイド 矢橋 孝太


 四月、ついに高校生になった。

 中学時代は教室の隅で屯するCグループだった。しかし、今の自分達は冒険者である。あこがれの職業第一位の冒険者だと名乗れば、AグループとまではいかずともBの上位には行けるはず。

 そのむねを話すと、友人二人も同意してくれた。


「今更人間の彼女とかどうでもいいが、そろそろ俺も表舞台に上がってみたいと思っていたんだ」

「クラスで目立つ存在になれば、教師の目にもつく。まだ見ぬ熟女教師とのラブロマンスが待っている」


 正直この二人と同じ考えとは思われたくないが、こんなんでも友達である。それに味方は多い方がいい。

 最初の関門、クラス分けも奇跡的に突破しまた三人同じクラスになった。というか同じ中学で固まっているのは気のせいだろうか?

 何はともあれ、教室にはいり、入学式を終え、自己紹介の時間である。

 この自己紹介の時間で、今後一年の過ごし方が決定づけられると言っても過言ではない。


(リア充に、僕はなる)


 結論から言うと、失敗した。

 名前順の席、名前順の自己紹介。三人のうち一番早い佐藤もしょせん『サ行』。


「伊藤雄太だ。今年から友達と冒険者始めたんで、放課後は忙しくて遊べないから何か誘うなら昼休みに頼むな」


 自己紹介一人目の発言である。ちなみに見るからにリア充なイケメンであった。糞が。

 もはや、ここから自分も冒険者やっていますなんて言えば二番煎じどころか下位互換。下手すれば推定Aグループ様に喧嘩をうった不届きもの。高校生活は死ぬのが目に見えている。

 結局、冒険者とは明かさず、三人とも無難に自己紹介を終え、いつものように教室の隅っこに集まった。とても居心地がいい。

 ちらりと伊藤をみてみれば美男美女とお調子者枠のAグループを形成していた。


 その週の末、三人でダンジョンに向かった。

 別にクラスでの地位とかどうでもいいのだ。自分達はチャラついた軟弱者たちを置き去りにし、着実にステップアップするのだ。ただし、クラスメイト(特にAグループ)に見つかると怖いので一番近いダンジョンは避けて。


 冒険者は、必ず最初にFランクのダンジョンを攻略する。これは、どれだけ強い使い魔を連れていても覆されないルールである。

 それこそ紅蓮なみの使い魔を所持していても、調子に乗った素人がCランクのダンジョンに行ってしまえばモンスターに囲まれてあっさり死にかねない。そういったことを避けるために国会で定められた。それ以外にも初めて入るランクのダンジョンでは一定数の公式ホームページから出されているクエストをクリアしてからでなければ、ボスモンスターに挑んではならないとされている。そして、ボスモンスターを倒して魔石を持って帰り提出することで次のランクに進むことが許可される。

冒険者は登録の際ライセンスをもらい、ダンジョンの入口でそれを受け付けに通してから入る。出るときも必ず受付を通る必要がある。

 ライセンスにはその冒険者のランクと、一番強い使い魔のランク、そして使い魔の数が記入されている。これの偽造も当然違法だ。それでもたまにやらかす人がいるらしい。

ついでに言うと窓口の維持やダンジョンの管理のため入場料を取られるが、その金額もダンジョンのランクが上がるごとに高くなっていく。

電車を使って二駅分離れた町にあるFランクのダンジョンへ向かうが、自分たちと同じように大きなリュックを背負っている人が何人かいる。おそらく、冒険者だろう。

電車をおりて、目的地に歩いて向かう。数分で見えてきたのは、大型スーパーのようなダンジョンだ。正確にはスーパーの中にダンジョンの入口がある。

スーパーはもとからあったわけではなく、人が住んでいない空き家がダンジョン化したらしい。その後近隣住民は安全のため避難させられ、土地は国の管理となった。そして、受付の設置と同時に周りを医者のいる救護所と道具屋、ダンジョンで手に入れたアイテムの買い取り施設で固めたのだ。

スーパーの周りには今も空き家がたくさんある。ダンジョンを家に見つけても報告しない人がまだいるのは、これが原因だとテレビで騒がれているが、自分ならどうするだろうか。もしかしたら、見なかったふりをするかもしれない。

スーパーにはいり、更衣室に向かう。リュックから装備を取り出して身に着けていく。

上下薄い水色のツナギに、作業用のベルト。頭にはライトのついたヘルメット。胸のあたりにトラブル防止用のカメラを取り付ける。

着ていた服をロッカーにいれて、軽くなったリュックを背負い準備完了だ。冒険者というより作業員だが、皆似たようなものだ。

最初のころは軍隊みたいな格好の人が多くいたそうだが、暑いし重いしで体力をごりごり削られるのに、モンスター相手には心もとない防御力。基本的にダメージは使い魔が肩代わりしてくれるのもあって、こういった格好に落ち着いたらしい。

ここは初心者ばかりのFランクのダンジョンだから皆ちゃんと着替えているが、EやDのダンジョンに行く人は慣れてきて普段着のまま行く人も増えていると聞いたことがある。

三人でお互いの装備をチェックしあってから、ダンジョンの受付に向かう。列に並んで少しすると、自分たちの番になった。

受付のおじさんにライセンスを渡す。ライセンスはスマホぐらいの大きさと厚さがあるが、これは緊急時救助を呼ぶための道具でもあるからだ。

ライセンスを機械にとおして返してもらい、ついにダンジョンへと入る。


「紅蓮」

「マリー」

「リザ」


 全員使い魔を呼び、事前に話し合った陣形をとる。先頭で主に戦う紅蓮、その後ろで打ち漏らしが出た時対処するリザ、最後に自分達とマリーがバックアップを行う。これが正しいのかはわからないが、講習を参考にしたらこうなった。


「皆、用意はいいか」


 佐藤の呼びかけに頷く。今回ダンジョンに来る前に公式ホームページから受注したクエストは三つだ。これは、Fランクのボスモンスターに挑む場合の最低条件である。

 クエストの内容は『ダンジョン内の薬草を十個確保せよ』『ゴブリンの魔石を五個納品せよ』『ウルフの魔石を五個納品せよ』だ。どれも初心者向けなので時間制限はなく、今回一発でクリアできそうになかったら即撤退と決めていた。


「よし、いこう」


 そうして、本当のダンジョン探索が始まった。


 ダンジョンに入ってから五分。すでにゴブリンとウルフ(動画でよく見た狼型のモンスター)をそれぞれ十体以上紅蓮が瞬殺しているが、いまだに魔石は二個だけである。魔石をはじめとしたアイテムのドロップ率が渋いのは噂通りらしい。

 しかしいいこともあって、三人ともレベルが上がったのだ。魔力の製造・貯槽・放出の三つとも一ずつ上昇した。なんとなく体に力が漲っている気がする。たぶん気のせいだろうけど。

 冒険者はダンジョンでモンスターを倒せばレベルが上がる。しかし、レベルが上がったからと言って身体能力は上がらない。かわりに魔力が上昇する。これによりスキルの威力や発動できる回数が増えたり、契約できる使い魔の数が増えるといった恩恵がある。

 そしてしばらくして、通路の隅に茎が太めの草を見つける。


「なあ、滝沢」

「ああ。薬草だ」


 鑑定のスキルを持つ滝沢に聞くと、すぐに答えてくれた。やはり、あれが薬草か。

 丁寧に抜いて、リュックの中にいれておいたビニール袋にしまう。

 薬草は『魔法薬学』のスキルをもつ使い魔が他の材料と組み合わせることで下級ポーションを作ることができる。下級と言っても骨にひびが入った程度なら簡単に治せるし、風邪にも有効だ。医療関係者や学者さんたちがどうしてそんな効果がでるのかと頭を抱えている。

 

 クエストを達成できたのはそれから一時間後の事だった。十層あるうちの三層まで潜っており、モンスターを倒した数は合計すると百は超えている。すべて紅蓮が倒したのだが、疲れた様子もなく淡々としている。家のなかで見る大型犬のような姿からは想像できない、一流の武人めいた貫禄がその背中にはある。


「やっと、クリアか……」

「てかもう一時間たってたのか」

「ちょいちょい時計を見てたけど、ダンジョンの中って時間感覚ずれるよな」


 自然と空気が緩み、口数がふえる。


「失礼ながら、ここはまだダンジョンの中。あまり気を抜きすぎないよう」


 マリー先生に言われて、ハッとする。確かに、クエストの品を用意できただけで、状況はさっきまでと変わっていない。これから今まで来た道を戻らなければならないのだ。


「すまない、マリー、気が抜けてた」

「だな。まだダンジョンの中だ」

「注意して進もう」


 最後まで気を抜くことなく、初めてのダンジョン探索は成功に終わった。


 ダンジョンからでたら、使い魔をもどして受付を通りアイテムの買い取り場に向かう。番号札を受け取り数分。


「四番のお客様、お待たせ致しました。三番の窓口にお願いします」


 番号を呼ばれ窓口にむかう。


「ライセンスの提示をお願いします」

「はい」


 三人のライセンスをわたす。それを機会に通すと、受付の人がきいてくる。


「クエストを三つ受注していますが、どうなさいますか?」

「納品でお願いします」


 そう言ってリュックから魔石と薬草が入った袋をそれぞれ渡す。


「確認させていただきます。こちら控えとなりますので、大切に保管してください」

「はい、よろしくお願いします」

「鑑定の結果が出るのは約二日後となります。ありがとうございました」

「はい」


 受付を終え更衣室に向かい、入口で大きく息を吐く。二人も同じようだ。


「なんというか、疲れたなぁ」

「体力的にというか、精神的に」

「わかる。なんか無性に叫びたくなる」


 三人で駄弁りながら駅に向かう。


「じゃ、分け前は前に決めた通りでいいよな?」

「ああ」

「それで」


 講習を終える頃に、チームでダンジョンに潜った場合の取り分について話し合っていた。査定をしてもらった後、受け取った金額を三等分する。もしも手に入れたアイテムの中に売らずに欲しい物があったらそのアイテムの査定額分取り分から引く。もしもアイテムの査定額が三分の一以上なら残りの金額を自腹で他二人に払う。


「クエストを通したから普通に売るより高くなるだろうけど、Fランクだからなぁ」

「ま、初めてなんだからそんなもんだろ」


 ドロップしたアイテムは普通に売るよりも、クエストをあらかじめ受けていた方が高く買ってもらえる。ボスモンスターに挑むことも考えると、クエストは積極的に受けた方がいい。


「明後日、ボスモンスターだな」

「緊張するな」

「戦力的には大丈夫なんだけど、やっぱなぁ」


 ダンジョンに潜るのは週三回と決めている。基本的に三人で潜るが、予定が合わなければ一人で行くかそのまま休む。


「ま、あそこのダンジョンなら中の地図もボスモンスターも公式ホームページに載っているし、大丈夫だろ」


 そんな話をしながら、帰路についた。


 眠る前に悩む。内容はダンジョンでモンスターを殺して回ったことだ。講習とは違い、明確に自分の意思で潜って殺した。後になって罪悪感がわくと思っていたのに、意外なほど何も感じない。自分はこんなに冷酷な人間だっただろうか。

 そう考えていると、部屋の隅でマシュマロを食べていた紅蓮が、そっと背中を撫でてくれた。






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[気になる点] 大型スーパーのようなダンジョンだ。正確にはスーパーの中にダンジョンの入口がある。 スーパーはもとからあったわけではなく、人が住んでいない空き家がダンジョンかしたらしい。 ダンジョンが…
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