第六十八話 葛城始子捕縛作戦 2
第六十八話 葛城始子捕縛作戦 2
サイド 矢橋 孝太
翌日の放課後、正樹さんと二人警察署に訪れていた。出迎えてくれたのは井沢さんである。
「井沢さん、もう大丈夫なんですか?」
「はい。おかげさまで問題ありません。ご心配おかけしました」
「いえ、そんな」
本人の言う通り、ぱっと見怪我らしきところはない。スキルで治療したとはいえ、少し心配だった。
そのまま井沢さんに案内されるまま、どこかの会議室に連れてこられた。
「申し訳ありません。署の外に持ち出せない資料もありますので」
「いえいえ」
なんとなく悪い事をしていなくても警察署って緊張する。いや、今している事はよくない事ではあるのだが。一般人が勝手に捜査に首ツッコんでいるわけだし。
「こちら、現在葛城始子が身を寄せている地下組織『北園組』の資料です」
「はい……」
手渡された資料に目を通す。書かれているのは北園組の主な活動範囲、収入源、人数、使い魔の数と種類、現在行っている違法風俗店・賭博の場所、それらの証拠となる帳簿、そして警察内部にいる北園組とつながっていると思しき警察官の情報などが書かれていた。
引きつった顔で資料から顔を上げる。横では正樹さんも似たような顔で井沢さんを見ていた。
「あの、これって……」
「はい。北園組の資料です」
「こんだけわかってんならもっと早く捕まえればいいじゃん……」
正樹さんの言葉に、井沢さんが小さく首を振る。
「いいえ、これだけの資料が集められたのは、葛城始子が矢橋さんを襲った次の日です。色々なしがらみを超えて各部署が情報を全て吐いた結果がこれなのです」
井沢さんと自分の視線が正樹さんに向く。どう考えても上からとんでもない力でぶん殴ってまわった人がいる。そうでなければこうはならない。
正樹さんが遠い目で呟く。
「ひい爺ちゃん……久々にハッスルしちゃったかぁ……というかこれ、たぶんもっと前から動いていたな、絶対」
「もう、あの人に色々ぶん投げた方がいいのではないかと、私共も一瞬考えました」
「いやぁ、あの人は公の機関に普段は関わりたがらないから、個人的なつながり以外で。基本的に『儂が口出しする事ではない』ってスタンスだし」
「ええ。本来は我々の仕事です。それを民間の方に手伝わせてしまった……いえ、今もお二人に手を貸していただいている現状、大変心苦しく思っています」
そういえば、井沢さんの所属ってどこなんだろう。小沢さんの部下らしいけど、ダンジョン対策室じゃないのか?
「そして、こちらが現在の葛城始子を調べた報告書です」
続いてわたされた資料には、葛城始子の経歴、プロファイラーが出した推測、故郷の家族や知人からの証言、使い魔、スキルの内容、現在の住居、生活パターン、外出時のルート等、様々な事が書かれていた。
「よくバレませんでしたね……」
資料にも書かれているが、葛城始子は感知系のスキルを持っている。その範囲内に入らないよう尾行するのは大変なはずだ。
「こちらにも『気配遮断』の類をもったハンドラーもいますし、とある人物からの『貸出』もありましたので」
また視線が正樹さんに向く。今度は目をそらされた。
「いや、ひい爺ちゃんや爺ちゃん達が誰を雇っているとか知らんし」
ちょっと怖いのでこれ以上つつくのはやめておこう。井沢さんが小さく咳ばらいをして話を戻す。
「次の土曜日、警察が北園組に踏み込みます。そこで一斉検挙する予定です。内部に潜入している捜査官とも調整は済んでいます。その際、葛城始子を隣町の採石場の跡地まで誘導する手はずになっています」
今度は採石場の資料が渡された。先ほどまでの資料より当然だが薄い。中々の広さだし、近くに民家はない。ここなら紅蓮に全力を出させられるかもしれない。
だが、なぜ紅蓮達はこの場所を予測できたんだろう。
「あ、ここあそこか」
「え、正樹さん知ってるんですか?」
「一応うちの土地というか、去年買ったというか……。俺の妹に百合っているだろう。あいつ、実はAランクの使い魔と契約してるんだよ。いや、今はA+か?とにかく、その性能を確かめるとかで色々試したらしいぞ」
「え、初耳なんですけど」
「そりゃあ言っていなかったしな。十五歳にいっていないから冒険者じゃないし。天岩戸作戦の時は『自分も行く』って大変だったなぁ……」
なんか遠い目で思い出している様子だが、なるほど。東条家の土地だったのか。それをどういう方法でかは知らないが、紅蓮達は知っていたから推測できたと。
……いや、百合さんの使い魔確かめるためだけに採石場跡地を買い取るってなんだよ。石油王か。
「誘導は潜入した警察官が責任をもって行います。当日は、お二人にここで待機していただきたいのです」
「え、それ警察の人大丈夫なんですか?」
「彼は『こういうのが本来我々の役目』と言って譲らなかったそうです。腕は保証します。どうにかして生き残るでしょう」
どうやら井沢さんの知り合いらしいが、本当に大丈夫なんだろうか。
「それに、お二人を補足した段階で相手も余裕がなくなるでしょう。潜入捜査官を殺す暇はないはずです」
「それなんだけど、バレないか?道は荒れているから外が見づらい車でも何かおかしいってわかるだろうし、何より感知系のスキルを持っているんだろ?俺たちが待ち構えていたら気づかれるんじゃないか?」
正樹さんの疑問はもっともだ。市街地に逃走をされたら自分達には追えなくなってしまう。
「心配には及びません。葛城始子にはその有用性を見せろという名目で採石場跡地に連れ出す予定です。見届け人は潜入捜査官として。貴方方には、こちらの装備カードと契約していただきます」
「これは?」
「いうなれば透明マントの様なものです。魔力をはじめ様々な感知系スキルを突破する事が出来ます。ただし、足音や匂いなどは消せませんが」
「へえ……」
便利だな。……これ、逃げ隠れする生活になったら滅茶苦茶重宝するんじゃ。
「……あくまでレンタルですので、事件解決後は回収させて頂きます。大変貴重かつ使い方次第で危険な物なので」
「はい」
まあそれはそうだ。ただ、こういう装備カードも出回っていないだけで存在する事は気に留めておこう。
「以上が、大まかな作戦内容です。質問は有りますでしょうか」
警察署を出て、正樹さんと二人歩く。
「それにしても、百合さんがA+の使い魔と契約してるとは」
「先天型の使い魔でな。ある意味うちの最高戦力だ」
「どんな使い魔なんですか?百合さんの使い魔って」
「確か、『ガルーダ』だったかな。こう、金ぴかな鳥人間みたいなやつ」
「ガルーダですか」
確か昔ゲームで見た覚えがある。インド神話に伝わる赤い羽根に黄金に輝く肉体をもっているとか。……あれ、というかガルーダって神様の一柱じゃないっけ?具体的には忘れたけどとある神様の乗り物でもあるけど、神様でもあるとか書いてあったような。
なんつうもん使い魔にしてるんだ百合さん。
「というか、なんでお前って百合の事『さん』づけなんだ?」
「いやぁ、初対面の印象が」
「それは本当にすまんかった」
滅茶苦茶怖かったのを今でも覚えている。斬りかかられるかと思った。
「……よし、お詫びとしていい事を教えてやろう」
「いい事?」
「この前偶然百合の洗濯物を見たんだけど、何がとは言わんがFだったぞ」
「え、F……!?」
「そう。まだ中学生なのにだ」
「凄いっすね」
「ああ、凄いぞ。しかもまだ成長中」
Fかぁ……初対面の時は怖くてよく見れなかったし、帰る時に見たのは着物姿だったからよくわからなかったが……Fかぁ。
顔も良くてスタイルも良くて、家柄もいいって、世の中凄い人はいるものだなぁ。
……どうでもいいけど、着物と黒髪巨乳美少女の組み合わせって凄くエッチだと思います。
その日の晩、正樹さんから『助けて』というメールがあり、すぐに『お気になさらず』という連絡が百合さんから来た。
うん、見なかった事にしよう。なんか魔眼が金色の鳥人間に頭をキツツキみたいに突きまくられて悲鳴を上げる正樹さんの姿を幻視したが、きっと気のせいに違いない!
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
次回から作品のタイトルを『凡人高校生、動く鎧?と現代ダンジョンへ(旧題:動く鎧?が使い魔になりました)』に変えようと思います。




