第五話 冒険者事前講習会
第五話 冒険者事前講習
サイド 矢橋 孝太
友人二人と共に、電車に乗って講習場にやってきていた。
「そういや二人はどうやって親を説得したの?」
「「土下座」」
「oh……」
予想通りと言えば予想通りの手段に苦笑いを浮かべる。
「そんなことより、講習って具体的に何するんだろうな」
「ネットだと、体力審査と座学、終わりの方で実際にダンジョンに行くって」
「ついにダンジョンか、胸が躍るな」
「「気が早えよ」」
佐藤に突っ込みを入れながら、講習会場に入っていった。
会場には自分たちを含め五十人ほどの人がいた。年齢や性別は若い男が多かったが、ちらほらと同年代の女子もいる。
最初に講習会の説明があり、更衣室で着替えてグラウンドへ。そこで学校の体力測定のようなことを午前中まるまる使ってやらされた。
スキルによる最適化のおかげで運動部並みの成績をだせたが、上には上がいて筋肉もりもりマッチョの坊主頭の人が一位だった。
各自昼食をとった後、座学に。教室に使われている会議室だがかなり汗臭い。
座学の内容はダンジョンの種類やモンスターについてだ。モンスターについてはゲームや漫画の知識通りなものもあれば、全然違うもの、そもそも知らないものもいて全部覚えようとするのは大変そうだ。
一日目はこれで終わり、二週間ほど座学と体力づくりをやらされた。
体を動かす運動の方はスキルのおかげで疲れ知らずなので問題ないが、座学が大変だった。ダンジョンやモンスターなどのファンタジーな知識は楽しいのだが、税金についてはかなり苦労したのだ。この前まで中学生だった奴に確定申告とか言われても困る。
そして、研修も終わりのころ、ついにダンジョンでの実戦が始まった。どこのダンジョンに行くのかと思っていたら、まさかの会場の地下にダンジョンがあった。これはネットにもパンフにも乗ってなかったので会場中が驚いた。
ようやくダンジョンに入れると沸き立つ会場に、唐突に爆弾が投げられる。
「じゃ、二人組作ってください」
その言葉に、はじかれた様に友人二人と向かい合う。三人とも、冷や汗を垂らして互いを警戒している。
「俺は、パーを出す」
口火を切ったのは、佐藤だった。
「なら、僕もパーをだそう」
すかさず心理戦に乗る。ビビったら負ける。戦う前に負けるわけにはいかない。
「じゃあ俺は光線銃」
「「滝沢は反則負けな」」
「待って」
それぞれが呼吸を整え、構える。
「「「最初はグー」」」
勝負は、一瞬だった。
「なん、だと……!?」
敗北したのは滝沢で、勝利したのは僕と佐藤だった。
「まさか……!」
滝沢がこちらの目を見てくる。そう、この危機的状況に魔眼が発動し、一瞬先の未来を見たのだ。
しかし、この不正を暴く証拠はない。それがわかっている滝沢は目にうっすら涙を浮かべて駆け出す。
「矢橋の馬鹿!もう知らない!」
彼がいいパートナーと組めることを祈る。
というか、別にふざけて滝沢をはぶいたわけではない。自分も滝沢も近接型の使い魔で、佐藤の使い魔は支援型だ。もしも佐藤があぶれて知らない人と組んだ時、相手まで支援型だったら最悪詰む。
その点自分か滝沢が佐藤と組めれば前衛と後衛でうまく役割分担できるし、近接型なら相方が同じ近接型でも前衛二枚でやっていけるだろう。初心者用ダンジョンで物理攻撃無効の幽霊系は出さないだろう。
何故滝沢に勝利を譲らず自分が佐藤と組んだか?だって知らない人と話すの怖いし。
三十分後、全員が二人組をつくり、地下へと向かう。滝沢の相方はまさかの美少女だった。解せぬ。
五十人ほどの実習生に、三人の教官がローテーションで組む。一組ずつ入っていき、体に取り付けられたカメラでダンジョンでの動きを撮影。それを待っている者達は見て参考にする。
列になって順番に入っていくのだが、今になって緊張してきた。初心者用のダンジョンで広さは東京ドーム四個分だが、あくまで一層を一周してくるだけ。しかも試験官の補助がついている。しかし、今から万に一つの可能性とはいえ死ぬかもしれない場所に行くのだ。地下室中が緊張で静まり返る。
少しでも情報を得ておこうと先に行ったグループの映像を食い入るように見つめる。どの受講者も基本的にDランクぐらいの使い魔をつれてダンジョンを回っている。たまにEランクやCランクもいるが、どのグループも問題なく出てくるゴブリンを倒している。
「あっ!?」
一組、少し危なかったチームがいた。目の前のゴブリンに集中しすぎて、背後から近づくゴブリンへの反応が遅れたのだ。攻撃が届く前に教官のリザードマンが割って入り難を逃れたが、肝が冷えた。
「次、入ってください」
とうとう自分達の番になった。教官の使い魔はガルム。攻撃力と機動性に優れたC+の使い魔である。
「紅蓮」
「マリー」
ダンジョンに入る直前に使い魔を呼び出す。
「ず、ずいぶん強そうな使い魔だね」
教官が紅蓮をみて絶句する。
紅蓮はハルバートを握り、自分の少し前に仁王立ちしている。というか肩や背中、両膝から金色の突起が生えている。そんなのあったけ?
「あ、ありがとうございます。頼むぞ、紅蓮」
呼びかけると、片手でグッとサムズアップしてくる。よかった、いつもの紅蓮だ。
使い魔を伴ってダンジョンを進む。紅蓮を先頭に、マリー先生、自分と佐藤、教官とガルムの順だ。
ダンジョンに入って一分ほど、ついにモンスターが目の前に現れる。敵は槍を持ったゴブリン一体、周辺に他のモンスターはいない。魔眼の反応もない。
「紅蓮!」
ほとんど反射で紅蓮に呼びかける。
一線。
何が起きたのかわからなかったが、近くに転がってきたゴブリンの首と、崩れ落ちる体、そしてハルバートを振りぬいた紅蓮から、ようやく状況を把握する。
紅蓮はゴブリンの体が消えるのを見届けてから、こちらを首だけ振り返る。まるでこちらの様子を確認するように。
「…大丈夫だ、紅蓮。ありがとう」
その後も現れるゴブリンを二体だろうが三体だろうが一瞬で紅蓮が切り捨てる。
「あー、君の使い魔だけでなく、そちらのキキーモラにも戦わせてくれないか?彼にも経験を積ませなければ」
教官にそう言われて、これが実習だと思い出す。
「ご、ごめん佐藤」
「い、いや、俺もだわ、すまん」
こん棒を持ったゴブリンが一体現れる。
「マリー、大丈夫、か?」
「はい、問題ありません」
前に出たマリー先生の首から上が狼にかわり、爪が鋭く伸びる。
「がぁああ!」
雄叫びを上げてマリー先生が駆ける。左右にフェイントをいれてゴブリンを翻弄し、武器を持っていないほうからとびかかると、左足のかぎ爪でこん棒をつかみ、左手でゴブリンの頭を、右手で左手をつかむ。
「おお!」
ゴブリンの首にかじりつき、頸動脈を押さえる。ゴブリンがうめき声をあげて暴れるが、力は互角らしく、体勢が有利なマリー先生が勝ち、ゴブリンが消滅する。
直後、マリー先生に別のゴブリンが跳びかかる姿を魔眼で予知する。
「紅蓮!」
暗がりから飛び出したゴブリンを、空中で紅蓮が串刺しにする。
「ありがとうございます、紅蓮殿、矢橋殿」
マリー先生が顔を狼から普段の老婆の姿に戻しながら礼を言ってくる。
「よく気が付いたな、今のはわかりにくかったと思うが」
「いえ……」
ホッと一息ついて、首を振る。まだ実習は終わってないのだ、気は抜けない。
それから、順当に紅蓮がゴブリンたちを切り裂いてゆき、時々ドロップした魔石やカードを回収する。ちなみにこのダンジョンで手に入ったアイテムとカードは全て講習場にいく。そういう契約になっているのだ。
ダンジョンを出て大きくため息をつく。隣を見れば佐藤も同じ様子だった。
「紅蓮、ありがとう。もう大丈夫だから」
使い魔を戻し、教官にも礼をいって実習が終わった側のグループと合流する。
「……なんか、やけに見られてないか?」
妙に視線を感じる。軽く周りを見てみるだけで何人も目が合う。
「そりゃお前、紅蓮だろ」
「やっぱり?」
紅蓮の戦闘力はこのなかでも頭一つどころか完全に圧倒する。この場にいる教官達全員の使い魔が同時に相手になっても勝てるかもしれない。それが紅蓮だ。
ここにいるのは同じ冒険者志望。つまり講習が終わったら商売敵だ。敵対するか、取り込むか。それとも下につくか。お互いの戦力を見定めているのだ。
自分の番が終わってようやく他の人の使い魔をよく観察する余裕ができた。
それからもダンジョン実習はつつがなく終わり、今日のところは解散となって帰路につく。
「緊張したなぁ……」
「それな。まだ手汗すげぇよ」
「俺の相方、めっちゃ矢橋について聞いてきたぞ」
「マジで!?」
滝沢の相方と言えば美少女である。しかもチラッと見た感じスタイルもよかった。
「とりあえず熟女好きなうえにモンスター娘フェチと伝えておいた」
「それお前らの事じゃん!?」
驚愕のあまり立ち止まって叫ぶ。何故そんなむごい事をしたのか。
「いやだって明らかに紅蓮目当てじゃん。やばいって」
「男には!わかっていても引っかからなきゃいけない罠もあるだろぉ!?」
ハニトラとわかっていても引っかかるのが男の子なのだ。むしろちょっと引っかかりたい。
「わかんねぇわ、童貞じゃないから」
「悪いな、童貞じゃないから同意できねえわ」
「くそがぁ!」
涙を流しながら走る。家に向かってひた走る。今泣かずしていつ泣くのか。
変わってしまった友人たちと、過ぎ去ってしまったチャンスに対して、涙が止まることはなかった。
その後、無事三人とも講習を終えることができた。




