第四話 ダンジョン開放
第四話 ダンジョン開放
サイド 矢橋 孝太
紅蓮がやらかした日からしばらくして、年をこした。
この頃になると教室もダンジョンの話題より進学先や勉強方法、通っている塾についての話が増える。
自分たちも、今度図書館で集まって勉強会をしようかと話していたところだ。
そんな勉学に励む若者たちを惑わすニュースがアメリカで発表された。
一部ダンジョンの開放である。
銃器の持ち込み禁止、十五歳以上限定など様々な条件があるが、一番重要なのは使い魔を持っていることだ。使い魔が生きている限り、ハンドラー(この前この呼び名が世界で定着した)は死ぬことはないからである。
同時に、使い魔の販売も行われるようになった。ダンジョンのモンスターは死ぬと低確率でカードになる。そのカードに血をたらすと契約でき、使い魔になる。
ただし、カードは一番低いFランクで一枚十万円。一番高いCランクカードは一枚百万円する。しかも、これらは基準であり人気のものは更に高くなる。ネットでチラッと見たが女エルフのカードなど三百万以上の値がついていた。
このカードの販売について人権団体が猛反発した。先のエルフの販売など奴隷制度の復活だとデモが勃発している。
だというのに、カードを購入しダンジョンへ潜る『冒険者』が後を絶たない。富豪や俳優などにも冒険者になると明言している者もいる。
そして、このダンジョンの開放とカードの売買が日本でも行われるとニュースで取り上げられたのだ。
憲法の違反ではないかと民間から声が上がっているが、国会はいつになく粛々と進行がされており、野党側にやる気が感じられない。これは明らかな異常事態である。
何故普段あんなにやじの飛ばしあいになっているのにダンジョンについてだけやたら仲がいいのか、ネット上では陰謀論がささやかれている。
何が言いたいかといえば、受験やめて冒険者目指すやつが増えてきたのだ。
先生方が嘆き頭を抱えていた。うちのクラスでも高校いかずにダンジョンで冒険者になると騒いでいる奴らがいるのだ。学年全体でみると二十人ぐらいいる。
正直、チラッと自分も受験やめて冒険者になろうかなと思った。本当にチラッとだけど。
だってつらいのだ、受験勉強。やめれるならやめたい。これが後一年続くとか泣きたくなる。だがしかし、冒険者になれば楽できるかというとそうでもないと気付いた。
まず、親の説得。最初にして最大の難関である。うちは高校大学でバイトしなくていいから絶対に進学して卒業しろと昔から口を酸っぱくして言われている。そうでなくてもダンジョンは危険なところというのが世間一般の認識である。そんなところに我が子を放り込もうとする親はそういない。
次に活動資金。親の説得が成功したとして、ダンジョンに着の身着のまま行けるわけではない。登録料、事前の研修費用、その間の生活費用、そして何より戦力の確保。自分の場合紅蓮がいるしそれで不安なら友人二人を誘えばいいが、そもそも使い魔がいない奴はカードを買う必要があるのだ。しかも弱いカードを集めても意味がない。戦闘の素人が戦うなら強い戦力が必要だ。そんなものを買うお金、ただの中高生にはない。
最後に情報。ダンジョンにもランクがあり、自分に見合ったものを選ばないといけない。これは所持している使い魔のランクによって入れるかが決まっているが最悪近所はどこも入れないなんてこともある。更に、当然出てくるモンスターや環境に対する相性もある。自分で言うなら状態異常系のダンジョンに強く、水場のダンジョンで不利になる。それらの情報を第一期冒険者はほぼ自力で集めなければならないのだ。国のホームページに多少は書いてあるが、それだけである。
ぱっと浮かぶだけでもこれだけの問題がある。もしも自分が冒険者になるとしても、それは高校に進学した後だ。
今日も今日とて受験に備えて勉強である。
ダンジョンが日本でも解放され、そして三年生に進学した。
教室も塾もピリピリした空気を出している奴と、のんびりした奴がいる。
前者は自分含め高校進学のため勉強中の者たち。後者は高校進学を投げてダンジョン関係に行くやつか就職を考えている奴である。
数は圧倒的に自分たちの方が多い。だというのにダンジョン組は今日も教室で楽しくお喋りである。彼らはわかっているのだろうか?この現代日本でどれだけ学歴が大事か。冒険者のつぶしのきかなさが。ちなみに僕はわかっていないし、わかりたくない。
そんなこんなで月日が流れていく中、紅蓮にいくつかの変化が起きた。
まず、ステータスの上昇。ただの思い付きで始めた毎晩のバフ掛けは予想外なことに功をそうした。
エレメントナイト 個体名:紅蓮
筋力:A 耐久:A+ 敏捷:A
器用:C 特殊:C+
スキル パッシブ
・炎熱無効・全耐性
スキル アクティブ
・魔力変換(炎)(中)
コスト:5
耐久と特殊に+されたのだ。個人的に大発見である。ついでに世界樹の加護も(小)から(中)に進化した。
次に、なんかすごい知的ムーブしだした。マシュマロを頬張っているのは変わらないが、文字の簡単な読み書きができるようになってから急速に知識を増やしていったのだ。最初は絵本を自分で読んでいたかと思えば、部屋にある漫画を読み、試しに新聞をわたしたら隅から隅まで熟読していた。リビングにあった将棋盤に興味を示していたのでやらせてみたら、あっという間に強くなり自分や両親では歯が立たなくなってしまった。今はよく一人で詰将棋をやっている。最近受験で構えてやれていないので今日帰りに詰将棋の本でも買って帰ろうと思う。
受験が終わった。比喩ではなく本当に終わった。
長いようで短い一年だった。特に受験当日が近づくにつれて時間の感覚が短くなっていった気がする。自己採点では第一志望も問題ないと思うが、ケアレスミスをしてないことを祈る。
ついでに、紅蓮のステータスと世界樹の加護がまた上がった。耐久は流石に増えなかったが、特殊の項目がBになったのだ。
加護の方も(大)にかわり、効果がだいぶ変わった。というかぶっ壊れ性能とかした。箇条書きにするとこうなる。
●発動時対象の全状態異常、あらゆるダメージを治癒する。実質エリクサーぶっかけるようなもん。
●発動後五分間毎秒対象の傷と状態異常を治癒する。また、五分間の間筋力、耐久、特殊を一段階上昇させる。BならB+に、C+ならBになる。
●このスキルは消費する魔力によって対象の数を増やすことが可能。
我がスキルながらやり過ぎである。自分が敵なら真っ先に殺すヒーラー兼バッファーだ。
受験も終わり、ふと冒険者について調べたくなった。受験中はそちらに集中するためあまり見ないようにしていたのだ。
ネットで調べはじめて、冒険者の世間の扱いに驚愕した。なんと、人気の職業ランキング一位になっていたのだ。
一年前はいかがわしいとまでテレビで言われていた職業が、よくもまあ変わったものである。その原因を調べると、芸能界の進出とウイチューバーの影響が大きい。
芸能人に疎い自分でも知っているような有名人が何人も冒険者を兼業し、時には冒険者資格をもったクルーを連れてダンジョンを攻略する番組まであるようだ。
ウイチューバーの方は、混沌としていた。試しに検索しただけでも目が回りそうなぐらい動画投稿者をやっている冒険者が多い。なかにはハーレムパーティーでダンジョン巡りしている人もいる。羨まけしからん。
ネットだけでなく新聞やテレビでも冒険者について調べてみる。
どの情報をとっても好意的なものばかり。懐疑的なものはほんのわずかだ。
ダンジョンのモンスターが落とす宝石『魔石』はどうやってかは知らないが電力を発生させることができるらしい。いや本当にどういう仕組みだ。これにより真のクリーンエネルギーだとかエネルギー問題での自立だとか色々言われている。それ以外にもダンジョンで手に入るポーションは医学への新たなアプローチだとか未知の金属が採れたとか。
冒険者専門の学校の設立の検討だとか、大手企業のダンジョン業界への進出だとか、とにかく世の中がダンジョンに夢中になっている。
一年前、経済の中心がダンジョンになるなんて冗談交じりに考えていたが、まさか本当になるとは。
もしかしてこれは本当に陰謀論的な感じで国が関わっているのではないか?人々がダンジョンに行きやすくする環境を作ろうとしている。それは何故か?考えてもわからないし、なんとなくわかってはいけない気がする。ガチの陰謀めいてきた。
まあ、自分が冒険者になる可能性は低い。親の説得とか準備の費用とか面倒すぎる。憧れはまだ消えていないし、ハーレムパーティーとか羨ましくはあるが、そこはグッとこらえる。今は、友達と受験お疲れパーティーをどうするか考えなければならない。
「すまん、孝太。冒険者になってくれ」
はじめて、父に本気で頭を下げられた。
「え、いや、父さん、とりあえず頭あげて」
「お父さん、まず事情を説明してくれなきゃわからないわ」
会社から帰ってきた父が開口一番に言った言葉に母ともども困惑する。何故に冒険者?
「あ、ああ。実は、この前の飲み会の時に、ポロっと紅蓮の事を話してしまったんだ」
父がリビングの隅で新聞を読んでいた紅蓮を見る。それに紅蓮は首を傾げながら自分を指さす。
「うちの会社でもダンジョン産の物を取り扱うことになって、それで冒険者とつながりを持ちたいんだが、強い使い魔をつれている人や元自衛官とかはたいてい別の会社と契約済みなんだ」
なんとなく、話が読めてきた。
「そんな時に、うちの息子が強い使い魔をつれていて、もうすぐ十五歳になるってことを知られたものだから……」
「とりあえず冒険者にさせて様子をみようと」
「そうなる」
父の説明に自分は納得したが、母は眉間に皺をよせている。
「孝太はまだ子供よ?それに、ダンジョンって少し危ないんじゃない?」
ダンジョンの世間からみた認識ってちょっと危ないなんだ、と一年情報断ちしていた身には驚きの常識である。
「ああ。だから正式なものじゃないし、入るダンジョンは孝太が自分で決めていい。取引もまだする予定はない。取り合えず冒険者になってもらえば、後はいくらでも誤魔化しがきく」
どうも、父の上司が乗り気なだけで、それをかわせればいいので会社専属で働けとかではないらしい。
「そう……けど、孝太はどう思っているの?」
「ああ、一番大事なのは孝太の意思だ。ここで断っても何とかする。元々父さんが言わなければこんなことにはならなかったんだ」
両親に真剣な顔でみられ、少したじろぐ。息を整えて冷静に考えると、これは渡りに船ではないだろうか?
両親は納得済み。登録料や受講料も出してくれそうな雰囲気。これはチャンスだ。
「なるよ、冒険者。元々興味あったし、危なすぎるとこにはいく予定もないよ」
この日、僕の冒険者生活が決まった。
『マジで?矢橋冒険者になるの!?』
『マジでか』
その日のうちに友人二人に報告する。二人も冒険者に興味があると去年いっていたのを覚えていたからだ。
『マジ。来週から冒険者の事前研修に行く』
事前研修自体は年齢関係なく受けることができるため、受験は終わってもまだ卒業はしていない自分もできる。
『まさか矢橋も冒険者になるとはなぁ』
その書き方に違和感を覚える。も?
『も、ってまさか』
『そのまさかだ。俺らも実は冒険者になろうかって話を佐藤としていた』
「マジか」
思わず声が出る。いつの間にか仲間外れにされていたとか地味にショックである。
『隠していたわけじゃないんだが、受験終わるまで矢橋ダンジョン断ちするって言ってたし』
『いや言えよ。流石にショックだわ』
『すまんすまん』
『あいむそーりー』
『まあいいけどさ。じゃあ二人も研修いくの?』
『おう。来週ってことは同じ組かも?』
『このタイミングなら高校入学までに研修終わるな』
『受かってたらな』
『やめろ。まじでやめろ』
『その想定をするんじゃぁない。次言ったらお前の性癖を学校中にばらす』
『許してクレメンス』
そんな馬鹿なことを話しながら、ふと、高校の事を考える。
もしこのまま冒険者になったら、高校デビューできるのではないかと考えた。教室の隅は居心地はいいが、あくまで日陰である。
クラスの人気者とまではいかないまでも多少は一目置かれる存在になったら、彼女ぐらいできるのではないか。
「なるぞ……!冒険者……!」
絶対に冒険者になりたくなってきた。部屋の隅で将棋の本を読んでいた紅蓮も『おー』とボードを掲げている。




