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第三話 ダンジョンの中

第三話 ダンジョンの中


 自衛隊と警察合同で作られた使い魔及びダンジョン対策組織、通称『魔法対策室』。

 これが結成されてから早三カ月。気が付けば世の中普通に回っていた。強いて変化をいうとしたら、毎晩寝る前にひたすら『世界樹の加護』を紅蓮にかけ続けていることだろうか。

 ふと、バフをかけ続けたらかかってないときでも能力値が上がるんじゃないかと。ついでに、スキルの後ろに(小)とついているので使い続ければスキルが強化されるんじゃないかと思ったのだ。

 ネット上でもスキルを使い続けたら(小)から(中)へと変わったという報告があった。もっとも、信用できるか微妙だが。


 使い魔についてなにか新しい情報はないかとネットを回っていると、あちらこちらで騒ぎになっている話題があった。

 アメリカ政府が、ダンジョン攻略の様子をネットで流す。

 そんな噂が広まっており。一応確認のため公式のホームページを開くと、本当に告知がされていた。

 日本でもそのネット動画をテレビで流すと官房長官から発表があり、話題はそれ一色になった。今まで秘匿されてきたダンジョンの中が公式に映されるのだから当たり前だ。

 放送当日、深夜だというのに自分と家族もテレビにかじりついて見ていた。きっと日本中がそうだろう。

 グロテスクな映像が流れる。過激な映像が流れる。などのテロップの後、放送が始まる。

アメリカの軍隊らしき人達がそれぞれ銃を構え、傍らに使い魔をつれている様子はまるで映画を見ているように現実味がなかった。部隊は油断なくクリアリングし、ゴブリンが現れては使い魔が瞬時に排除して奥へ奥へと進んでいく。

 そして、最奥のボス部屋につくと、まず扉を少し開けて投げ物をいくつも放り込み、爆音がした後突入。使い魔たちを前衛に配置した状態でアサルトライフルを一斉射して、気が付けばダンジョンの主はハチの巣にされて倒れ、宝石を残して消滅した。

 以上の映像は一時間ほどの長さだった。しかし、その迫力はどんな映画よりも強く、これが現実に起きたことなのだ。

 家族と熱に浮かされたように感想を言い合った後、部屋に戻ってベッドにはいったが、興奮で目がさえてしまい結局ろくに眠ることはできなかった。

 翌日、ニュースは昨日の映像の考察や、過激すぎる内容を国営で放送することへの批判でうまっていた。

 学校についても教室の話題はダンジョンの中についてだった。正直、自分も友人たちとその話をしたくてしかたない。

 足早に荷物を置いて二人に近づく。教室の隅が定位置だ。


「なあ、昨日の見た?」

「もち。見てないやついないだろう」

「だな。日本中があれ一色だよ」


 性癖がぶっ飛んでいる二人だが普段の会話は通じるからありがたい。いまだにのろけ話をふってくるのはイラっとくるが。


「やっぱダンジョンの中って危険だらけだな。モンスターが常に襲ってくるとか」

「ああ、けど、ダンジョンの主って現代武器で倒せるってのが意外だったな」

「いっても、手榴弾投げまくりのライフル撃ちまくりだろ?あれで殺せない生物っていないだろ」

「いや、ぶっちゃけリザなら」

「しっ」


 滝沢が自分の使い魔を話題に上げようとしたので慌てて止める。

 教室や人目のある所では自分達が使い魔を持っていることは口にしない事にしているのだ。自分達の会話など誰も気にしないだろうが、それでも注意することに越したことはない。


「わ、わるい」

「気持ちはわかるけど、それはまずい」


 滝沢が言おうとした自分の使い魔なら大丈夫というのは、正直同意できるものだった。使い魔持ちの直観とでもいうべきものなのか、それともただの傲慢なのかはわからないが、紅蓮どころかそれより弱いリザでもあの攻撃に耐えられると思ってしまったのだ。

 チラッとしか映らなかったダンジョンの主。赤く大きな狼のモンスターは何もできず倒された。しかし、そこにいたのが紅蓮だったら?

 投げ物でも銃でも大したダメージは与えられず、部隊が連れていた使い魔では力不足でハルバートと炎で蹂躙される。そんな光景が浮かぶ。

 そこまで考えて、背筋に冷たいものがつたう。

 もしかして自分は、とんでもない戦力をなんの覚悟もなく持ってしまっているのではないかと。


「ああ、ダンジョン行きてぇ」

 佐藤がそうぼやく。それに滝沢も頷いて同意する。

「え、なんで?」

 正直意外だった。二人ともどちらかと言えば温厚なほうだし、危険には近寄らないタイプだったからだ。

「だって、モンスター倒したらカードが落ちたじゃん?あれってさ、噂であった倒したモンスターと契約できるってやつじゃねぇの?」

「だよな。もしそうなら、夢が叶うかもしれない」

「夢?」


 二人になにか目標があっただろうか。自分もだが、よく将来の事なんてわからないとぼやいていたはずなのに。


「おまえ、男の夢っていったら一つに決まってんだろ」

「矢橋だって前にラノベ見て言ってたじゃないか」

「んん?」


 二人が顔を近づけてきて、口元を手で隠しながら話す。


「ハーレムだよ!使い魔ハーレム!」

「好みのモンスターがいるところを攻略していけばカードが落ちてゲットできるかもしれないだろ!」

「ああ、そういう……」


 二人が言っている事に納得する。たしかにそれならダンジョンに行きたい理由はわかる。ハーレムは男の夢だ。特に男子中学生にとっては喉から手が出るぐらいほしいだろう。

 しかし、二人はある見落としをしている。


「お前ら、自分の好みの相手殺しまくれんの?」

「「うっ」」


 前に見た動画でも昨日の映像でも、落ちたカードは全て倒されたモンスターが書かれていた。つまり、そういう事だろう。

 もし自分のように美少女ハーレムを築きたい場合、美少女なモンスターたちに紅蓮を差し向けなければならない。真っ二つにされたり焼死体になる美少女を見続けるとか精神的に無理である。それが大丈夫な奴は間違いなくサイコパスだ。


「ダンジョンに潜るってことは殺すって事なんだ。正直、相手がゴブリンでも僕は躊躇するかもしれない」


 実は、ウイチューバーの動画を見たときから、ずっと自分がダンジョンを攻略する妄想をしてきた。

 紅蓮に戦ってもらい、自分は回復とバフをまく。ゴブリンや狼しかいないダンジョンなんて、画面越しに見ただけだがどうにでもなる。そう思った。

 しかし、こうも思ったのだ。自分から相手のテリトリーに入って殺して回って、身柄や宝石を奪っていく。それは盗賊の所業ではないのかと。何より、紅蓮に殺しをさせるのかと思うと、何とも言えない気持ちになった。


「けどさぁ、諦めきれないだろ?」

「それは……まあ」


 何とも言えない気持ちになってもその妄想がやめられないのは、憧れがあるからだ。

 ダンジョンを攻略して称賛される自分。美少女をたくさん侍らせている自分。ダンジョンで手に入れた財で富豪となる自分。

 そんなイメージが頭から離れない。自分がここまで欲深いとは思っていなかった。


「やっぱそうだよな」

「誰だってそうだろ……」


 苦し紛れにそういう。自分だけではないとそう思いたい。


「当たり前だろ?教室中そんな感じだ」


 確かに、聞こえてくる内容はどうすればダンジョンに入れるか。どんなダンジョンに行きたいか。気の早い者はダンジョンにどういう装備で行くかを話している。


「ネットで昔米軍が使っていた軍服とか防弾チョッキが売れているらしいぜ」

「それ着てダンジョンに行く気かよ」

「けどもしも行くなら動きやすさ第一だよな。ダメージは使い魔が肩代わりしてくれるらしいし」


 そんな話をしながら、そのうちダンジョンが経済の中心になるんじゃないかと、冗談交じりに内心呟いた。


 その日の夜、絵本の読み聞かせを終えて、紅蓮に向き直る。


「なあ、紅蓮は僕がダンジョンに行きたいって言ったらどう思う?」


 問いかけると、紅蓮は胸をはって自分を指さす。自分に任せろと言いたいのだろうか?


「もし行くことになったら、モンスターを殺すのも、ダメージを肩代わりするのも紅蓮になるんだぞ?それに、もしかしたら負けるかもしれない」


 昼間はゴブリンごとき、などと考えたが、ゴブリンの強さは未知数だ。日本で有名な漫画やゲームでは序盤の雑魚として有名だが、世界的に有名な映画では罠をはり毒を使い、人間と同じような装備で襲い掛かってくる凶悪で危険な敵だ。

 それにダンジョンにいるモンスターがゴブリンや狼だけとは思えない。米軍のつれていた使い魔だって、強そうなのもリザと同格ぐらいだった。それはおかしいのだ。

 動画投稿者のつれていたガルムしかり、目の前の紅蓮しかり、一般人の中には強そうな使い魔を連れているものがいて、軍人にはいないとは思えない。あの映像は、あえて弱いダンジョンに、二軍、下手すれば三軍のチームが入ったものではないのか?

 そう紅蓮に説明するが、紅蓮は首をかしげる。

 伝わっていないのかと思ったが、紅蓮は前にあげた子供用のボードを取り出す。


『たたかう しごと』


 なんと、紅蓮が文字を書いたのだ。内容よりも驚きで固まってしまう。


『あるじ まもる しぬ かくご だいじょうぶ』

「いや、死ぬって……怖くないのか?」


 また紅蓮は首を傾げる。


『こわくない なんで こわい ?』


 その問いかけに、なんと答えていいのか困る。死が怖いのは自分にとって当たり前のことで、それがなぜ怖いのかといわれても具体的な理由など考えたこともない。


「だ、だって、死ぬって事は自分が消えてなくなるんだぞ?もう家族にも会えなくなるし、友達にも」

『しぬ しても ふっかつ できる わたし』


 確かに、使い魔はダンジョンの道具を使えば復活できるとは聞いたことがあるが、あくまで噂だ。何をどうすればいいのか想像もつかない。


『あるじ ちから もっている』

「力……?」


 スキルの事だろうか。しかし、あれは回復であって蘇生ではない、そこまで考えて、ふと気づく。そういえば、あらゆる傷、病、呪いを癒すとあった。その中に使い魔の死さえ含まれるとしたら?

 そんなことを考えていると、紅蓮がボードを置き、ハルバートを手に出現させる。


「なにを」


 していると言おうとして、紅蓮が自分の首を引き裂いた。


「は!?おま、なにして!?」


 傷口から炎が噴き出す。それでも紅蓮は倒れることなく、もう一度ハルバートの刃を傷口にあてる。


「やめろ!待て!」


 慌てて紅蓮の腕にしがみつく。自分が全体重をかけてくっついているのに、紅蓮は微動だにしない。

 紅蓮はハルバートを消すと自分の脇に手を入れ、ベッドに座らせようとしてくる。力の差であっさり座らせられると、紅蓮がボードを書き始める。


『あぶない は あたる しぬ だめ』

「それはこっちのセリフだよ!というかそれ!」


 いまも首から炎がチロチロとでている紅蓮の首を指さす。


「『ブーステッドツリー』!」


 スキルに書かれていた魔法名を唱える。毎晩唱えているので、慌てていても舌を噛むことはなかった。

 紅蓮を緑色の光が包むと、あっという間に傷が消えた。


「ちょっと、なに騒いでいるの!?」


 そこで、母が部屋に入ってくる。


「ぐ、紅蓮が」

『こんばんは ?』


 説明しようとするより先に、紅蓮が母にボードをむける。


「え、紅蓮、文字がかけるようになったの!?」

「そ、そうだけど、そうじゃなくて」

『うるさくして すみません』


 紅蓮が書いた文字を見て、母は納得したようにうなずく。


「紅蓮が字を書けるようになったから騒いでいたのね。まったくこの子は。ここ最近べったりだったものね」


 微笑ましいものを見る目を向けられる。

 よく考えれば、紅蓮が突然自害しようとしたなどと、うまく説明できるきがしない。絶対にややこしいことになる。


「そ、そうなんだ。ごめん、母さん」

「夜なんだから、あんまりうるさくしないようにね?」

「うん、おやすみ」

「おやすみ」


 そう言って母が部屋を出て行ってから数秒して、大きく息をはく。


「それで、なんで突然あんな事をしたんだ」


 紅蓮を睨みつけるが、まるで気にした様子もなくボードに書き始める。


『しょうめい するため あるじ ちから』

「だからってあんな……」

『ふっかつ できる わかる あんしん』


 頭が痛くなってきた。ようは、紅蓮は『スキルの効果で復活できるから安心して使いつぶしてね』と、そう伝えようとしたのだ。自分の首を切り裂いて。


「お願いだから、二度とあんなことするな。絶対に死ぬな。いいな?」


 不思議そうに首を傾げた後、紅蓮は頷いた。


「じゃあ、もう寝るから。本当に二度とやるなよ。次やったら一生マシュマロ抜きだからな」


 今度は勢いよく何度も頷いて、紅蓮は消えた。

 深いため息をついて、部屋の明かりを消してベッドにはいる。

 なんというか、凄く疲れた。





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