第二十二話 精霊騎士
第二十二話 精霊騎士
サイド 矢橋 孝太
自分に言い聞かせる。大丈夫だ。目の前にいるのは紅蓮ではない。
よく見なくても違いがわかる。まず頭に炎がなくかわりにダイヤモンドのような謎の結晶が生えている。
手に持っているのは右手にメイス、左手にカイトシールドと一見しただけで紅蓮ではない。
なにより雰囲気だ。紅蓮はまるで包み込んでくれるかのような、暖炉を彷彿とさせる感覚を覚えるのに、目の前にいる騎士からは威圧感しか感じない。
もしも傍に紅蓮がいてくれなかったらちびっていたかもしれない。大会とかで戦った人はこんな気分だったのかと実感する。
数瞬のにらみ合いののち、先に動いたのは相手だった。
メイスを地面に向かって振り下ろすと、地面が大きく盛り上がり、とんでもない速さで岩が津波のように迫ってきた。
「な、紅蓮!」
その光景にビビりながらも、紅蓮に前に出てもらう。
炎を噴かせ全力で紅蓮が岩の津波に突撃する。加速したハルバートが岩を粉砕し、残りの岩が両脇を通り過ぎていく。
敵騎士は地面を這うように津波に隠れて紅蓮に接近していた。しかし、それは魔眼で予知している。紅蓮が石突きで頭を跳ね上げようとする。それは盾で防がれるが、敵はバランスを崩し、体が少し浮く。
そこへすかさず紅蓮がハルバートを横薙ぎに振るう。それも盾で受けられるが、踏ん張りは効かず壁に吹き飛ばされた。
壁に叩きつけられた敵騎士はメイスで壁を叩くと、紅蓮めがけていくつもの石槍が高速で伸びていく。
それも予知済みだ。前進あるのみ。紅蓮がその中を肩から炎を小刻みにだして躱しながら、背中の炎で加速しハルバートを正面から叩き込む。
今度も盾で受けられたが、紅蓮の筋力はA+、そこに炎の加速と世界樹の加護がのっている。何が言いたいかといえば単純な話、そう何度も受け止められるものではないということだ。
盾が砕け、左手も切り落とされる。
だが相手もされるがままではない。メイスを紅蓮の胴体に叩きつける。しかし、耐久においても紅蓮は筋力と同じ数値だ。小さなへこみしか付けられない。
再度メイスを振ろうとする相手の右手を掴み、紅蓮はもう片方の手でハルバートを逆手に持つと、相手の足の甲に突き刺して地面に固定。そのまま左ひざの棘を蹴りこんだ。
敵騎士の胴鎧と膝の棘がせめぎ合い火花が散る。いや、火花は業火へと変わり、棘を赤熱させていく。
背中からも炎をだし、二人の騎士が紅い炎に包まれる。
一分あるかないか、それぐらいで炎は消えた。残ったのは、棘を深く突き刺した紅蓮と、鎧を所々融解させた敵騎士だった。
「紅蓮!」
思わず歓声をあげる。
敵騎士は光の粒子へと変わり、アイテムをドロップさせる。
「すさまじい戦いでした。援護すらできないとは……」
レイナが冷や汗をかきながら呟く。みればフェリシアも同じような顔をしており、稔は悔しそうにしていた。
「いや、皆が近くにいてくれたから最後まで見ていることができた。流れ弾がきたら守ってくれるつもりだったんだろ?」
「それは、当然ですが」
「だから、ありがとう」
紅蓮がアイテムを手に戻ってくる。本日一番の功労者だ。帰ったらマシュマロパーティーにしなければ。いや、紅蓮は小食だった。見た目に反して。
「お疲れ様、紅蓮。流石だったよ」
労いの言葉をかけると、ムンと胸をはる。なんとなくドヤ顔している気がする。紅蓮がアイテムを差し出してくる。それを見て、思わず固まってしまった。
紅蓮の拳ぐらいある魔石。これはまだわかる。とんでもなく高価なものだが、一応落ちるかなと期待していた物だ。
問題はもう片方。なんと鎧騎士が描かれたカードが紅蓮の手に握られていた。
「ふぁっ!?え、マジ!?」
変な声が出る。いくらボスモンスターがアイテムをドロップさせやすいとはいえ、一回でカードが落ちるとは思ってもみなかった。
紅蓮から恐る恐るカードを受け取る。このカードは間違いなくさっきの騎士から落ちた物、つまりエレメントナイトのカードだ。初期の紅蓮と同じぐらいの強さの使い魔がこのカードに眠っている。
Bランク以上のカードは取引が禁止されている。売ることはできないし、なんとなく紅蓮を売るみたいでいやだ。
かといってこのまま抜き身で持ち歩いたら争いの元になりそうだ。そんな予感がする。なんせ紅蓮並みの使い魔だ。殺してでも奪い取るという輩はいるだろう。
「紅蓮、これ、契約していいかな?」
一応紅蓮に確認をとる。自分と同じ種族と契約するのだ。何か思うところがあるかもしれない。
しかし、紅蓮は首をぶんぶんと縦に振るう。なんというか、むしろ喜んでいるような?
「じゃ、じゃあ契約するよ?本当にするからね?」
「マスター」
「え、なに!?」
「落ち着いてください」
「はいすいません」
フェリシアに諫められてしまった。
紅蓮の同族が増えるということにテンションが上がっている。だってもう一人増えるんだよ?そりゃテンション上がるじゃん。
「指を切る刃物はお持ちですか?ないようでしたらこちらを」
「あ、ありがとう」
レイナが腰のダガーを貸してくれる。指に刃をあてがって、緊張で唾をのむ。毎回これにはなれない。やらない方がいいと思いつつも、目を閉じそうになる。
だが、危ないのでしっかり見ながら指の先端を切る。ちくりとした痛みを感じながら、傷口がふさがる前に血をカードにつける。
カードが光に包まれ、自分のうちに入っていく。これで契約は完了した。
「えっと、いったん帰ろうか」
「ここで召喚しないのですか?」
「うん。一応ダンジョンの中だし、家に帰ってからの方がいいかなって」
「かしこまりました」
紅蓮の方を見やると、心なしかしょんぼりしたような、そわそわしているような印象を受ける。
その後やけに張り切った様子で紅蓮がなみいる敵をバッタバッタとなぎ倒して地上へと向かった。稔は自分の戦う回数が減って頬を膨らませていた。
受付を通って、今日手に入れた魔石を納品する。当然、その中にはボスモンスターが落とした物も入っている。
手続き中待合室で座っていると、突然奥の部屋に通された。案内してくれた職員さんも待っていたここの支店長も緊張した感じだ。
だがこちらも負けていない。めっちゃ緊張している。
混乱していらんとこで張り合ってしまったが、お互い会話がちぐはぐしている。
支店長はさっきから遠回しな言い方しかしないし、こちらはどういう理由で呼び出されたのかわからない。
おそらくボスモンスターの件だろう。魔石を納品したという事は倒したという事だ。事実上のBランクへ昇格であるが、それだけならわざわざ呼び出す必要はないはずだ。なんせBランクになったからといって一般人はそのランクのダンジョンに入れないのだから。
魔石と一緒にカードは落ちたかと聞かれたので、素直に答えた。どうせ後で市役所に契約したことを申し出て、ライセンスの更新をしなければならないからすぐにばれる。
すると支店長は数秒フリーズして更に口が重くなってしまった。
しばらくすると電話がかかってきて、支店長がこちらに断りをいれてからでる。電話先はわからないが、偉い人なのだろう。さっきよりも緊張している。
電話が終わると、疲れた様子で今日はもう帰っていいと言われた。
事情を聞いたが困った顔で煙に巻かれてしまった。頭を下げてくる目上の人に追及できるほど心が強くない。
帰るときまた組合の関係者から連絡があるかもしれないとのことだ。内容は案の定ボスモンスターの件らしいが、詳しくは教えてもらえなかった。
帰宅して、さっそく庭で今日契約した騎士を召喚することにした。
傍に念のため紅蓮をよんでおいたし、この位置なら覗き込まない限り外からは見えないはずだ。
なんか紅蓮が気まぐれでどこかに石を蹴飛ばしたが、人通りもないしチラッとみたけど誰もいなかったし大丈夫だろう。
魔力を流し込み、召喚を開始する。
次の瞬間、目の前にあの騎士が立っていた。
二メートルを超える身長に、広い肩幅。紺色の厚い装甲をもった精霊騎士だ。
紅蓮と同じ種族だが、所々差異がある。それはダンジョンで見た時とも違う姿だった。
なんとなく装甲がより厚くなった気がするし、所々丸みを帯びたデザインだ。全体的に重そうに見える。
手に持った武器も身の丈を超える巨大な鉄槌へと変わっていた。ただ、頭から出ているのが謎の結晶というのは変わっていない。
まあ、モンスターの時の姿と契約した後の姿が違うのは当たり前なので気にしなくていいだろう。
それよりも、名前だ。これはもう決めてある。
ダンジョンまでの帰り道、属性によって複数候補を考えていたのだ。結晶、つまり土属性の騎士だというのなら、この名前だ。
「お前は金剛。今日から金剛だ。これからよろしく頼む」
手を差し出すと、鉄槌を消して両手で握り返してくれた。どうやら納得してくれたらしい。
それはそうと、隣で紅蓮がとてもそわそわしている。かと思うとそっと金剛の背中を撫で始めた。
もしかして、弟や妹ができたような感覚なのだろうか?
金剛、きょとんとした感じで首を傾げているけど。
とりああえず二人を交流させた方がいいのだろうか。仲のいい事はいい事だ。
部屋に戻って紅蓮にマシュマロを上げようとすると、ボードに『金剛も』と書いていた。早速金剛も召喚すると、紅蓮がマシュマロを差し出した。
受け取った金剛が不思議そうにマシュマロを眺めた後、口らしき部分をパカリと開いて放り込む。ちなみに口の中はなんか金色だった。
口を閉じた直後、金剛ががくがくと震え始めた。
「え、なに大丈夫?」
心配になって世界樹の加護を使おうか迷っていると、ぴたりと金剛が止まった。
金剛が凄い勢いで両肘を上下に振りながら手首から先は親指を立てている。
気に入ったという意味なのだろうか?紅蓮はなんか満足げに頷いている。そのまま二人で仲良くマシュマロを食べ始めたので、たぶん大丈夫だろう。
紅蓮がいつものように頭の炎で炙ってから食べていると、金剛も真似て頭にマシュマロをかざす。しかし、金剛は火がついていない。紅蓮に頭を貸してあげるよう言おうとしたら、とんでもないものを目にした。
金剛がかざしたマシュマロの上に金箔が盛られていたのだ。
目が点になった自覚がある。え、なに、今何が起きた?黄金錬成した?よく漫画で錬金術師がやっているやつやった?
ガン見していると、何を勘違いしたのか、金剛が金箔を盛ったマシュマロを差し出してきた。というか『あーん』された。
思わず食べる。うん、美味しい。美味しいけど今はそういう事じゃないんだ。
紅蓮ならわかってくれるかとそちらを見ると、焼きマシュマロを差し出していた。
無言であーんされながら、考える。
考えた結果、見なかったことにした。
だってどう考えても厄ネタなのだ。金を作り出せるとかそれだけで既存の経済にえぐい影響を与える。
しかもこれが他の金属も作り出せる。あるいは作り変えることができるとなれば、金剛を殺してでも奪いにくる輩も出てくるだろう。というかストレートに殺しに来る人がいるかもしれない。
このことは両親にも黙っていた方がいいだろう。秘密は知っている人が少ない方がいいときくし、変な心労をかけたくない。
とりあえず口をあけてあーん待ちしている二人をどうすべきなのだろうか?




