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第十二話 冒険者

第十二話 冒険者


サイド 矢橋 孝太


 朝、テレビをつけてみたら使い魔の人権について討論が行われていた。


『使い魔は奴隷制度の復活だ。冒険者は奴隷狩りで政府は奴隷商をやっている。世界中おかしくなってしまったんだ!』


 そう声高にいう人も多い。正直、あまり大声では否定できない。

 自分は使い魔をどう扱っているだろうか。奴隷扱いしていないかと言えば少々の疑問が残る。ダンジョンで紅蓮任せの戦いを行い、家ではフェリシアに家事をしてもらい、『そういうこと』もしてもらっている。

 言い訳をさせてもらうとしたら、どちらも相手から言い出したことで、フェリシアに関してはさすがに悪いと思って前にそこまでしなくていいと言ったら、こっちが逆に説得されてしまった。

 このままの関係を続けることのメリットとやめる場合のデメリットをこんこんと説明され、最後には頭を下げられてしまったのだ。こちらが逆に頭を下げ返し、お互い頭を下げ続けるという状態に根負けして今の関係が続いている。

 紅蓮にも一度、無理をさせていないかとダンジョンに行くのをやめようかと相談したことがある。

 理由をきかれ紅蓮の負担について話したら、『そんなことはない。むしろもっと自分を信じてくれていい』。とボードに書いてきた。信じてくれとは、中々にずるい言い回しだと思う。気づけば紅蓮も新しい家族だと思っているのに、そう言われては反論しづらい。

 結局、使い魔たちとは今まで通りの関係を続けている。

 前まではサキュバスを手に入れるために稼がなくてはと思っていたが、今はフェリシアがいるし、Cランクダンジョンで活動すると小沢さんに言ってしまった。このランクでも紅蓮がいればなんとかなると思うが、増やすなら戦える使い魔だろう。

 そこでふと、前に見たダキシの動画を思い出す。彼女が連れていたのはワルキューレとエルフ、そして雪女。ワルキューレのポジションは紅蓮ができる。罠の索敵は限定的だが自分がするとして、後は獲物の索敵の補強と遠距離攻撃だ。

 フェリシアも魔法は使えるが、正直Cランクでやっていくには火力が足りない。紅蓮も炎で攻撃できるが、前衛をメインにしてほしい。

 買うとすれば索敵と魔法に優れたエルフか、魔法攻撃の強い雪女。他にもCランク使い魔には強いカードもあるが、これだという候補が浮かばない。

 この二枚の入手を目指して、Cランクダンジョンで無理のない範囲で資金集め。それがとりあえずの方針として決まった。


 次の週、じめじめとした空気を感じながらCランクダンジョンへ向かう。気づけももう五月も終わりだ。我ながらずいぶん短期間でランクを上げたものである。九割紅蓮とスキルのおかげだが。

 Cランクダンジョンは思った以上に人が少なかった。ちらほら見かける人達もスーツ姿のままうろついているし、冒険者には見えない。

 視線を感じながら更衣室に向かい、受付を済ませてダンジョンに入る。

 入って早々フェリシアに抱えられて移動する。なんせこのダンジョンは広い。元々ランクが上がるほど階層は増えていくが、このダンジョンは特に広い。

 つくりはよくある石造りだが、通路の広さが段違いだ。幅は四車線の道路ほどもあるし、高さは八メートルぐらいある。そのうえ部屋の様に広がっているスペースもあるから、人間の足で探索しようとしたら一層を一周するだけで一日かかるだろう。

 スマホのアプリを使ってマッピングしながらダンジョンを進んでいくと、大きな地響きがしたので一度止まる。

 このダンジョンを徘徊するモンスターは一種類。曲がり角からゆっくりと出てくる石の巨人『ゴーレム』だ。

 四メートル近い身長に、三メートルほどの幅。壁のごとき巨体が目の前に現れ、地面を揺らしながらこちらへ向かって走り始めた。巨体に見合わぬスピードをもつそれに、紅蓮が対応する。

 ゴーレムが右腕を紅蓮めがけて振り下ろす。重機でも一撃でスクラップにする一撃を、紅蓮はハルバートを下から振り上げて弾き飛ばす。ゴーレムが指を何本か切り飛ばされながら衝撃でふらつく中、紅蓮は飛び上がり炎を噴射しながら切りかかる。

 轟音が響き、ゴーレムの頭が砕かれた。ゆっくりと倒れるゴーレムをしり目に、紅蓮が大きな音をさせて着地する。

 ゴーレムが倒れた音に思わず耳を塞ぐ。とんでもない音だ。おそらく一層中に響いたことだろう。

 後ろの方からドスンドスンと大きな音が響く。おそらく、複数体ゴーレムがいる。


「フェリシア、紅蓮、何体ぐらいだと思う」

「おそらく二体かと」


 フェリシアの答えに紅蓮も頷く。この通路で二体のゴーレム。


「紅蓮、やれるか?」


 その問いに、紅蓮は頷きながら音の方へ進む。やがて、二体のゴーレムがこちらに走ってくるのが見える。


「ブーステッドツリー!」


 ゴーレムが到着するよりも早く、紅蓮が駆けだす。その背中へスキルを発動させる。

 勢いを増した炎を背に急加速した紅蓮が、先を走るゴーレムの頭を粉砕する。続く二体目が崩れ落ちる一体目ごと紅蓮を叩き潰そうと拳をふるうが、紅蓮はその腕を這うように飛び、二体目の顔面にハルバートを突き込む。深く突き刺さったハルバートを、紅蓮はそのまま上に振りぬいた。

 あっという間に二体のゴーレムを紅蓮が撃滅したが、このままここにいるわけにはいかない。


「落ちた魔石を回収したら急いでここから移動しよう。挟まれたらまずい」

「承知しました」


 この通路で挟まれたら紅蓮だけでは自分とフェリシアを守り切れない。ここで安定して探索をするには前衛がもう一人いるか、高火力の魔法使いが必要だ。


 その後もゴーレムを倒しながら進む。ここまでで既に魔石が十個ほど手に入っている。数こそ同じ時間Dランクダンジョンを探索した時の方が多いが、質が違う。この数でも儲けは前より上だろう。

 そして二十四体目のゴーレムを倒したところ、一枚のカードが落ちた。


「おおっ!」


 フェリシアに降ろしてもらい、カードと魔石を拾う。初めてCランクのカードを手に入れた。ゴーレムは大きさの為出せるダンジョンが限定されるが、前衛としては中々頼りになる使い魔だ。なんせ単純にでかく、そして遅いわけではない。これだけでだいぶ強い。壁役としてならCランクでも上位に入る。


「今日はもう上がろう。フェリシア、頼む」

「はい」


 魔眼で罠を回避しつつ極力戦闘を避けてダンジョンをでて、初めてのCランクダンジョンを終えた。

 今日の探索での反省点といえば、やはり挟まれた時の対処法がない事だろう。紅蓮に片方を一刻でも早く倒してもらってもう一体を相手してもらうしかない。

 となればやはり使い魔を増やすしかない。だが、現在のレベルは十二。そう何体も使い魔を同時召喚していては世界樹の加護を使う魔力に不安がでる。もしモンスターハウスに遭遇してしまったときは、使い魔全員にバフをかける必要があるが、バフの持続時間は五分。そしてかける相手が増えるほど消費魔力も多くなる。無計画に使い魔を増やすわけにもいかない。

 今回手に入れたゴーレムのカード。これを契約するか売却して別のカードを手に入れるかだ。このままこのダンジョンで活動するならゴーレムと契約してもいいかもしれないが、他のダンジョンに行く場合、スペースの問題で出せない可能性がある。

 それならば、今まで貯めた分と今回の分で新しい使い魔を買った方がいいかもしれない。

 そう考えながら受付を済ませて出ようと思うと、出入り口の周りが妙に騒がしい。

 物陰に隠れて見てみると、何やら組合関係の人達と謎の集団がもめている。


「だから!ダンジョンを閉鎖して使い魔たちを解放しろといっているんだ!」

「何度も申し上げた通り、我々にそう言った権限はなく」

「何度も言っているはずだぞ!何故上にそれを伝えない!ただの貴様らの怠慢じゃないか!」

「そうだ!この奴隷商人め!」

「お前らに人の心はないのか!」


 どうやら、人権団体が押しかけてきているようだ。テレビではよく見るが生で見たのは初めてだ。

 そういえば、人権団体といえばこんなニュースがあった。

 使い魔側からも制度に批判してもらおうと契約したらしいのだが、性被害にあっていると言ってサキュバスと契約したらしい。どこからそんな金が集まったのか。

 そしてそのサキュバスに使い魔を解放するよう言えと街頭で命じたところ、まさかの拒否をされたそうだ。使い魔は本来ハンドラーに従順すぎるほど従順だ。それこそ死ねと命令されても必要なら死ぬぐらいには。

 その使い魔が拒否をしたのだ。なんでも使い魔自身にもわからないが、それだけは嫌だったらしい。そのサキュバス曰く、自分の存在意義を全否定されたように感じたとか。

 団体はサキュバスを説得し続けたが、首を縦に振らずついには酷く罵倒したり暴行を加えたらしいのだが、それでも拒否し続けた。

 それが何日も続いたところ、ハンドラーがサキュバスとともに団体を抜けたらしい。いつの間にか、ハンドラーの方がサキュバスに説得されていたのだ。

 それも無理からぬことだろう。自分に従順な美女をはねのけることができる男は少ない。しかも相手はサキュバスだ。

 当然団体は怒ってハンドラーの家を襲撃したらしいが、敷地内に入った瞬間サキュバスに気絶させられた後警察に突き出されたらしい。

 警察の行動は異様なほど早かった。襲撃犯たちを逮捕してすぐ団体にメスをいれ冒険者への恫喝や強引な勧誘などで次々と逮捕していった。これを大々的に報道し、人権団体も正義ではないと喧伝している。

 そして、こういった事件やニュースは世界中で起きている。どこの国も使い魔の人権団体に対してはやけに厳しい。

 関係ないことを考えているうちに警察がやってきて団体を散らそうとする。当然団体側も抵抗を激しくしたが、次々と増えるパトカーにあっという間に追い散らされるかパトカーに詰められてしまった。

 ことが終わった後、普通に出ることができたのだが、どうにも釈然としない。ああいう団体に日本の警察は及び腰だったはずだ。それが、何故こうも手がはやいのか。明らかになにか陰謀めいたものの気配を感じるのだが、自分はただの高校生。触らぬ神に祟りなしというやつだ。考えるのを放棄してさっさと家に向かうことにした。


 自室で政府公式のモンスター辞典を眺める。

 結局、ゴーレムのカードは売ることにした。出せる場所が限定されすぎていて汎用性がないし、あのダンジョンが人権団体に目をつけられている可能性がある以上、あまり通うわけにはいかない。

 そうなると人間大かそれ以下の使い魔が好ましい。よって、候補としてあがるのは魔法使い系の使い魔だ。

 エルフ、ダークエルフ、雪女、リッチ、ハッグ、ニンフ、シルフ、ドライアド、ラミア、ズメウ、シービショップが現在確認されているCランクで魔法を主に扱う使い魔となる。とりあえずリッチ、ハッグ、ズメウ、シービショップは候補から外す。

 リッチはかなり失礼だが基本臭いし見た目が怖い。以下三体は下手すると友人たちが『殺してでも奪い取る』と言い出しかねない見た目をしている。念のためラミアも除外しておこう。

 次に、ニンフとシルフ、ドライアドも除外だ。これらは出回っているカードが極端に少ない。なんでも、出会うこと自体レアらしくそうそう出品されない。

 となると残ったのはエルフとダークエルフ、そして雪女だ。この中でダークエルフも除外しておく。使い魔の人権団体とは別の人権団体もこの使い魔には反応しているので火種を増やしたくない。

 エルフと雪女。どちらもかなりの高額カードだ。速さと器用さ、そして魔法に優れたエルフ。圧倒的攻撃力はBランクでも通じるのではないかと噂される雪女。そして、それらの性能だけでなく、容姿の面でもかなりの人気をもつ。なんと、どちらも買おうと思ったら一千万以上するのだ。エルフの方は男女問わずである。

 今は手が出ないが、このままCランクで稼いでいけばそのうち手が届くだろう。焦らず堅実に行くべきだ。

 使い魔の候補は決まったので、次は今度から通うダンジョンを探さなければならない。

 家から通える距離で、なおかつ学校に近すぎない。かなり条件が厳しいので、中々見つからない。


「うーん……」


 正直、Cランクダンジョンに通うのは無理な気がしてきた。ダンジョンの為に引っ越しや転校はしたくない。かといってAグループに知られていじめの標的にはされたくない。八方ふさがりだ。

 そこでふと、自分がCランクに通わなければならなくなった原因を思い出す。なんか色々肩書持っている彼ならばいい案が浮かぶかもしれない。

 前に貰った名刺を出していると、部屋のドアがノックされる。


「孝太、今いいか……?」


 どうやらノックしたのは父らしい。


「どうしたの?なんかあった?」


 ドアを開けながら尋ねると、父が神妙な顔で立っていた。


「……すまん、とりあえずリビングに来てもらえるか?」

「いいけど、え、ほんとに何事?」


 言われるがままリビングにつくと、母も椅子に座っていてこちらも困惑した表情を浮かべている。

 自分の椅子に座りながら、父の様子を観察する。なんとなく、冒険者になれと頼まれた時に似ている。


「孝太は、今どのランクにいるんだ?」

「え、Cランクだけど……」

「そうか、もうCランクに……え、Cランク?」


 両親が驚いた顔をする。あ、なんかデジャヴ。


「Cランクって、お前いつの間に」

「あんた、それは危ないんじゃない?Cって一番危ないダンジョンなんでしょ?」

「いや、これには訳があって」


 二人に小沢さんの事を話す。すると父は眉間に皺をよせ黙り込み、母は青筋まで浮かべて怒り出した。


「なにそれ、ほとんど強制じゃない。個室で一対一なんて。ちょっと電話するからその名刺かしなさい」

「え、あ、うん」


 珍しく本気で怒った様子の母にすぐ名刺を渡す。すると電話に向かい番号をうって通話しようとするが、すぐに叩きつけるように受話器を置いて戻ってくる。


「通話中だったわ、まったく」

「そ、そう」


 肩を怒らせた母が、不意に冷静な顔になる。


「孝太、あんた冒険者やめなさい」

「え!?な、なんで?」

「テレビでダンジョンはそこまで危ない場所じゃないって散々言われているけど、ちょっと調べたら行方不明者や死んだ人だって出始めてる。そんなとこにこれ以上通わすわけにはいかないわ。しかも、なんか目をつけられてるんでしょ、なんとか組合に」

「それは、まあ……」


 いわれて、冒険者をやめた場合を考える。今まで流されるまま考えていなかったが、よく考えればそこまでダンジョンに執着する理由もない。なら、冒険者を続けなくてもいいのではないか。母を心配させてまで行くことはないように思える。

 父も上司を誤魔化せばいいから無理をしなくていいと言っていたし、いっそやめてしまうのもいいかもしれない。友人二人には申し訳ないが、流石に親に反対されたと言えば納得してくれるだろう。


「すまない」


 そう考えていると、父が突然頭を下げてきた。


「え、なに、どうしたの」

「会社の方針で、ダンジョン業界に本気で関わることが決まった」


 そういえば、なんか父の上司だけダンジョンに興味を持っているとは聞いていたが、会社全体になっていたのか。


「それで、前に話していた上司が孝太に会いたいと言ってきているんだ」

「えっ」


 それはつまり、冒険者としての自分に用があるということだろうか。


「待って、それって」

「うちの会社と、契約してくれないか、という話だと思う」

「マジか」


 どうやら、冒険者をやめるのは当分先らしい。




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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱ父親はクズか。 さっきのコメントは訂正します。 クズならあの台詞は合っている。 あと、シンプルに頭もあまり良くないのかな。 政府がどんな発言をしていようが、リスクがあることは少し頭を…
[気になる点] ・5話の感想でも書きましたが、父親がクズすきます。 主人公がノリノリで、冒険者のトップになってやるぜ!というタイプならまだしも、今まさに、冒険者やめようかな、と思い直している眼の前で、…
[一言] 「うちの会社と、契約してくれないか、という話だと思う」 「マジか」 親に頼まれた等でなく、しっかりと損得を考えて自分で判断して欲しいな。別に契約してくれと言ってきても、考えておくと言えば良…
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