第十話 戦力
第十話 戦力
サイド 矢橋 孝太
大人の階段上って次の日、学校の昼休みに昼食を食べながら、新しく使い魔にしたフェリシアについて友人たちに話す。
「新しく、キキーモラと契約したんだ」
場所は中庭の端っこ。少し離れたところにいくつかグループがあるぐらいで、よほど大声でないかぎり周りには聞こえないはずだ。
パーティーを解散してからは、なんとなくダンジョン関係の話は三人でしなくなっていた。しかし、今の自分には一歩踏み込む勇気がある。
予想通り、二人とも驚いた顔をしていた。自分がそういった暗黙の了解を破るとは思っていなかったようだ。
「お前、性癖が……」
「ようこそ、こちら側に」
「違う、そうじゃない」
何かとんでもなく不本意な誤解をされていた。
「言っとくけど、キキーモラって普通はロシア風美少女だからな?マリー先生がおかしいんだからな?」
「マジで?」
「マリーがスタンダードだとばかり」
マリー先生がスタンダードだったら一枚百万以上する人気カードにはなっていない。
「やはり俺とマリーの間には赤い糸が……?」
「もうそれでいいや」
なんかドッと力が抜けた気がする。だが、変な空気にならなくてよかった。
「で、新しい使い魔と契約したって事は戦力強化の報告か?」
「え?いや童貞卒業の報告」
「「死ぬほどどうでもいい」」
「なんだと!?男にとってこれ以上重要な報告があるか!」
思わず声を大にしてしまったが、誰もこちらを気にしている様子はない。なんなら周りの方が大声で話しているぐらいだ。
「まあ、戦力の強化と言われると、まあ、一応?」
正直、Dランクのダンジョンでフェリシアを戦力としてカウントできるかというと、わりとギリギリだ。
フェリシアのスキルで戦闘に使えるのは治癒魔法だが、正直世界樹の加護の下位互換にしかならない。生活魔法の方はそもそも戦闘用ではない。
生活魔法の戦闘への応用はスキルが現れてからずっと試されている。というのも、よく漫画やラノベで『実は生活魔法が最強』とか『生活魔法が強魔法に進化』とかよく言われているのだ。それが実際におきないかと皆試行錯誤を繰り返しているが、一向に成果はでない。
なので、フェリシアにダンジョンで活躍してもらおうとなったら、何らかの戦力強化が必要だ。とりあえず世界樹の加護は毎晩使うようにしているが、効果が出るのはまだ先だろう。
しかし、これだけボロクソに言っているが、いてくれた方がいいのは確かだ。足手まといにならないというだけで自分よりもよほど頼りになる。
使い魔の強化と言えばスキルカードや装備カードとの融合だが、方法はそれだけではない。
「二人はやっぱり、『勾玉』探しているのか?」
勾玉。正式には『○○の勾玉』である。例えば赤の勾玉なら筋力が、緑の勾玉なら耐久が一段階上がる。数さえそろえればFランクでもCランクを超えられるアイテムである。
「一応探したけど、めっちゃ高い」
「普通自分で使うしなぁ」
「だよなぁ」
ただし、スキルカードや装備カード同様、これはDランク以上のダンジョンでしか手に入らないうえに、見つけたら自分の使い魔に使うのが普通なのでめったに売られていない。
自分とて、もし見つけたら紅蓮に使うだろうし、成長限界にいたったA+の項目の勾玉だったらフェリシアに使うか新しく手に入れる使い魔のために取って置く。
「そうなると、二人のしている戦力アップって」
「Eランクダンジョンでひたすら資金集めだな」
「どうにか金をためてDか、できればCの使い魔を手に入れる必要がある」
正直、気の遠くなる話だ。Eで止まってしまった冒険者がDに上がったという話は、ネット上を見て回ってほとんどなかった。なしえたなら自分から喧伝しそうな内容なのに、だ。
だが、この二人ならDに上がることも可能なはずだ。Cランクであり前衛として優秀なリザ。Dランクだが支援型としては中々のマリー先生。この組み合わせならDでもやっていけるはずだ。ただし、それには条件がある。
単純に、数である。だから、二人が使い魔を増やそうとしているのは正しい。しかし、そこで直面するのがお金だ。
Eランクのダンジョンでの利益では、中々Dランクのカードに手が届かない。紅蓮がいる状態なら戦闘スピードの上昇により戦闘回数を増やして利益を上げられるが、それは根本的に二人との関係性という問題が解決しない。
早く二人とパーティーを組みたいが、その手助けをすると今まで通りの友人ではいられなくなる。
「「「はあ……」」」
三人でため息をつく。中々、また三人一緒にダンジョンへ潜る日は遠いらしい。
「マジか」
今日も一人、ボブゴブリンとトロールのでるダンジョンに潜っていた。紅蓮と、万が一魔眼も紅蓮も突破してきた敵がいた時の為にフェリシアも召喚して。
フェリシアにダンジョンで活躍してもらう方法を色々考えたのだが、移動を開始してすぐに気づいた。
フェリシアに運んでもらえばいいのだ。絵面はかなり情けないが、理に適っている。人間のスピードと使い魔のスピードでは月とスッポンだ。オリンピック選手でもゴブリンより遅いのだから当たり前である。
今までは自分の移動ペースに紅蓮が合わせてくれていたが、これからはそれもだいぶ改善されるだろう。
そうして普段より深い階層に潜っていいたら、なんとまた宝箱を発見した。そして、その中にはスキルカードが入っていたのだ。
「あれか、昼間話していたからか……?」
「ご主人様?」
「あ、いや、なんでもない」
フェリシアが不思議そうに見てきたので、慌てて誤魔化す。一度降りてスキルカードの中身を確認する。
スキルカードに書かれていたのは、『青魔法』のスキル。これは水属性だ。
「よっし。帰ったらフェリシアに融合しよう」
「よろしいのですか?売ればそれなりの値が付くと聞きましたが」
「うん。まあ、フェリシアの戦力アップが優先だし」
「ありがとうございます。全身全霊を持ってしてご期待に応えさせていただきます」
「え、いや、そこまで気負わなくていいから……」
そんなこんなダンジョンを進んでいく。移動スピードが格段に向上したことで探索の効率は上がり、ボブゴブリンのカードが二枚、トロールが一枚、魔石が二時間で四十二個集まった。薬草も見本の写真をプリントした物を片手に探して、クエストをクリアすることができた。これで、ボスモンスターに挑む最低条件は満たしたのだ。
しかし、まだ挑むつもりはない。というのも、今までハイペースでランクを上げすぎていた。Dランクの段階で高校生、それもソロで週三日潜りに来ているというのは、かなり目立つ。これといった接触は吉田さんの一件以来ないのだが、それでもかなり視線を感じる。
紅蓮だけの時も八層前後、フェリシアが加わって移動速度が上がった今は十五層あたりに潜っているので、基本的にダンジョン内で誰かと接触することはないが、帰りはそうもいっていられない。紅蓮の戦闘能力を見られた場合の反応が少し不安だ。
家に帰ると、ドロシーが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、孝太様!」
「ただいま、いつもありがとうドロシー」
ドロシーやフェリシアは家事妖精だけあってよく家事を手伝ってくれる。というか最近ほぼやってくれるので母が少し困っているが、裁縫やこった塗り絵を趣味としてやり始め、ドロシーと一緒にやっている姿を時々見る。
父とエルザはそこまで会話をしているところは見ていないが、仲が悪いわけではないようだ。両者とも口数が多い方ではなく、またエルザは三大欲求が薄いのに睡眠を趣味としているので、基本的に父の胸ポケットにちょっと高めのハンカチを布団にして眠っている。
右近と左近については知らない。というかあの二体は襲われた時用の使い魔なので普段は出していないのだ。目立つし音がうるさいし、紅蓮の様に感情豊かでもなければ足元を消してフヨフヨ浮かばないのでしょうがない。
部屋の隅で今日も詰将棋をしている紅蓮を見ながら、どうしたものかと思う。
相手をしてやりたいが、自分では勝負にならないし、使い魔組を含めて紅蓮相手に勝負できる者がいない。正直延々と一人で詰将棋をしている紅蓮が見ていられないのだが……。
どこか将棋好きが集まれる場所に連れていければ紅蓮相手に戦える人も見つかるかもしれないのだが、法律上使い魔を私有地とダンジョン以外で召喚することは禁じられている。
何か方法はないかとスマホで探そうとして、ふと気づく。やはり自分は馬鹿だ。こんな簡単な解決策も思いつかなかったのだから。
今回の探索で手に入った資金も合わせれば、口座には二百万以上ある。資金は十分すぎるほどだ。
最近、ちょっと金銭感覚が狂っている気がする。この前両親に使い魔をプレゼントした時なんて高校生が動かせる額を軽く超えている。今から買うものも普通高校生ならそこそこ苦労するものをポンと買おうというのだ。絶対ちょっとずれている。
今思うと、ライセンスを提示したとはいえ八十万もの買い物を保護者の確認もなしにできてしまったあたり、世の中全体金銭感覚が狂ってきていないだろうか?それはちょっとまずい気がするが、自分にはどうにもならないのでそこは政治家の人達に頑張ってもらうしかない。
数日後、パソコンを買った。ネットもつながっているのでオンラインゲームができる。これで何をするかといえば、紅蓮に将棋のゲームをさせるためだ。
オンラインなら使い魔でも家にいながら色んな人と交流できる。それならば、全国の猛者と紅蓮を戦わせることができるのだ。
早速将棋ゲームをインストールし、使い方を紅蓮に教えた。すると、あっという間に自分より詳しくなってしまった。やはり紅蓮は凄い。
そうしてネットで対戦をさせていくと、序盤のうちは鎧袖一触だったのが、強い人と当たるようになって接戦に、時には敗北することもあった。それに紅蓮は落ち込んだり勝ってガッツポーズをしたり、頭の炎をいつもより燃え上がらせたりしていた。
その姿に買ってよかったと心底思う。ただ、燃え上がるのは勘弁してほしい。そこは調節しているのかどこかに燃え移ることはないが、見ていて怖い。
―――その日、人気動画投稿者の『ただの女騎士』がCランクダンジョンのボスモンスターを倒す動画がアップされたのだが、なんとそのモンスターがカードを落としたのだ。ボスモンスターのランクはそのダンジョンのワンランク上。つまり、ダンジョンができて初めて、一般人の目にBランクのカードが現れたのである。




