プロローグ
初投稿です。よろしくお願いします。
プロローグ
頭痛がしたと思ったら目の前に鎧を着た不審者が立っていた。
サイド 矢橋 孝太
中学からの帰り道、友達と別れて一人帰路についていると、唐突に頭痛がした。
それほどひどいものでもなく、かといって軽くもない、少しだけ立ち止まって頭を押さえてしまう程度のものだった。
頭痛は一分もせずに収まり、妙に倦怠感を覚えながらも顔を上げると、そこには鎧を着た不審者が立っていた。しかも、手にはハルバートのような物まで持っている。
孝太の身長は中学生どころか日本人としても長身で一八一センチもある。だというのに鎧の不審者は頭一つ分明らかに大きい。広い肩幅のせいか余計に大きく見える。
これだけでも注目を引くだろうに、不審者はなんと『燃えていた』。比喩でもなんでもなく、頭頂部から紅い炎がゆらゆらと燃えている。よく見ればハルバートの本来鎌がある部分からも同じような炎がでて燃えている。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
正直関わりたくない。しかし、さすがに目の前で燃えている人を無視もできず声をかけると、鎧の不審者はコクリと無言で頷いた。
「いや、けど燃えていますよ?頭。消した方がいいんじゃ……しょ、消防車呼びますか?」
困惑しながら言うと、不審者は左手を突き出して制止するような動きをして首を横に振る。
「呼ばなくていいってことですか?もしかしてそういう仕様って事でしょうか……?」
これに対し、不審者は突き出していた手を腰に当て胸をはり、大仰に頷く。
「そ、そうですか。それじゃあ、僕はこの辺で……し、失礼します」
一応大丈夫かきいたし、もういいだろうと逃げるように不審者の脇を通って早歩きで家に向かう。
すると、不審者はガシャガシャと鎧をならしながらついてきたではないか。思わず立ち止まり振り返ると、不審者も立ち止まりこちらをジッと見つめてくる。
「あ、あの、何か御用でしょうか?」
どうにか引きつった笑みを浮かべながらそう問いかける。正直怖いのだ、この不審者。見た目以上に謎の威圧感があり、手にしたハルバートはおもちゃとは思えない鈍い輝きを放っている。
精一杯の勇気を振り絞った質問に、不審者は兜を斜めに傾けるだけで何も言わない。
「ま、まさかついてくる気じゃないですよね……?あ、いや、不快にさせてしまったらすいません」
焦って本音をいってしまい、すぐに失礼かもしれないと謝る。それに対して不審者は首を横に振り、手をひらひらとさせて『気にするな』とジェスチャーしてきた。見た目よりはフランクな人なのかもしれない。
「……で、できればどこかに行っていただけると、ありがたいんですが……」
その様子に少し調子に乗ってそういうと、不審者は予想以上にショックを受けたかのように肩を震わせて固まる。
言い過ぎたと後悔し、怒って暴れられる前に謝ろうとする。しかし、その前に不審者は霞の様に消えてしまったのだ。
なんの痕跡もなく、まるで蜃気楼か何かのように消えた不審者に、顎がはずれるんじゃないかというぐらい口をあんぐりとあけてしまう。
「え、いや、え?幻?ドッキリ?夢?」
混乱し、浮かんだ単語を次々口に出していくが答えは見つからず、怖くなって家に向かって走り出した。
もともと家まであと少しだったこともあり、数分ほどで着いた。
玄関をやや乱暴にあけ、大きな声でただいまと言う。都会なら近所迷惑になるかもしれないが、あいにくそこそこ田舎なので問題にならない。
「おかえり。どうしたのそんな大声出して」
母が少し驚いた顔で出てくる。その様子に少しホッとする。先ほどまでの非日常感が薄れた気がしたのだ。
「あら……?」
思わず半笑いを浮かべると、母は首を傾げ数歩近づいてくる。
「どうしたの?」
「いや、なんか痩せた?もう少し丸くなかった?」
「え?」
疑問符をうかべ、頬に手をやる。そして、手は全身に。身長が高い分、横にも少し大きかった体は、やけに筋肉質なものに変わっていた。腹筋に至っては綺麗なシックスパックができている。
「あんた、いつの間にそんなダイエットしたの」
「いや、そんな覚えは……」
二人して疑問符を浮かべるが、すぐにそれどころではないと思いなおす。
玄関を閉め、カギをかけながら母に不審者の事を伝える。
「さっきそこでやたらでかい不審者にあったんだ。紺色の鎧をきてハルバートみたいなの持って立っててさ、話しかけてもジェスチャーだけで無言だったんだ」
「それは……怪しいわね。この辺にパフォーマーとかコスプレイヤーがでるとも思えないし」
母が眉を顰める。当たり前だ、こんな田舎の街並みの中フルアーマーの鎧騎士なんて不信以外の何ものでもない。
「通報……は流石になにもしてないししないけど、一応注意しておこう」
「そうね。一応お父さんにもメールしとくわ」
その後制服から部屋着に着替えてリビングに行き、ソファーに座る。昨夜録画したアニメを楽しみにしていたのだ。テレビの電源をつけ、ビデオデッキのリモコンを探す。
『中継の吉田さん、町はどういう状況ですか!?』
テレビから焦った声が聞こえて顔を上げると、ちょうどスタジオから街頭へとカメラが移ったところだった。
「えっ」
画面が映し出したものに釘付けになる。そこにはあまりに非現実的な光景がひろがっていたからだ。
首が何メートルも伸びている『ろくろ首』、緑の肌に小さな角をはやした『ゴブリン』、足のない半透明な宙を浮かぶ骸骨の『幽霊』。
『町中に突然現れたこれらですが、仮装というにはあまりにもリアルです。幸い暴れるなどの狂暴さはないようですが、いったいどういう存在なのでしょうか!?』
二十代の男性に話しかけて怖がられているろくろ首に、若いアナウンサーが驚いたことに怖がる様子もなく近づく。これにはカメラマンもスタジオを驚き制止する。映画なら真っ先に死ぬリポーター役だ。
『すいません、今いいでしょうか?』
『ん?別に構いませんよ?』
更に予想外なことに、ろくろ首が普通に返答したのだ。目をアナウンサーに合わせる姿は、長すぎる首から目をそらせばたおやかな美女にしか見えない。
『まず、あなたは一体何者なのでしょうか?失礼ですが、普通の人間には見えないのですが?』
『まあ、見ての通り人間ではなくそこに座っている方の使い魔ですから』
ろくろ首が顔を向けた先には、腰を抜かした青年が座り込んでいた。
『大丈夫ですか?どこかお怪我は?』
『い、いえ、大丈夫ですけど』
『では、あちらのろくろ首さんはあなたが呼んだのでしょうか?どういったお知合いですか?』
『し、知らない!と、突然現れたんだ。頭痛がしたと思ったら目の前にっ』
アナウンサーが再びろくろ首の方を向く。それに対して、彼女は肩をすくめてため息をつく。
『もう何度も使い魔であると伝えても信じてもらえず、少々困っています。ステータスを見れば一目でわかるでしょうに』
『ステータス?あのゲームとかで出てくる?』
『まあ、おおむねそのような理解で構いません。念じてみれば目の前に出てくるはずですよ』
青年の方にアナウンサーとカメラが向く。青年は訝しげな顔をして小さくステータスと唱える。すると、目を見開いて声をあげる。
『な、なんだこれ!?』
『どうしたんですか?何が見えているんですか?』
『まあステータスは基本本人にしか見えませんからね』
驚いている青年の胴体にろくろ首は長い首を回して立ち上がらせる。
『そろそろ話を聞いてくれそうなので、この辺で失礼させてもらいます』
『はい!貴重なお時間ありがとうございました!』
『いえ、それでは』
ろくろ首は青年に肩を貸し、どこかへと歩いて行った。青年は終始呆然としていた。
『ではあちらの幽霊?さんにお話を聞いてみたいと思います!』
やたら元気なアナウンサーが次なる標的を求め移動する。それを誰も止めることはできなかった。
「なん……えぇ……」
呆然とテレビを見ていると、後ろから母が声をかけてくる。
「あら、新しいドラマ?ずいぶんよくできているわね」
「いや、母さん、これ今やっているニュース……」
「冗談が下手ねぇ。ほら、テレビ見る前に宿題やっちゃいなさい」
そう言って母はテレビを消し、キッチンの方へと向かっていった。
「……ステータス」
ぼそりとそういうと、目の前に半透明な画面のようなものが現れた。
矢橋 孝太 LV.1 年齢:14 種族:人間
魔力 生成:7 貯蔵:8 放出:8
スキル パッシブ
・魔眼(予知)・世界樹の枝
スキル アクティブ
・世界樹の加護(小)
使い魔
エレメントナイト 状態:良
「本当にでたよ……」
目の前に現れたステータスを眺めまわし、先ほどテレビで見たことを思い出す。
「頭痛がした後、突然現れたって……じゃあ、あの鎧が僕の使い魔?」
ソファーから立ち上がり、キョロキョロと周りを確認する。
「よ、鎧さーん。いらっしゃいますかー?」
物は試し。そう呼びかけると、消えた時同様どこからともなくハルバートは持っていないが、紺色の鎧が現れた。
ただし、体育座りで。
「え、うわ、マジか」
半信半疑で呼びかけたので本当に出るとは思っていなかった。そして、何故体育座りなのかと疑問に思う。
消えた時を思い返すと、もしや自分が邪険に扱ったからという理由が浮かぶ。いや、突然目の前にこれが現れたら誰だってああいう対応をするだろうと思うのだが。
「えっと、さっきはすいませんでした。もしかして、貴方が僕の使い魔ですか?」
そう問いかけると、鎧はガバリと立ち上がり、勢いよく何度も頷く。頭の炎が揺れて怖い。
「あ、あの、すいません鎧さん。鎧さんのお名前聞いていいですか?」
先ほどから鎧と呼んでいるが、どうにも呼びづらい。そう思い聞いて見るが、鎧は腕を組んで考え込む。
「教えられない、でしょうか……?」
鎧は静かに首を横にふる。となれば、
「もしかして、名前がないんですか……?」
今度は首を縦にふる。どうやら、鎧に名前はないらしい。
なにはともあれ、名前は重要である。呼びづらいし、何よりせっかくの使い魔が無名というのも味気ない。
正直、小説やアニメの世界にしかない状況にかなり興奮しているという自覚はある。それぐらい、今の自分は普段にない積極性をもっていた。
「じゃあ、僕が名付けてもいいですか?うわっ」
そう聞くと鎧は勢いよく頷き、こちらをじっと見つめてきた。
「なら……『紅蓮』。紅い炎を出しているから、紅蓮ってどうですか?」
鎧、改め紅蓮が一瞬固まり、次にグッとサムズアップしてくる。どうやら気に入ってくれたようだ。
「孝太?さっきからなに騒いで、ひゃぁぁぁああああ!?」
キッチンからやってきた母が紅蓮をみて悲鳴をあげる。
どう説明しよう。




