死神さんの難儀な一日
いつも面倒ごとは突然やってくる。
死神はとある王国の王を眺めながら、面倒ごとを受けることとなった経緯を考えていた…。
時は少し前に遡る。
今日は死神のお休みの日だった。死神は冥府のどんよりとした空を見上げ、今日何をするかを考えていた。
何せ、一年半ぶりのお休みなのだ。下界や天界に遊びにいくか、ゆっくり昼寝をして一日を過ごすのもいい。死神は久々の休みに何をするか考えながら朝の散歩をしていた。
「おーい、死神!丁度いいところに来たな。ちょっと頼みたいことがあるんだけど…」
そう言いながら冥府の王が死神のところに来たのは朝の散歩から丁度帰ってきた時だった。
死神はせっかくの休みに仕事を持ってこられるのは冗談じゃなかったので、断ろうと思い口を開いた。
「ハデ「君にしか頼めない仕事なんだ。なぁに、半日も掛からんからちょっと下界に行ってきてくれないか?終わったら遊んできて構わないからさぁ」
死神に断られる前に、打倒の勢いで言い切られた。これはきっと空いている人には全員断られてきているな。
ハデス様のなんとかしてきてくれない?は実質命令なので、断ることもできない。
死神とは言っても所詮木っ端役人、悲しい…。
「で、何をしてくれば良いのでしょうか?」
諦めて、仕事の内容を聞く。こうなったらできるだけ早く終わらせて人界で遊んでこよう。
「やる気になってくれて嬉しいよ」
やる気というか諦めだけどな。
「いやー、実は人界で禁忌をやってる輩がいるらしくてさ、ちょっとそいつの魂を冥府まで持ってきて欲しいんだよねー」
禁忌を侵した奴をなんとかするのは天界の仕事だろうが。
と死神は思ったが、相手が相手なので文句を言うことは出来ない。
「死神の思うことも分かるよ?確かに禁忌を侵した奴を裁くのは天界の仕事なはずなんだけどね。その天界から人手が足りないと言われてね。天界に持っていくのは僕がついでで持っていくから魂だけ回収してきて欲しいんだ。お願い〜!」
どうせ断ることもできまい。
「分かりました。私が回収して参ります」
さっさと行ってさっさと終わそう。
そうして人界まで転移する。ここはターゲットがいる国である。
街の人の話を盗み聞きしていると、どうやら禁忌を侵した奴はこの国の王だと言うことがわかった。
さて、どうやるか…。とかんがえていると上からなんか降ってきた。
死神なので、干渉しなければ触れることも無いが上から何かが降ってきていい気持ちのわけはない。
しかし何が降ってきたんだ?
降ってきたものを見て顔が引きつった。人間の糞尿だったからだ。この世界は下水が発達しておらず、糞尿は窓から投げ捨てるのが主流だ。衛生状態は最悪である。
嫌なものにかかってしまった。実際にかかったわけではないが嫌なものは嫌だ。
大通りまで出る。流石に此処ではあんなものを投げ捨てはしないだろう。
「ガゥルルル」
さて、王城はどっち方面だっけ?
「ガゥルルルルルルルー!」
煩いなぁ、死神はそう思い音のした方に首を向ける
人の大きさぐらいの背のある狼だった。動物は鋭いらしく、結構解られる。
そんなこと考えていると、死神を食わんと狼が襲ってきた。
…食われるなんて冗談じゃない。慌てて逃げる。
どうやら鎖に繋がれているらしく、少し離れたら来なくなったが、下界は危険がいっぱいである。まぁ、よく考えれば干渉出来ないんだから逃げる必要も無かったか。
そんなことをしていると、いつの間にか王城に着いた。もう昼になっていた。
そして冒頭まで戻る。
今眺めている王が今回禁忌を侵した輩というわけだ。どう言う禁忌かと言うと、不死の禁忌だ。
魂は本来輪廻の輪にくっついて回っている。だから老いて死に、冥府か天界に行った後にまた現世に戻っていく。その繰り返しを行っているはずの魂を、輪廻の輪から切り離し、まぁ実質の不死を実現してるわけだ。
しかしこの世界の理を曲げたのだ、許されるはずもない。
さて、どうしたものか。死神は本来、死を見守り、魂を冥府まで送り届けるのが仕事だ。肉体から魂を離すなんて荒ごとやった事がない、どうしたものか。
…こうして王を眺めていても始まらない。何か策を考えねば…。
『あれがこの国の王か、どう殺すか』
近くで、心の声が聞こえた。声がした方を振り向くと、一人の暗殺者が居た。
ちなみに死神は人間からは見えないので、暗殺者は死神に見られているなんて、夢にも思わないだろう。
死神は考えた。この暗殺者に王を殺してもらえれば、自分は魂を回収して、後は冥府に戻るだけだ。
ただ問題なのはこの暗殺者に死相が出ていることだ。多分この死相は、この暗殺が失敗に終わることを示している。
…よし、ちょっと手を貸してやるか。本来人に過度に干渉するのはダメだが、そうも言ってられない。さっさと終わさないと死神の休日は無くなってしまう。
とは言えどう手を貸すか…。人に見つからないようにとかかな?
『よし、王宮に入るか』
暗殺者は死神が考え終わるまで待ってはくれない。暗殺者は王宮の隠し通路から中に入っていく。
王宮の警備は頑丈だ、隠し通路通路ぐらいしか入れる場所はないだろう。
暗殺者は迷いもせずに進んでいく。多分下準備を相当したのだろう。人を殺す職業なので尊敬は出来ないが、その準備を怠らない姿勢に感動する。ハデス様はなにか用事がある時絶対準備しないマンなので見習っていただきたいものである
暗殺者が止まった。いつの間にか隠し通路から、王宮内の廊下に繋がる扉まで来ていたようだ。暗殺者はずっと隙を窺っているらしい、全然動かない。死神は扉から廊下に出た。死神はすり抜けの能力も持っている。誰にも感づかれることも無いから便利である。
結構頻繁に警備の人が歩いているようで、暗殺者の出る隙が無いようだ。どうしたものか…。死神はさっさと終わしたい気持ちで一杯だった。
ちょっと廊下を歩くと中庭に出たようだ。ここは警備の人は二人ほどしかおらず、のほほんとした空気に包まれていた。
…!死神はいいことを思いついた。此処で火災を起こし、警備の人を集中させれば暗殺者は暗殺をやりやすいのでは無いだろうか。
物は試し、やってみよう。
『αθ∫§*』
ただの火起こしの術だが、ここは中庭だ。燃えるものなどたくさんある。後は勝手に広がるのを待つだけだ。
死神は暗殺者のところに戻った。
少し時間が経つと、中庭で火事が起こったらしいと、殆どの警備の人たちが中庭の方へ走って行った。暗殺者はこれ幸いと廊下を王がいる部屋の方へ走って行った。
放火作戦は上手く行ったようだ。
『なんかよくわからんが、王の居る執務室の前まで楽に行けたな、しかしこの先護衛騎士が二人いるからな、本来は王が出てくるまで待っている手筈だがさっさと終わしたいな、どうするか…』
暗殺者よ、死神と同じこと考えているぞ。
さて、暗殺者の要望を叶えてやりたいが…。どうしたものか…。さっきみたいに放火をしたところでそんなに燃えないしなぁ。
考えていると、一人のメイドが歩いてきた。恐らく執務室にお茶でも持ってきたのだろう。
…あそこに毒でも入れられれば、成功するのでは…?
『あー、隙が有れば毒しこむのにな』
暗殺者は毒も持ってるようで。
よしっ、ここは一つ頑張ってみるか。
死神はメイドに変身して、認識阻害をかける。王宮のメイドにいないなどの違和感を持たせなくする便利な術である。
「あの、ちょっと手伝って欲しいことがあるんですけど…」
メイドに声をかける。メイドは
「今王様たちにお茶を入れるので…」
と断られたけど、すぐ終わるからとお茶の道具から離れさせた。
まぁ当然手伝って欲しいことなどないので、便利な記憶操作魔法でうやむやにしたが。
暗殺者は首尾よくやってくれたようだ。
『これで帰れる』
と嬉しそうだった。一応死ぬまで見ていなくてはダメらしく、廊下の陰から部屋の様子を注視していた。
死神は部屋の中に入り様子を眺める
メイドが
「お茶をお持ちしました」
と言った。
王様が、
「ご苦労」
といい、お茶を口に含んだ。その瞬間苦しみだし無事に肉体から魂を剥がすことに成功した。
「毒を持ったのはお前か!」
と、メイトが取り押さえられていた。メイドに罪はない。可哀想だから少し助けるか。
『α*∂〆』
記憶を操作する。少し強引なやり方だが外部のものがやったと思い込ませ、メイドを釈放させる。
記憶操作便利。
暗殺者は暗殺を確信し、帰って行った。
そして死神も魂を持って冥府に戻った。
本当は下界で遊びたかったが、夜になってしまって遊べなかった。
はあ、大変な一日だった。休暇吹っ飛んだし。
ハデスに報告に行く。
「ご苦労様〜!ありがとうね。今日はゆっくり休んでいいよ!明日からも頑張ってね〜」
そうして死神さんの休暇は無くなったのだった。