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防衛戦隊ディフェンジャー  作者: きり
第1章 普通の(?)の女子高生
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06 桜の木の下で

 一瞬、意識が飛んだ。

 次に意識が回復した時には、青と緑の人が直ぐ傍にいて、私を岩陰に匿ってくれていたから、実際のところ一瞬では済んでいないと思う。

「おい、大丈夫か?」

 のろのろと痛む身体を起こすと、全身が酷く痛んだ。

 夢操我達は、毎回こんなのを受けていたのかと思うと、益々欝になる。

「皆は?」

「レッドとピンクは、今こっちに向かっている」

 青の人の台詞で、私は夢操我にされてしまった仲間の事をそう呼んでしまっていた事に気が付いた。

「おいお前、何であんな事したんだよ!」

 緑の人が怒鳴った。

 怒っているのか、単に困っているだけなのか判断がつかない。私が緑の人の封神笛を飛ばしてしまった事に対する抗議なのか、私が彼の攻撃から夢操我達を庇った事に対する事なのか。

「すみません」

 おざなりに謝ると、私はそっと岩陰から身を乗り出した。

 夢操我にされた合唱部の仲間は、それぞれ地面を掘っていた。何か目的をもって掘っていると言うよりも、ただ闇雲に掘り返していると言っていいだろう。

 ……何してるんだ?

 知らず呟いていたらしい。

 青の人が光石(こうせき)を探しているのだろうと答えた。

「光石って?」

 ここが戦場だという事をしばし忘れて私は問い返した。

「笛を吹くのに必要な部品、みたいなもんじゃねぇか?」

 な、と緑の人が青の人に同意を求めた。

「恐らく。実際のところ、鏡異人(きょういじん)――鏡異界に住む人間の意。ここでは鏡異界から伝説の剣を探しに来ている人間を指す――にも未だその存在理由がよく分かっていない様だがな」

 と、緑の人が考え込む様にマスク越しに顎を摩る。

「……って、何でそんな事を聞くんだ? そんな事くらい、とっくに知っているだろうがよぉ」

 苛々した口調で緑の人が言うと、頭のてっぺんを叩かれた。

 ……知らんがな。

 つか、よくよく思い出してみたら、何時も私がロッカに呼び出された時にはもう既に戦闘が始まっていたっての。

 戦闘前後の事なんて、私が知る訳無いっての!

 ……とはいえ、彼等が私の事情を知る訳でも無し、ここはこの状況を甘んじて受け入れるしかあるまい。

「まずいな」

 取り敢えず、この場をおさめる為だけに謝っておくかと口を開き掛けたところ、隣で身を乗り出していた青の人がそう呟いた。

「まずいって、何が?」

 緑の人が青の人を振り返って聞いた。

「あいつ、光石を見付けやがった」

 そう言って指差した先には、一人の夢操我が夢操我独特の気怠げな動きで地面に膝をつき、素手で土を掘り起こしに掛かっていた。他の夢操我達も、のろのろとその夢操我に近寄って来ていた。

「くそっ! 邪衆魔が来やがった」

 何処か物陰に隠れて夢操我達が光石を見付け出すのを待っていたのだろう。夢操我を操る邪衆魔が土を掘っている夢操我達の前に姿を現した。

 姿を現した邪衆魔は男だった。見た目は人間の成人男性と言ってもおかしくない。いや、寧ろその中でも美形の部類に入るだろう。

 ただ彼の服装が、テレビの特撮番組ばりに奇天烈なのと、髪の色が自然の物であるとするならば、人間には有り得ない色であるという点を除いて。

 何度か戦いの場で(まみ)えたその男は、光の具合で青く見える腰まで届く黒髪を(なび)かせ、黒いマントを翻し、夢操我達に近寄って行く。

「そうはさせるかっ!」

 それを見た緑の人が岩陰から出ようとしたところを、私は慌てて引き留めた。

「待って! わた……ぼ、僕に考えがあります!」

 咄嗟に自分の事を“私”と言いそうになり、慌てて言い直す。

「僕が夢操我の気を引いている間に、二人は邪衆魔より先に光石をっ!」

 そして二人が止めるのも聞かずに、岩陰から飛び出した。

 とは言え、実のところどうやって夢操我達の気を引けばいいのか、さっぱり分からなかった。

 その時、遠くで部長の鈴の音が鳴っているのが耳に届いた。

 夢操我にされた皆は、一様に皆区別のつかないグレーの毛に覆われた獣の様な姿にされてしまう。

 それでもあそこにいるのは、大切な仲間だ!

 私は大きく深呼吸をすると、静かに目を閉じた。

 心の中で、皆に聞いて、と唱えながら、再び目を開け、今皆で練習している課題曲を歌い始めた。

 初めに、光石を見付けた夢操我が動きを止めた。次にその傍で土を掘り返していた夢操我達が。

 次々に顔を上げ、不思議そうにこちらを見ていた。全ての夢操我がこちらをじっと凝視しているのが分かる。

「皆、声が出てないよ! お腹から声を出して!」

 本当は私以外誰も歌って等いなかったんだけど、練習のリーダーになったつもりで声を掛ける。

 手にした封神笛を右手で構えると、大きく振った。

「ギ……ギーッ」

 それば初め、どう贔屓目にみても歌という代物ではなかった。夢操我達はタクトに合わせて唸る様に声を発した。

「そう。……ここはもっと力強く!」

 それでも私には夢操我達が、合唱部の仲間が、一生懸命歌っている様に見え練習さながら声を掛ける。

「ギーーーッ、ギギーーーッ!」

 心なしか、夢操我達の発する奇声がメロディーを奏でている様に聞こえ始めた。

 そして……。

「な、何が起きているんだ!?」

 背後で緑の人が、驚きの声を上げた。

 夢操我達の身体から、次々と黒い煙の様な物が抜け始めた。煙が抜けた夢操我達は一人また一人と、本来あるべき姿へとかえっていく。

 後少しで全員元の姿に戻るというところにまできていた時、突然それは起こった。

 ドーンという爆音とともに、数名の夢操我が飛ばされた。

 驚いて音の先を見ると、邪衆魔が憤怒の形相で立っていた。

「邪魔をするな!」

 邪衆魔の言葉に我に返ると、私は手にした封神笛を両手で握り直した。

「うおおおおぉ!!」

 何も考えていなかった。

 真っ白になった頭の中は、仲間にした彼の仕打ちに対する怒りで一杯だった。

 と、その時、予想だにしなかった事が起こった。

 何もイメージしていなかったにも関わらず、私の振るう封神笛の先端から光の波が飛び出した。

 イメージする事で武器としての機能を発動する封神笛に対して、今の私は何も考えず力一杯、封神笛を振り下ろしただけだった。

 光は鞭の様に大きくしなり、邪衆魔目掛けて振り下ろされた。

 波は一直線に邪衆魔目掛けて飛んで行く。

 光の波が邪衆魔を巻き込みそのまま消えてなくなった。

「……どういう事なんだ!?」

 呆然と緑の人が言うのと、残された夢操我が人間(ひと)の姿に戻るのが同時だった。そして、人間の姿に戻った彼女等は、景色に溶け込む様に消えていった。

「おい、やるじゃねぇか!」

 素早く変身を解除しながら緑の人のに肩を叩かれた。

 が、今は飯嶋さんの相手をしている場合じゃなかった。

 合唱部の仲間の事で、頭が一杯だった。

「ロッカ、回収して!」

 変身ブレスの通信ボタンを押し、ひそひそ声でブレスに向かって助けを求める。

「了解れしゅっ!」

 妙に機嫌の良いロッカの声がして、私はその場を後にした。

 遠くで赤の人の「邪衆魔はどうした!?」という声がしていた。



 一旦、音楽準備室に転送された私は、変身を解くと、足音を立てない様に忍び足で部屋を出る。そして急いで桜の木のある場所に戻った。

「何、これ……」

 そこは一面、ピンクだった。

 いや、違う。桜の花が満開だった。

 時期をかなり外して、蕾すらつけていなかったその桜の木が、満開で桜の花びらを散らしていた。

 正に桜吹雪状態。

 これって、さっきの光石とかっていう物と何か関係があるんだろうか?

「さく……ら?」

 半分寝惚けている様な声がした。

「皆、大丈夫ですか?」

 我に返って、慌てて倒れている合唱部の仲間に駆け寄る。

「……あれ? 私、何をしていたんだろう?」

「いた。……どっかで身体を打ったかなぁ?」

 ぼんやりと焦点の合わない目をこちらに向ける仲間を助け起こしながら、心の中で詫びていた。

 ごめん。私がしっかりしていないから……。

「鷺沼さん? ……私、一体どうしていたのかしら」

 痛む様に頭をおさえつつ、のろのろと部長が立ち上がった。

 幸い、ロッカやディフェンジャーの皆から聞かされていた通り、夢操我にされていた皆に怪我は無い様だった。

 けれど、痛みの感覚は残っているみたいだった。

 未だふらつく皆に手を貸しながら、落ちていた楽譜ファイルを拾っていく。

「おっと」

 ファイルを拾おうと身を屈めていると、背後で男の声がした。

 赤の人こと、草薙さんだった。彼はふらふらしている合唱部のメンバーの一人を支えていた。

 その後ろには、飯嶋さんと榎本さん、それにピンクの人こと松山さんが立っていた。

 助けられた仲間は、顔を赤らめ草薙さんに礼を述べていた。

「気にしないで。それより君、大丈夫?」

 草薙さんは、私が聞いた事も無い様な優しい声で言うと、手を離した相手がちゃんと立てるか確認をした。

 言われた部員は、顔を真っ赤にして大丈夫だと答えていた。

 ……草薙さんって、実は軟派な人だったのか。

 その様子を呆れ顔で見ていると、榎本さんと目が合ってしまった。

 慌てて目を逸らすと、視線の先で倒れそうになっている部員を助けに回った。視界の端では榎本さんが未だじっとこちらを見ていた。

「え? イエローが来ていたの!?」

 松山さんの驚いた声が耳に入って来た。

「あ、ごめん」

 ディフェンジャーのメンバー以外、誰も意味が分かっていなかった上、気にもしていなかったのだけれど、自身の声が周囲にいた人間の注目を浴びた事を悟った彼女は、素早く声を潜めた。

 その後の会話は聞き取れなかったけれど、背中を嫌な汗が滴り落ちるのを感じた。

「あ、もうこんな時間!」

 かなり体力が回復したらしき一人の部員が、自身の腕時計を見て声を上げた。

「本当だわ。急ぎましょう!」

 部長がそれにならって時間を確認すると、部員をせき立てる様に言った。

 未だふらつく者、ディフェンジャーのメンバーにハートマークを飛ばす者達を部長の言葉よろしく引き摺る様にせき立て、私は足早にその場を後にしたのだった。

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