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防衛戦隊ディフェンジャー  作者: きり
第1章 普通の(?)の女子高生
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05 敵と鈴と私

「これって……」

 桜の木に近付いて行くと、何時ものピリピリとした空気とは明らかに別の物を強く肌で感じた。

 真っ直ぐ平らな地面なのに、こう歪んでいると言うか、何と言うか……。

 例えるならば、乗り物酔いしそう、って言うのが、一番近いかも知れない。

 私はクラクラする頭で大きく一つ深呼吸すると、更に桜の木に近付いて行った。

 おかしな事に木に近付くにつれ酔いが酷くなるのと同時に、音が聞こえなくなってくる事に気が付いた。

「あー、あー、あー」

 試しに声を出してみた。

 良かった。ちゃんと聞こえる。

 という事は、外からの音だけを遮断しているという事なのだろうか……。

「いやいや、ここも充分外だって」

 思わず自分にツッコミを入れてしまう。

「おっと」

 足元にある何かに躓いた。

 危うくこけそうになって下を見ると、そこにはある筈の無い物が落ちていた。

「譜面?」

 落ちていたファイルの一つをめくると、今私達が練習している曲の譜面が収めされていた。

 一冊だけじゃない。何冊ものファイルが、そこかしこに落ちていた。

「何で?」

 そう呟いた瞬間、異様なまでに静寂に包まれていた場所が、それに答えるかの様にザワザワという葉のざわめく音に支配された。

 見ると風もないのに桜の木が揺れている。

 怖い筈なのに、魅入られたかの様に桜に近付くと、 木に触れた。

「キャー!」

 木に触れた瞬間、身体ごと何かに吹き飛ばされた。

 次に訪れる衝撃に身構えていたが、一向に衝撃は襲って来なかった。

「大丈夫か?」

 男の声に、無意識に瞑っていた目を開けると、そこには青の人こと榎本さんの顔があった。

「す、す、す、すみません!」

 慌てて榎本さんの腕の中から抜け出ると、後退った。

「ここは危険だ。離れた方がいい」

 真っ直ぐに見詰められ、私は反論する事なく勢いで頷いていた。

 ディフェンジャーをやっていた時に、一度として素顔を見られた事が無いからばれていないとはいえ、妙に焦る。前から思っていたのだけれど、この人の目には何かしら力がある様で、どうも苦手だ。

「何見詰め合ってるんだよ。おい、急げ!」

 結果的に傍目には見詰め合っていた事になるらしい私達。

 後から来た飯嶋さんの声に我に返った。

「ああ、分かった」

 そう答えると、榎本さんも飯嶋さんに続く。

 二人が木に突進する。

 激突する!――と、私が思った瞬間、何かに飲み込まれるかの様に二人の姿が消えた。

「何? どういう事!?」

 呆然と立ち尽くす私の耳に、本来いる筈の無い人物の声が聞こえて来た。

「将美、変身ブレスを着けるれしゅ!」

「え? ロ、ロッカ? な、何で!?」

 私は直ぐ近くで聞こえるロッカの声に、周囲を見回す。

 けれど何処にもロッカの姿らしき物は見えない。

「ロッカ、何処にいるの?」

 ヒソヒソ声で尋ねる。

「将美の名札れしゅよ」

 ロッカの返事に胸ポケットにさしているクリップ状の名札を外してみる。すると名札の裏に、小さなボタン状の金属片が付着していた。

「通信機れしゅよ」

 ストーカーかよ、と思わなくもなかったけれど、辛うじてその言葉を飲み込む。

「早く、ブレスを着けて行くれしゅ!」

 尚も急かす様に言われ、自分の今いる状況を思い出した。

「でも、私はもうディフェンジャーは辞めたんだよ」

「じゃあ、お友達を助けに行かなくていいんれしゅか?」

 言われて地面に散乱する楽譜の入ったファイルを見渡す。

「……皆? まさかそんな?」

 そう答えた私に、ロッカは信じたくない事実を告げた。

「将美のお友達も、向こうにいるれしゅよ!」

「何でそんな事が分かるのよ」

「感じるれしゅよ」

 自信を持って宣言するロッカの言葉に私は言葉を失った。

 ロッカのこの感覚を馬鹿に出来ない事は経験上知っている。

「将美が助けに行かなきゃ駄目れしゅ!」

「でも、助けに行くって、木の中に?」

 無理だよ、と返事する。

「ブレスを着ければ、聖神域(せいしんいき)に入られるれゅよ」

「え? 聖神域って?」

「説明は後れしゅ! 早く行くれしゅ!」

「わ、分かった!」

 ロッカに言われるまま、私は音楽室の前まで戻ると、合唱部の皆にばれない様に、鞄を置いている準備室にそっと忍び込んだ。

「将美、変身するれしゅ!」

「りょーかい!」

 変身ブレスを素早く装着すると、小声で変身と呟きながらブレスのボタンの一つを押した。

 私が変身するや否や、通信機からロッカの「転送するれしゅ」の声が聞こえて来たのだった。


.

 そこは一見普通の場所だった。砕石場の様なそこは、紛れも無く桜の木の中に広がる世界だった。

「皆何処にいるんだろう」

 合唱部の仲間の姿を求め、耳を澄まして立ち止まる。

「ギーッ!」

 夢操我の独特な叫び声が聞こえて来た。

「あの丘の向こう?」

 私は一気に岩場を駆け上がり、皆の元へと急いだ。


「ったく、何でこう打たれ強いんだろうな」

 夢操我の常で、痛みすら感じない身体にされてしまった人々が、倒されても倒されても立ち上がって二人に襲い掛かって行く。

 私は近くに合唱部の皆がいないかと、周囲を見回した。

 そこにはディフェンジャーの緑と青の人、それに夢操我にされてしまった人々がいるばかりだった。

 まさか、とは思いつつ、夢操我の人数を数えてみる。

「十八人って……」

 考えてもみなかった結果が私の脳天を直撃する。

 普段から邪衆魔に身体を乗っ取られた人々を見てきてはいたが、まさか自分の見知った人間が夢操我にされているとは、思いたくないし思えなかった。

 ここに皆が来ている事すら、未だに信じられないのに、皆が夢操我になっているだなんて……。

 けれどこの状況で、いなくなった合唱部のメンバーと同じ人数だけ夢操我がいるのは、悲しいかな単なる偶然だとは思えないのもまた事実である。

「きりが無いな。……一気に行くか?」

 緑の人が持っていた封神笛を刀の様に構えると、握った笛の先に光の刃が現れた。

「よっしゃ。両端から一気に行くとするか」

 変身スーツの下で、彼が、ニヤリとするのが分かった。

 夢操我になっている人間が私達の持つ封神笛で実際に傷付く事はないとはいえ、仲間が二人にされるがままになるのは我慢がならなかった。

 私は走りながら腰に装備していた封神笛を口のある辺りに構えると、口の中に気を溜めるイメージを浮かべる。そしてマスクの下から吹き矢の様に吹き出した。

 先ずは緑の人の手に向かって。

 緑の人の手に私が吹いた光の矢が見事にヒットし、緑の人の手から封神笛が飛んだ。

 次いで青の人に向かって同じ行程を繰り返そうとしたけれど、緑の人の様子を見ていた為か、あっさり刀と化した封神笛で躱された。

「何!? ……ってイエロー、お前どういうつもりだ!?」

 怒ればいいのか驚けばいいのか態度を決めかねている緑の人が、飛ばされた封神笛を追い掛けながら叫んだ。

「すみません」

 私は緑の人に叫び返すと、滑り込む様に夢操我達の目の前に走り込んだ。そして中にいる人間を見極め様と、目を凝らす。

 しかしそんな事をしても分かる訳もなく……。

 ――チリリン。

 鈴!?

 確かに今、微かにだけど鈴の音が聞こえた。

 ……ぶ……ちょう?

 もー! 何でなのよ! 何で皆が邪衆魔に操られなくちゃいけないのよ!

 信じたくはなかったけれど、この鈴の音が、部長の何時も身に付けている鈴の音が、今目の前にいる夢操我だと告げている。

 皆を助けなきゃ。

 襲ってくる夢操我達の攻撃を躱しながら必死で考える。

「イエロー、何故反撃しない!」

 青の人が、私を庇う様に刀を振るう。

 けれど一気に薙ぎ払おうとすると、今度は私が青の人と夢操我の間に割り込んで邪魔をする。

「お願い、攻撃しないで!」

「馬鹿か、お前は!」

 遥か前方で、緑の人が拾った封神笛を構えていた。

 私は咄嗟に何も考えずに夢操我になってしまった仲間を飛び越え、緑の人が放った光の刃を受けたのだった。

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