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防衛戦隊ディフェンジャー  作者: きり
第1章 普通の(?)の女子高生
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03 悩めるヒーロー(仮)

「将美、帰るの?」

 荷物を鞄に詰め込み、教室を出ようとしていたところで声を掛けられた。

「うん。……あの、何?」

 振り向いて声の主、竹内藍子(たけうち あいこ)を見る。

 彼女はクラスメート。高校に入学して以来、妙に気が合う友達でもある。

 彼女はまた、やり手の新聞部員でもあり、実際、今の新聞部は、彼女でもっていると言っても過言ではない、と私は密かに思っている。

「最近ずっと速攻で帰ってるよね。何かあったの?」

「え、いや、特に何も……」

 実はお兄ちゃんの代打で黄色担当になってからは、学校が終わると速攻で家に帰る事にしているのだ。

 出来るだけ呼び出された時、人目に付きたくないっていうのが一番の理由だけど、ロッカが家で待っていると思うと、そんな不自由な生活さえなんて事無くなるから不思議だ。

「ならいいんだけどさ。でも合唱部の方は大丈夫なの? 最近、全然顔を出してないんじゃない?」

 言われて突然、ずっと胸に(つか)えていた事実に向き合わされる。

 私の所属している高校の合唱部は、県下でも有名な全国大会出場常連校なのだ。

 私も去年、参加して全国大会の準優勝に輝いた。

 今年こそは優勝!――を目標に、練習に励む……筈だった。いや、私が臨時の黄色担当になるまでは、本当に励んでいたのだ。

 昔から言いたい事の言えない性格が、今も災いしているらしい。本当は毎日練習にも出たいのだが、実際問題、そうする事には障害が有り過ぎた。

 ここの合唱部に憧れて入学したと言うのに、一年でリタイアしなくてはならない現状から、知らず目を背けていたのかもしれない。

 就職先が決まったら復帰するから、と言うお兄ちゃんの言葉を信じているのも事実だったけれど……。

 私は藍子の言葉に、ただ困ったような笑みを浮かべる事しか出来なかった。



     *



「鷺沼さん、お客さん」

 教室を出ようとしていたらしいクラスメートの男子の言葉に、何も考えずに立ち上がった私は、その人物を前に言葉を失った。

「鷺沼さん、ちょっといい?」

 顔を覗かせたその人は、名札に付けた鈴をチリリンと鳴らして言った。合唱部の部長だった。

 翌日、教室で藍子達とお弁当を広げている時だった。

 本来、来る筈のない三年生が二年の教室に現れた事もさることながら、しかもあの有名な合唱部の部長の突然の訪問に、教室に残っていた人間は、興味津々の視線を送って来た。

「出ましょうか?」

 そんな周囲の様子に苦笑すると、部長は私の返事も聞かずに歩き出した。


「はい、どうぞ」

 学食横の自販機で買った紙パック入りのジュースを私に差し出すと、胸ポケットで揺れる鈴が鳴った。

 モゴモゴと礼を言う私に彼女は身振りで座るように促した。

 私は素直に壁に立て掛けていたパイプ椅子を開いて腰掛けた。

 今、私達のいる場所は、音楽室の準備室。様々な楽器が所狭しと雑然と置かれているそこは、合唱部と吹奏楽部の部室でもあった。勿論、ここで練習をする訳ではないが、部誌やら楽譜やら、部としての細々とした物が保管されている。

「鷺沼さん、最近、部活に出てないわよね」

 ジュースにストローを刺した部長が物問いたげに私を見た。

 恐れていた事とはいえ、一瞬言葉を失う。

「杉本さんが心配しているわよ」

 勿論、私も心配しているけれど、と彼女は付け加えた。

 杉本さんと言うのは部長と同じ三年生で、合唱部の副部長でもある。

 うちの合唱部は、基本的に練習をパート毎に別れてするのだけれど、彼女は私のパートのパートリーダーでもあるんだ。

「……すみません」

 私は俯いて呟くように言った。

 責められている訳ではなく、反対に心配されている事が心苦しい。

「何かあったの? 相談になら何時でものるわよ?」

 どれ位時間が経ったのだろう。

 俯いたまま両手で握った紙パックの中に入っているがジュースが生温くなってくる頃、部長が気遣わしげに言った。

 いっそ全て話してしまいたい、そんな衝動に駆られそうになる。

「すみません」

 結局、最後まで謝る事しか出来なかった。

 困ったように微笑む部長の胸では、何事も無かったかのように鈴が涼しいげな音を奏でていた。



     *



「ファイナルソード!」

 横にいた赤の人が、光を刀状に出した封神笛を大きく振り下ろしながら叫ぶ。

 毎回毎回、恥ずかしげも無くよくやるよな、等とこっそり私が思っているなんてのは、ここだけの話。

 振り下ろした封神笛の光の刃が本体から分離すると、回転しながら無数いる敵である夢操我(むそうが)達を一気に薙ぎ倒した。

 倒れた夢操我達からは煙のような影が立ち上ぼり、異形の姿だった者達が、私達と同じ人間へと姿を変える。

 そう、邪衆魔達は邪願呪(じゃがんじゅ)という魔法のような力で人間達に取り付き、自分達の手足として使っているのだ。彼等は操られているとはいえ、人間に他ならない。

 実のところ、毎回毎回、私は密かに罪悪感に苛まれていたりするんだよな。やれやれ。

「今日のところは引いておいてやる。次は無いと思え!」

 唯一、本体ごと来ている邪衆魔のリーダーが、典型的な悪役的台詞を吐きながら、その姿を異界へと消した。

 邪衆魔のリーダーが姿を消した途端、景色が一変した。

 人気の無い採石場のような所だった場所が、一気に生活感の溢れた場所に変化する。

 それは白黒だった世界が総天然色に変わったかのような変化だった。

 私にはこの変化がどういった現象なのか未だによく分からないのだけれど、兎に角、私達は一目につく前に、何時ものようにジャンプでビルの屋上に移動する。

 このスーツを着ていると、常人には有り得ない高さにまで跳ぶ事が出来る。

「よし、今から反省会だ!」

 変身を解除しながら赤の人が叫んだ。

「え? 反省する事ってあったっけ?」

 同じく変身を解除した緑の人が驚いたような声を出す。

「ある! イエロー、お前、何時もにも増して、ぼんやりし過ぎだぞ。お前のせいで、皆が危険に曝されるんだぞ」

「ちょっと草薙君、口が過ぎるわよ」

 やんわりと桃色担当の人が私を庇うように言ってくれたのだけれど、赤の人が言う事は真実でもあった。

 今日はもう少しで私を庇ってくれた青の人が炎の直撃を受ける所だった。

 私達が変身と称して着ている特撮張りのライダースーツもどきが、あらゆる衝撃から身を守る強化スーツだったとしても、弾が当たれば痛いし、刀で斬られれば場合によってはスーツ自体も切れる程の衝撃を受けもするのだ。

 炎を真面に浴び、無傷で済むか否かは、今の所、未経験である為不明なんだけど。

 何時の間に来たのか、変身を解いた青の人が黙ってポンポンと軽く私の頭を叩いた。

「……ごめんなさい」

 私は思わず地声で呟くと、下を向いてうなだれた。

「気にするな」

「でも……」

「次、頑張ればいいさ」

「次じゃ遅過ぎる! 皆、危機感が無さ過ぎるんじゃないのか? 今日は良かったが、次も上手くいくとは限らないんだぞ! 毎回毎回が真剣勝負じゃないと駄目なんだ!!」

 青の人の言葉を耳聡く聞き付けた赤の人は、益々ヒートアップする。

「おい、何カッカッしているんだよ。済んじまった事は今更仕方無いじゃないか。次から気を付けりゃいいって。な!」

 緑の人はバシンと力一杯私の背を叩くと、これで一件落着、とばかりにガハハと大声で馬鹿笑いした。

「仕方無い、じゃない! ……イエロー、お前はどう思っているんだ?」

 赤の人が、怒鳴るように言った。

「……すみません」

「謝ればいいってもんじゃないだろう! やる気が無いなら、辞めてしまえ!」

「そんな乱暴な」

 緑の人が呆れたような声を出した。

「あんたにメンバーを辞めさせる権利は無い」

 青の人が私を庇うように私と赤の人の間に割って入った。

「皆、落ち着こうよ」

 泣きそうになりながら、桃色の人が睨み合っている赤と青の人の顔を交互に見詰め、訴えるように言う。

「……辞めます」

 気が付いたら、私はそう口にしていた。

 口にしてみて初めて、私は本当にヒーローを辞めたかったのだと実感した。

「辞めます」

 今度はきっぱりと言う。決意を表す為、顔を上げて皆の顔を見回した。

「え!? 冗談、だよね?」

 桃色の人が驚いて私の両肩に手を掛けた。

「いえ、本気です。辞めます」

“辞める”と言えば言う程、自分の中で意志が固まっていくのが分かる。

「ちょ、ちょっと落ち着いて!」

 私は桃色の人の腕を肩から外すと、深々と頭を下げた。

 そして皆の制止を振り切り踵を返すとその場から私は消えたのだった。

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