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SOI-008



「小鬼の骨を使った強化薬、竹に神職の祈祷を添えた簡易破魔矢、順調だな」


「木材以外も売れるのはありがたい」


 その日、修司と町民がトラックに積み込んでいたのは、町で作り出したあれこれ。

 元々は林業が盛んな町だが、最近では毛色の違う物も混じり始めている。


 怪異の素材を使った、色々な道具たちだ。


(俺の使うような奴も、理屈は同じだ……が、これなら簡単に作れるな)


 威力は手間相応、つまりはあまり高くない破魔矢。

 それでも銃を持つための免許や講習を受けずとも、怪異に少しは対抗できる力である。

 体が出来ていれば、子供でも練習したうえであれば前に撃つぐらいはできるだろう。


「強化薬の方は異能者専用にしたほうが多分いいとは思う。さすがになあ、実験って訳にも」


 言いかけたところで、修司の持つ異能者専用のタブレット、そして町にあるスピーカーから警報が鳴り響いた。

 すぐにトラックは道の隅へ、家々から人々が飛び出し公民館へと走り始める。


 怪異が出てきた時に鳴る警報。これまでは修司と、警察官ぐらいしか建物の外にいなかった光景。

 だが、今はその光景は変わり始めていた。


「鳴らす用の鐘は持ったな? 警戒開始だ!」


 叫びながら走り出すのは町の大人たち。その後ろに中高生も数名、ついていく。

 その手には昔ながらの技法で作り出された弓、そして破魔矢。

 本当ならば異能者でもなく、警察でも自衛官でもないのに戦うなんてと怒られそうな光景。

 でもこの町では、自主的にそんな動きが生まれ始めていた。


「まだ昼前だってのに……どこだ、どこで出た」


 この警報は、連携している市町村の中で近隣のいずれかに怪異が近づいてきているときの物。

 つまりは当事者以外にははずれのことも多い。

 実装当初は1日に何度もということで人々にも疲れがあったようだが、最近ではその数も減ってきた。


 ただ、週に1回が多いか少ないかは当人たちのみが知っているだろう。


「現地に異常なし。投稿者、天堂修司」


 修司たちにとっては幸いに、この日は別の場所のための警報だったようだ。

 警報が終わり、特に襲撃が無いことを確かめた修司のタブレットへの報告が日常への合図となった。


 人々は自宅や作業場へと戻り、売り物を積んだトラックも移動を再開する。

 トラックの積み荷が向かう先は中部地方の現在の中央、元名古屋市だ。

 途中のどこかで売るのか、直接運び込むのかは任せてある形。


「埋立地が良くないパワースポット化するも浄化し返した? そういうのもあるのか」


 文明が歪になっていると修司が感じる1つがこのタブレットである。

 専門の学校を卒業し、免許を持った異能者全員に支給されるものだ。

 貴重な工業製品で、生きている回線を優先使用する権限を持つ特別製である。

 太陽光充電により充電され、諸々の劣化が進むまでメンテナンスフリーという仕様だ。


 機能は異能者が怪異を討伐した時の報告と情報収集、そしてメールのようなやりとりだ。

 絞った分、そうそう壊れないというのが売りだと修司は聞いている。


 そんなタブレットに来た内容から、日本各地で変化があったことを修司は知る。


「……見回り、して来るか」


 異能者へ向けた知らせの中にはいくつかそのまま流せば不安をあおるようなものもあった。

 その中の1つが、放置されたパワースポットの悪化、つまりは怪異の卵となる可能性について、だった。


 幸い、町のそばにある大クスは既に区画を整備し、町の一部のようになっている。

 ほぼ毎日子供達も遊びに行き、大人も顔を出していることを考えると悪化することは考えにくかった。


 問題は、そうではない場所……人が住んだりするには厳しい場所にあったスポットだった。


 昔から大きな戦場跡ではなくても、日本各地には様々なお地蔵様や祠といったものがある。

 多くが忘れ去られていることを考えると、日本の野山は言うなれば怪異がいつ出てくるかわからない爆弾だ。


 いつもの装備を身に付け、単身山へと駆け出す修司。

 いつも以上のことが起きないことを祈りつつ、山道を行く。


 そうして2時間ほど、山を駆け巡り目についた怪異を退治していく修司。

 今のところ、普段見かけるような小鬼程度で、2体だけ鬼がいたがそれも退治済み。


 平和とは言えないが、いつもの山がそこにはあった。


「こんなもんか……だからといって山を切り開いて住みなおすかというと……うーん」


 怪異の登場により、日本人だけでも半減している現実。

 皮肉なことに、ここ半世紀の出生率は上向き、かつてのような人口ピラミッドが作られている。


 つまりは若者が増え、年寄りが相対的に少なくなっていく状態である。

 そうはいっても、まだ都市部から集落をどんどん増やすほどには土地は狭くない。

 安全を考えると、出来ることなら守りの硬い場所にいたいのが人間という物だろうか。


「そのうち異能者だけで最前線の村を作れとか……やめやめ、考えるのやめ!」


 一人でいると独り言が増えてしまう、そう思いながら町へと帰ろうとした修司が気配を感じた。

 大きくなく、嫌な感じでもない……ただ、初めての物。


 ゆっくりと警戒の姿勢をとった修司の前に現れたのは、黒猫だった。

 その姿に、修司の警戒も思わず緩んでしまった。


 天音と一緒にいるはずの、ぶーただったからだ。


「なんだ、ぶーた。1人で散歩に……いや、ここまで来るはずがないよな」


 彼が聞いている限りではぶーたはあまり外に出歩かない猫だ。

 町のそばで天音と一緒にいるならともかく、こんな山の中に単独でやってくるはずがない。

 それに、先ほどの気配……と修司が構えなおした時、横合いから新たな気配。


「小鬼っ!」


 出てきたのは修司にとっては敵にもならない、背丈50センチもない相手だった。

 直剣で切り倒そうとした修司の視界で、黒い影が横切った。

 それは小鬼へと迫り……そして着地。修司がその姿を確かめる頃には、小鬼は倒れていた。


「ぶーたお前……そのナイフ俺のじゃないのか?って……」


 小鬼を倒したのはぶーたであった。それを成したであろう武器はその口に咥えられたナイフ。

 自室に置いてあるはずの予備だろうかとあたりを付けつつもぶーたを抱きかかえるべく近づいた修司。


「? こいつは……そうか、ぶーたお前、猫又になってるのか!」


 そう、抱きかかえようとした修司が見た物、それは尻尾が別れたぶーたの姿だった。





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