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SOI-007


 修司はその日、怪異を切り裂く刃ではなく小さな刃を手にしていた。

 小刀とでもいうべきそれで刻むのは、剥ぎ取ってきた怪異たちの毛皮等。


 一見すると元々山にいた動物の毛皮のように見えるそれも、正しく処理すると異能の力となる。

 例えば、今修司が処理している狸っぽい怪異だったものの毛皮も、気配を隠しやすい装飾品となるのだ。


「かくれんぼに使えそうだね」


「ははっ、そりゃ反則だよ」


 無線設備の修理の間、修司はせっかくとってきたのだからと怪異たちの素材を処理していた。

 危険はほぼないため、天音を見学させているのだった。

 鬼の角等、金属に溶かし込めばそれ自体が力を持つ素材は別にして、毛皮などは修司一人でも処理できるのだ。


「なんだか昔話のお爺ちゃんのみたいだね、もふもふしてる!」


「そうなんだよなあ。綺麗に整えてそのまま使うしかないんだよなあ」


 怪異から入手できる素材の内、毛皮の類は意外と人気が無い。

 それは今修司が行っているように、そのままでしか使えないからだった。

 例えば服のように着るのであれば全身分を入手し、ベストのように仕立てて着こむ形になる。

 防刃ベストのようなものも無駄ではない現状、入手が安定しないこちらを好む異能者は少なかったりする。


「あー、でも。天音ぐらいの子とかだったらこのほうが使いやすいんじゃないか?」


「うん。大人のだと大きいもん」


 試しにと、縫い合わせる前の毛皮をマントのようにかぶせてやるとその場でくるりと回って見せる天音。

 まだ表面が獣臭さが残るはずなのに、なんだかそれっぽく見えるあたり、面白いなと感じる修司。


 と、そんな天音が大クスによって異能に目覚めたことを思い出す。

 天音がやってみせたのは癒しの力……けれども、それは力の1つでしかないだろうと修司は考えていた。

 修司のような異能が斬るだけではないように、いくつかの力を同時に使えるのが異能の常だからだ。


「そういえば、異能の力はどうだ。練習してるか?」


「たーっくさん練習してるよ。えっとねえ、なんだっけ……魔法少女に変身するの!」


 ???と疑問を浮かべる修司の目の前で、天音は持ち歩いているらしい何かのステッキを手にした。

 そうして、何やら呪文のようなものを唱えて振ると……確かに異能の力が生じるのを感じた修司。


 まるで天音だけを雲が包むかのように光の靄が産まれたかと思うと、収まったところには少女が1人。

 毛皮だった部分も、手触りのよさそうな何かに変わっている。

 確かに、魔法少女っぽい女の子がそこにいた。


「天音……か? すごいな」


「ヒラヒラしてかわいいでしょー」


 頷くしかない修司の見つめる先で、全身をどこかで見たような衣装に変えた天音が笑っていた。

 ポーズを決める天音を見て、ようやく修司も思い出す。


 彼女の衣装が、数少ないアニメチャンネルでやっている番組のそれに似ていることに。

 アニメの設定そのままの力がということはないだろうが、再現しようとしていることは伝わってくる。

 今世界中にいる希少な異能者たちの力も、工夫次第だということは知られている。

 となれば天音の力も、同じようにこれからの工夫次第なのだろうかと考える修司。


「異能の力は想像力と思い込み……か。これは面白いな」


「? だめだった?」


 修司が褒めてくれないことに不安になったのだろう、天音の顔がゆがむ。


「いや、すごいじゃないか。こりゃ帰ったらみんなの様子も確かめないといけないな」


 慌てて天音を撫でつつ、心の中では修司も気を引き締めていた。

 この町には、大クスのような目立ったパワースポットはなさそうである。


 大クスのように触って祈ることで、多少なりとも異能に目覚めるといったことはレアなのかもしれない。

 そう考えた修司の鼻に届くのは温泉の匂い。


(待てよ? 温泉も……昔から続いてるし、信仰のようなものがあるよな)


 大地の力、そう言い換えてもいいのかもしれないと考える修司。

 やや強引なのは間違いないが、待っているだけでなくこちらからアプローチもありなのかもしれないと考えなおした。


「そーだ、お兄ちゃん。おまじない知ってる? こうやってお願い事をかいてー、川に流すの。上手く流れていったら叶うんだよ」


「天音は色々知ってるな。偉いぞ」


 元気を取り戻した天音の相手をする修司の顔も明るい。

 本当かどうかもわからない伝承などが今、実際に怪異を産み出しているかもしれないのだ。

 であるならば、逆に人間に有利な物を作り出すことだってできるかもしれないと思えたからだ。


 無線設備の修理が終わり、天音の父親たちと共に故郷へと帰る途中も、修司はそんなことを考えていた。




 懐かしさを感じる故郷に戻って来た修司が始めたこと、それは……町民による自警団の設立だった。


「構えっ! おっけーおっけー、上等だ。どうせ強いのが来たら逃げるが勝ち。そうでない相手には2人以上で必ずあたること」


「俺たちも怖いからな、絶対そうするよ」


 大クス近くの竹やぶ(なぜか大クス方面には広がってこない)から切り出した竹やり。

 それを手に列を作るのは町の大人たちだ。

 誰もが、手にした竹やりを自信ありげに見ている。


「理由はよくわからないけれど、おじさんたちも異能っぽい力がある。道具を使うとはっきりするから間違いない。たぶん、小鬼程度なら猟銃とか使わなくても貫けると思う」


 研究者というわけではない修司にとっては大クスの力も、それにより生じた町民の変化もまだはっきりとしていない。

 すぐにわかるのは子供たちの異能、そしていくらかの大人たちの変化だ。

 天音のように力を発揮しだした子供達の他にも、こうして大人にも力が目覚めたのだった。


「銃もタダじゃないからなあ。よし、続きを頼む」


 そこだけ時代が巻き戻ったかのような練習風景。

 本人達ですら気が付いていないが、この瞬間だけはこの町が怪異対策の最先端であることを知る人はいなかった。


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