表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/30

SOI-005


 人類は今、怪異という存在によりこれまでのような生活は出来なくなっている。

 となれば社会生活、仕事も同じものは存在し続けることは難しい。


 と、そんな問題ももう半世紀以上前の話である。


 実際のところ、多くの工場は規模の縮小、廃業を余儀なくされている。

 逆に復活してきた業種もある。その1つが林業である。

 修司たちの故郷もまた、多くの町民が林業、あるいは食べていくための生活をしているのだ。


 まるで昭和やその前に戻ったようだ、とささやかれる生活だ。

 ではどうやって生活をしているかと言えば、それらの資源を都市部に売るのである。

 都市部や工業地帯は残っており、今の時代にあっても機械生産を行っている。

 いくつかの企業は、かつての軍需産業の流れから復活しているのは当然の結果だった。


 色々な意味での地産地消、国内内需……日本の国土と、国民性が可能にした緊急対策でもあったようだ。


「車も走るが馬も走りますよって100年前なら想像すらできなかっただろうな」


 かつてのコンクリート舗装道路は今もその姿を維持し、多少の痛みはあるものの無事だ。

 補修のためには護衛がいるのが悩みだが……とその道を走りつつ、修司はひとり呟く。

 

 車を使って人員を一緒に運ぶという手もないわけでは無いが、今回は修司一人。

 道中の安全が確保できてから後続が来る予定である。

 怪異の襲撃により、町の無線設備が痛んだという連絡を受け、天音の父がやってくる予定になっているのだ。


「気配もなし……カラスなんかもいないか。前より境界がはっきりしてきたか?」


 隣町といってもかつての日本での隣町という感覚ではない。

 車であれば1時間ほどであろうが、徒歩では一日がかりである。

 そんな場所を走りながらも見上げるのは暗くなってきた空と白い光。

 所々にある電灯が今も人類は健在であると訴えているかのようだった。


 そうして走り続けてしばらく、自転車よりは早いという人類を超えた速度で移動した修司。

 おかげで日が暮れる前には隣町にたどり着けたのだった。


 役所へと案内された後、隣町の町長がわざわざ出迎えてくれたことに驚きつつも向かい合う。


「君が異能の戦士か?」


「ええ、ほら免許」


 異能者には常識が通用しない。不思議な力という点において、だが。

 それでも一定量の先達たちの知識や経験を学び、卒業した者には国が免許を出していた。

 主な権限は独自行動、国の運営する組織に所属していない状態では思うように異能を発揮せよ、という物だ。


 護国集の名前を冠するのは一部の人員だけなのである。


(変な思想の奴が好き勝手に暴れるとは……それどころじゃあないってことか)


「それで、状況は良くないということで?」


「残念ながらな。何かあってもいいようにと郊外に設置したのが裏目に出た。物珍しさにか壊していっただけですんだが次は町そのものかもしれない。緊急の無線設備はあるが、長期間使うのは想定していないから……そばにいて助かったよ」


「国は異能者を前線や重要拠点に配備しますからねえ。まあ、俺みたいなのはレアもんですよレアもん」


 硬くない方が良さそうだなと察した修司が砕けていけば、町長もまた張りつめていた空気を散らしていく。

 こういう場合には、自信満々なほうがいい。

 そんな学校で学んだことの1つが久しぶりに役立ったな、等と思っているのは外に出さない。


「目撃されたのは鬼が10、小鬼が少々、後は骨武者が数体だそうだ」


「こういう場所にしては多い……何か謂れでも?」


 質問を予想していたのか、すぐに町長がテーブルに広げた古びた資料にあるのは……落ち武者狩りの話。

 と言っても少し毛色が違う部分もある。

 森に逃げ込んだ武者は、同じく森に追いやられていた事情ありの民に……ということだった。


「それでどっちも人間に恨みつらみがってとこか……了解」


「もう行くのかね?」


 怪異が活動するのは夜。であれば人間が動くのは昼間の方がいい。

 そんな常識はあくまでも、生活をするうえでの話だった。


「1匹も逃がさないなら、この方が話が早い。それに今日は満月……大人しくしてそうにない」


 修司が外に出ると、気の早い太陽は山に沈み、既に周囲は暗がりが支配し始めていた。

 まだ温かさの残る空気を胸いっぱいに吸い込み、気合も全身に行きわたらせる。

 町を覆う防衛用の結界もどきを抜け、その外に出ればそこはもう、自然の場所だ。


 振り返れば確かに町のそばに無線設備だっただろう物がある。

 これまではこの辺まで怪異が来ることがほとんどなく、安全だと思っていたんだろう。


「人はかつて、死と隣り合わせだった……古くせえ、今は何年だよ」


 確かに怪異たちの出現によって人は半分以下となり、文明も多くが失われたし後退もした。

 だからなんだというのだ、と修司は思うのだ。

 例え便利な道具がなくても、かつてが破壊されても、今と未来が残っているのなら問題ない。


 そう考えて力を振るっているのだ。そう、例えば誰かの笑顔がある未来のために。


「はっ、まだ日付も変わってないのにせっかちだな」


 月明かりに照らされる森。

 吹き抜く風が枝を揺らし、かつては幽霊と間違われたかもしれない。

 今晩はそこに本物がいた。


「1……3……まあいい、感じなくなるまで斬る、それだけだ」


 直剣を鞘から抜き放ち、月明かりに刃を光らせる。

 背負った刀とは違い、和洋の技術がつぎ込まれた現代の剣。

 まだ代えの効くそちらを修司は好んで使っていた。


 そして、森から出て来た影……まずは鬼、に向かって走り出す。

 接近戦は確実だが、その分危険度も高い。

 何分、相手の腕力も尋常ではないのだ。


「遅いっ!」


 当たれば岩も砕かれるだろう鬼の拳。

 今回は地面を揺らし、拳跡を残すのみであった。

 わずかに遅れて、腕だったものが空を舞う。


 自ら飛ばした腕には目もくれず、次の相手へと襲い掛かり、今度は片足を切る。

 何度聞いても慣れることはないだろう鬼たちの叫びが響き、周囲の気配も高ぶっていく。


「勝つのは、俺だ」


 とある研究者は人類が好き勝手にしてきたことへの自然の復讐なのではないか、という説を唱えている。

 確かに結果から見ると、かつての戦場や鉱山跡、切り開いた山などに怪異は多く出現した。

 もしも、海洋汚染がそのままであれば沿岸部もひどいことになっていただろうというのが考えだ。


 真実は、わからない。


 ただ1つ言えるのは……人類が生きるのをあきらめる必要はないだろうということだった。


「天堂……連斬!」


 聞く人が聞けば、まるでかつてのゲームのよう……そんな印象を受ける台詞と共に修司が剣を振るう。

 ただの斬撃のはずの攻撃は、異能の力をまといその力を発揮した。

 不可視の刃が金属の刃を追うように連なり、怪異を二度切り裂いたのだった。


「これでひとまず終わりか……見に行くか」


 鬼や小鬼を一通り斬り終えた修司は、原因を確認するべく森に分け入るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ