SOI-027
空を、2つの光が染め上げた。
片方は金交じりの黒、もう片方は白交じりの青だ。
共に発光の本体は……龍。
長細いタイプで、空に浮いている状態のアジア圏の龍だ。
「風が……嫌な風だ」
「なんだか生ぬるいというか、冬ですよね、今……」
誰よりも早くビルの上で龍、龍神と呼ぶべき相手同士の戦いを目撃している修司たち。
地上でも、異変を感じた人々が同じ方向を向いている。
既に空の様相自体が、おかしな感じだからだ。
「お兄ちゃん!」
「天音かっ!」
そんな修司と、たまたま一緒にいた学園の卒業生の男の場所へと地上から天音が飛び上がってきた。
既に変身済みで、いつでも行けるぞという状態である。
ただ、修司は首を横に振り彼女をそばに招いた。
「よく見て見ろ……手前は琵琶湖の伝承だろうが、あっちはどうも様子がおかしいぞ」
「向こうの空が……黒い?」
修司が指摘し、天音が感じたように人間側にいる龍神は青く、どちらかというと神々しさを感じる。
だが、それと敵対する黒い龍神はどう見ても嫌な様子だった。
それに、尻尾の方は海の方、すなわち大陸の方を向いているのだ。
それだけではなかった。
「先輩、見てください。地上から何か昇ってます!」
「煙……いや……あれは!」
それからの修司たちの動きは早かったと、関係者たちは一様に口をそろえて報告していた。
彼らが目撃した物。それは地上から怪異だったであろうものが段々と空へと昇る姿だった。
そう、怪異たちがどう見ても敵であろう龍に吸い込まれているのだった。
理屈はわからない。正しいかもわからない。
だがしかし、放っておくのが一番まずい……その認識が共通の物となった。
幸いにというべきか、龍神同士の戦いはすごく遠いというわけでは無かった。
「出来るだけ死体は残すな、吹き飛ばすか燃やせ!」
「うわわっ、揺れてる……よーし!」
気分は巨大生物の下で逃げ惑う人間、であった。
数キロも離れていないような場所の上空で龍神同士が戦っている。
続く落雷のような音がその激しさを示していた。
それに誘われるように、東の方角から怪異はやってくる。
さらに、北の方からも見たことの無い怪異がやってくるのを修司は見た。
「どうも中華っぽいような……大陸からの増援……? まさか」
足物を浮かせてホバー移動していく天音を見送りつつ、新たな脅威を睨む修司。
具体的な名前は思い浮かばないが、身にまとう衣服が和風ではないのだけはわかった。
それが意味するところは、中国側では人間が……ということ。
「誰が相手だろうと倒すのみっ」
嫌な想像を振り払い、武器を刀に持ち替えて集団に修司は飛び込む。
既に周囲では異能者たちの戦いが始まっている。
数自体はまだマシなほうであった。抜けていくような奴がいないからだ。
「どんな伝承かわからんが、その縁ごと斬ってしまえばいいっ!」
日本で見るそれと違う、どこか人間臭い姿の怪異へと迫り刀を振るう。
切ると同時に、修司の異能の力が刃を通して発揮され、二つに別れた鬼はそのまま崩れ落ちる。
修司が考えた通り、こうして滅びた状態の怪異は空に昇らないようだ。
それを見届け、次なる相手へと躍りかかる修司の姿はまさに戦士。
自分が1体でも多く怪異を倒せば、それだけ回りが安全になると信じている戦い方だ。
それが良い事なのか、悪い事なのかは誰も答えを持たない。
ただ……一人での戦いを良しとしない存在はいた。
「虫型かっ!」
拳ほどの大きさの動く物。虫として考えると大きいが、怪異としては弱い。
そんな相手が近くの茂みから飛び出してきたことに舌打ちしつつも刀を振るう修司。
数匹は倒したが、まだ残っている相手が修司に迫り……光の壁にぶつかった。
「お待たせ、お兄ちゃん!」
「助かったっ。ぶーたも一緒か」
どうして来た、とは修司も言わない。
年の差はあれど、天音も立派な異能者の1人であり、それなりに経験を積んできた仲間である。
それに、自分のところに来たということは何かあったか、余裕が出来たかのどちらかだとわかっているのだ。
自然と彼女をかばうような姿勢となり、なおも尽きていない怪異と向き直る。
「えっとね、仲間が来たみたい」
「援軍が? どこの人たちだ」
修司の問いかけに、微妙な表情で首を振る天音。
そんな風に言いよどむことが珍しい天音の姿に、修司も疑問をそのまま顔に出す。
と、答えがすぐにやってきた。
「あれは……」
半ば呆然となった修司のつぶやき。
彼の見る先では、揃いの服を着た男性の集団が現れていたのだ。
修司は知らないが、それは軍服。
数世紀にもなろうという昔に、国のためにと命を散らした男たち。
本来ならばこの土地で死んだわけでは無い彼らが今、日本にいた。
「子供たちが戦っているのに、眠ってはいられないって……」
「そう……か」
恐らくは一時的な物で、今後ずっと手助けがあるとは思わない方がいい。
そう直感で感じる修司だったが、今を逃す手はない。
すぐさま気を取り直し、声をかけあって怪異たちを押し返すべく動き出した。
見た目は明らかに古い装備の軍人たちが一撃を放ち、躍りかかる度に怪異たちは倒れる。
新旧、日本の、自分たちと家族の未来のためにと戦う姿が奇跡の同居を果たす。
そうしている間にも、琵琶湖上空では龍神同士の戦いが続いていた。
その余波は修司たちからは見えないが、琵琶湖の西にも及んでいるはずである。
そのことが微妙に焦りを産み出していく。
「当たれば俺の刀でも……いや、そもそもあの中にどう飛び込む?」
「まだ来るよ、お兄ちゃん!」
迫る怪異を斬り捨て、ぶーたが飛びついた相手を天音の魔法が打ち砕く。
踊るように舞うように、修司と天音、そして間を飛び交うぶーたによる討伐数は伸びていく。
異能の力が光となり、周囲を染め上げていく姿は演劇のようでもあった。
徐々にだが、人間側が怪異を押し返していく。
地上の状況とは違い、空の状況は微妙なところだった。
一際大きな音。それは黒い方の龍神が放った黒い雷がもう片方の龍神を捕えた音だった。
衝撃と光に思わず目を閉じ、顔に手をかざす修司。
その状態でも感じる龍神の気配が……迫ってきていた。
「!? 退避っ、退避だー!」
琵琶湖の上空から地上へと落ちてくる龍神。
そのことに気が付いた修司の叫びに従い周囲から人が消え……修司は足を止めていた。
視線の向こうで、黒い龍神がなおも何かをしようとしているのが見えたからだ。
(避雷針代わりにはなるか……あれを当てさせるわけには)
すぐ上を龍神がよろめくように落ちてくるのを修司は感じていた。
ちょうど龍神の間に入る状態になることも。
が、修司は1人ではなかった。
「やろう、お兄ちゃん」
「ああ、ぶーたもよろしく頼む」
手をつなぎ、修司の右手には刀。天音の左手にはステッキ。2人の間にはぶーた。
2人と1匹から力が伸び、1つとなる。天音の障壁に修司たちが力を貸して壁を作ろうというのだ。
そして、予想通りに放たれた再度の雷と、修司たちの障壁とがぶつかり世界は光に染められた。




