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SOI-026


「射撃班を援護しろ!」


 現在、琵琶湖周辺は人間と怪異が入り混じる状況にあった。

 天秤は人間側に傾いてはいるが、一般人が平和に暮らせるとは言いにくい状況。

 徐々に前線となる陣地を押し上げ、地域の奪還を進めている状態なのだ。


 手前の拠点から出発した修司たちは、半世紀以上前に放棄された都市部に進んでいた。

 これは森を切り開くよりは防衛線を構築しやすいからである。

 それに加え、町中にある神社仏閣をよみがえらせれば簡易な結界のようなものにもなるからだった。


 前線に立つ修司の声に従い、天音を含んだ射撃班が遠くから迫る怪異へと力を飛ばす。

 物理的な矢であったり、魔法やそうとしか言えないような異能の力が光となって飛んでいく。

 形のない幽霊のような相手や、小鬼の集団が溶けるようにはじけ、その数を大きく減らした。


「手ごわい奴はいないか……ええいっ」


 修司にとっては1匹1匹はそうでもない強さだったが、今回は数が多い。

 普通に直剣の一撃ですら過剰戦力な状態であった。

 かといって、修司の力は天音のような応用力のある異能ではない。


 ひび割れたアスファルトの道路を駆け抜け、なおも目につく怪異をとにかく斬り続ける。

 と、視界に入るのは本来はトラックが通っていたであろう大きな道路跡。

 そこを遠くから走ってくる怪異……そして古びた道路標識。


 それからの修司の行動に、周囲から人が消える。

 誰もが彼の行動を理解したのだ。


「全部……なぎ倒す!」


 そう叫びながら振り回すのは、そう……道路標識。

 止まれということで角があるのも怪異にとっては不幸な出来事となった。

 今出現している程度の怪異であれば、物理的な攻撃も十分効果的とにらんでの行動だった。


「これで……終わりだっ!」


 怪異たちの中に飛び込み、あたるを幸いに周囲をなぎ倒す修司。

 ほどなく、道路からやってくる怪異の数が減り、ひとまずの区切りとなった。


 1つの廃墟群から怪異を追い出してはひとまずの修復を行い、防衛線を押し上げる。

 本来であれば数か月、年単位でやることを突貫工事で人間側は進めていく。

 今日のためにと準備されたあれこれが、それを後押しした。

 半ば強制的に浄化された土地に簡易だが築かれたお社等が力を発揮しだしたのだ。


「明後日には琵琶湖の北に差し掛かるらしい。風邪とかは引いてないか?」


「だいじょうぶだよー。ぶーたも一緒だし。みんなも優しいよ」


 寒さに頬を赤くする天音の表情は明るい。

 修司だけでなく、みんなのために自分が出来ることがあるということが嬉しいのだ。

 そのことを感じつつも、まだまだ幼い天音に無理をさせるわけにはいかないと修司は休ませる。

 幸い、若い女性の異能者も複数いたため、彼女たちにお願いする修司だった。


 自身もまた、装備の点検を兼ねて廃墟だった町の壁にもたれかかる。

 今のところこの方面の作戦は順調だ。

 このままいけば、西……出雲方面への怪異の増援は最小限に抑えられるだろう。

 あくまでも、修司たちの考えであれば……であるが。


「修司さん、こんなところで。少しいいですか?」


「別に俺の町ってわけじゃないからな。どうした?」


 そんなある意味孤独な状態の修司に声をかけてきたのはまだ年若い異能者。

 誰であろう、名古屋にある異能者たちの通う学校、その卒業生の1人だ。

 今回の作戦に合わせ、合流して来たのである。

 偶然か、修司が特別な授業を行った相手であった。


「うちのメンバーにメガネをかけた女の子いたの覚えてます? あの子、機械に強いんですよ」


「ふむ? 楽しい話……じゃあなさそうだな」


 わざわざ自分に体を寄せ、囁くように言う相手に姿勢を正す修司。

 相談を受ける先輩異能者、そう見えるだろう状態で話の先を促した。


「龍壁は無線電波は遮断しないみたいで……少し前に東の無線を拾ったんですよ。一部の勢力が、勝手に奪還作戦を行ったらしくて関東が騒動に巻き込まれてるらしいです」


「そうか……だが、飛び越えていくわけにもなあ」


 実際、日本を東西に分断してしまっている謎の壁、龍壁は上を通る物を邪魔しないように見える。

 鳥は飛んでいくし、物を投げても向こうに飛んでいったからだ。


 だが、安全な場所という訳でもない。

 今回こうして琵琶湖近辺で戦っているように、龍壁から西側は怪異がたまっている。

 それが東海圏に押し寄せないとも限らず、今回の作戦にもその懸念があったりするのだ。


「西日本だけで政府を立ち上げるって噂……どこまで本当なのか」


「今も似たようなもんだ。とはいえ、間違いなく力の関係は崩れるだろうな。元々日本人だって西側からやってきたというし……そうだな、日本での日本人の繁栄をやり直すことになるのかもな」


 修司の頭に浮かぶのは、歴史のあるパワースポットの数などの差が地域でかなりあるなという事実。

 実際、西日本の方が古い物が多く、今も力を発揮する場所が多いのである。


 関東などにも当然そう言った場所はあるのだが、開発に伴いごく限られた場所のみになってしまった。

 人口などの一極集中が、皮肉にも今の時代のパワーバランスを変えていることに修司も心で呻く。


「少しでも話してすっきりしました。やっぱり修司さんは前線向きですよ」


「こうしてお前さんたちを守るのも戦いさ……おい、何か感じないか」


 地震、そう勘違いしてしまう何かのゆらぎ。

 周囲を見渡した修司ははっとなり、近くにある無事なビルへと駆けだした。


「修司さん!?」


「話は後だ、来いっ!」


 慌てる卒業生を伴い、誰も住んでいないビルの外壁をよじ登るようにして駆け上がった修司。

 普通には無理な、まさに異能の力の成果ではあるが、それをつっこむ人間はいなかった。

 1分もかからず、屋上へと駆け上がった修司と卒業生が見る先は……琵琶湖。


「おいおい……特撮映画じゃないんだぞ」


「でかい……あっちはやばそうだけど、こっちは味方?」


 視線の先で、動くのは巨大生物。


 北には全身を黒と金色の光による線が走る龍。

 修司たちのいる南側に現れたのは白竜だった。


 修司たちの見守る中、2頭の龍は向かい合い……そして人間が介入するのは難しそうな戦いが始まった。


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