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SOI-025


 真冬の朝。まだ外も薄暗い時間帯に、修司は一人建物の中にいた。

 部屋と呼ぶことは難しい、いわゆる道場と呼ぶべき場所。

 町に今も残るそんな場所を朝から訪れているのだ。


「……やっぱり」


 つぶやきも白い吐息となって消えていく。

 一般人であれば寒さに震えそうな中、修司は真剣な表情を崩さぬまま、手にした刀を見つめていた。


 白くなってきた空、そして差し込む光。

 その中にあって、修司の構える刀は……ほのかに発光しているように見えた。


 修司が産まれる前に、世に生まれ落ちたという刀。

 見た目は刀だが、技術的には和洋折衷、とにかく色々な物を詰め込んだと聞かされている。

 その強さの秘密は斬れば斬るほどわかるはず、とだけ伝わっているだけだ。


「怪異を斬って、より怪異に干渉しやすくなる……まるでこれ自体が怪異だな」


 そう口にしてから外れていないような気がする修司だった。

 とはいえ、現在ではこれ以上の武器を探すのは一苦労だ。

 伝承で伝わるような、名のある遺物ぐらいにならないといけないだろう。


「きっと……いや、間違いなくやばい奴を斬る日がくる」


 言いながら思い浮かべるのは鬼であり、様々な怪異であり……川を昇る龍であったりした。

 その中には、鎧武者のような相手が少ないことに修司の思考も横に逸れる。

 今の日本を襲う怪異の種類は多くが異形であり、人型は意外と少ない。

 鬼のようなタイプはいても、怪談によくあるような人間の幽霊といったものはまず出てこないのだ。


 なおもしばらく考え込んだところでようやく冷えが体を襲って来たのか、修司も一通り動き出す。

 独学も含めた型を一通り、そしてそれを汗ばむまで繰り返す。

 一振りごとに、道場の空気ごと切り裂かれるような一撃だ。


「あ、ほんとうにいた。おはよう、お兄ちゃん」


「ぶーたが教えてくれたのか」


 ようやく太陽が山を越え、地上を照らしだした頃に天音が修司を迎えに来た。

 彼女より早く修司に駆け寄るぶーたを抱きかかえ、天音に微笑む修司。


 山ほどの巨大な髑髏を退治してからしばらく。

 雪深くなる前にと、周辺のパワースポットの浄化を兼ねて依頼を受けていた2人。

 これまで以上に、多くの人間と協力しての仕事を数多くこなしていく結果となった。


「さっきまで狐さんと一緒だったよ」


「そうかそうか……動物型も増えて来た……いや、表に出てくるようになったのか?」


 戦いの経験を積む以外に、天音にとって嬉しかったことがある。

 それは猫又であるぶーた以外にも、人間に協力する動物の異能者が複数現れたのだ。

 狐であったり、犬であったり、子供向けの絵本にあるような姿を取ることが多いのが特徴だ。

 堂々とぶーたの尻尾を出しながら散歩できることに天音は嬉しそうである。

 

 そんな天音を引き連れて、役所へと向かった修司はこわばった表情の役人を見つけた。

 どんな厄介事が舞い込んできたのか……聞くだけは聞いておこうと足を向ける。

 相手も修司を見つけると、その表情を少しばかり明るくするのだった。


「修司さん……ついに来ましたよ」


「ついに?……なるほど」


 確かにそれは、慣れているはずの役人ですら表情を変える内容だった。

 タブレットを開けば近い情報は来ているだろう内容は……旧広島市から北北西への遠征。

 すなわち、出雲奪還作戦の始まりだった。


「正月を前にってことか……今いるのは旧暦の神々なのか、そうでないのか……考えても仕方がないか」


「春になると怪異も数を増やしますからね」


 春は命の芽吹く季節でもあるが、なぜか怪異が増える季節でもある。

 光あるところに影あり、ということなのかもしれないが、原因は不明だ。


 大規模な作戦が始まることを知った修司ではあるが、直接そこに乗りこむつもりはなかった。

 中央の作戦に合わせ、周囲でも同等の作戦が行われることも知ったからだ。

 ちょうど今いる関市から西へ向かいながらの分断作戦もその1つだ。


「可能ならば琵琶湖の北を日本海まで抜けていけって……まあいうだけならタダだな」


「話によれば、琵琶湖で巨大生物を見た人がいるとか」


 それからもいくつかのことを話し合う修司と役人。

 ほどなくして、修司たちの作戦参加が決まる。


 三日後には、琵琶湖の北へ向けて集団で進軍である。

 正確には旧世紀の線路跡を伝い、東から攻め北上する形であった。

 関市を出、西へ向かう時には……雪が舞っていた。


「寒くないように、ぬくぬくバリアー!」


「器用だなあ、天音は」


 当初はバイクでは寒いかと考えていた修司だったが、天音の機転によりその問題も解決する。

 怪異の攻撃を防ぐ障壁が張れるのだ。寒波を防ぐことぐらい造作もない事であった。


 物資を積んだトラックや、移動する異能者たちと集団で西へと走る。


 途中、怪異を退治しつつの行程は修司が思っている以上に順調に進む。

 それでも昔は1日2日のところを一週間近くかけていることを考えるとまだこのあたりが安全とは言い切れない証拠であった。


「見えて来た。旧米原市……琵琶湖へ向かう前にあそこで休息だ」


 修司の声に天音が少し身を起こせば見えてくる町並み。

 ここからでもわかるほど、まだ荒れた建物が多いように見える。

 それもそのはずで、米原市は復旧が始まってまだ20年たっていないのであった。

 まるでダンジョンへと向かう冒険者のための一時の休息所……それが今の米原市の現状だ。


「なんだか大変そうだね」


「それでも寝泊りできそうなのは重要さ」


 お風呂も入りたいだろう?と聞けば天音も力一杯頷き返す。

 そのことがなんだかおかしく、笑ってしまう修司。

 

 そのまま風を切り、町の中に入っていく2人とトラック達。

 拠点となるだろう場所へと向かうと、既にそこには周辺から戦力となる人間が集まっていた。


 かつてのようなにぎやかさを一時的に取り戻している町。

 用意された建物に入りつつ、どこからか不安のようなものが沸き立つのを感じる修司だった。



 

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