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SOI-024


 陽光の元、硬い物同士がぶつかり合う音が響く。

 修司の繰り出した直剣と一際大きな鬼の構える金棒がぶつかった音だ。


「お……おぉっ!!」


 その姿勢のまま、修司は全身に異能の力を巡らせ、直剣を振り切った。

 結果として、短くなった金棒が地面に落ちる。


 鬼は体の流れた修司の隙をつくことは出来なかった。

 遠くからやってきた光の槍が眼前ではじけたからだ。

 天音の援護射撃であるそれは、目の前の鬼だけでなく周囲に驚くほどの量をばらまいている。


 橋の前に立っている天音は両手でステッキを握り、力を繰り出していた。

 まるで、大きなバランスボールのような光の玉が頭上に浮いている。

 そこにとげのように何かが伸びたと思えば、それは撃ちだされる。

 大量の怪異とその近くの地面へと降り注ぎ、討伐は出来なくても足止めにはなっているようだった。


「天音、無理はするなよ!」


「みんなもきたから大丈夫!」


 言葉通り、橋の向こう側から修司たちに遅れて関市にいた異能者たちが合流して来た。

 中には警察官もおり、昔では考えられない装備、すなわち銃火器を構えている。

 かつての自衛隊と警察官は現在、ほぼ1つの組織に統合されている。

 国外からの危険はなく、別組織として動くだけの人的余裕もないためであった。


 結果、警察官の皮を被った自衛官のような熟練者、なんてものが存在するのである。


「親玉はどこだ……こんな統制された動き、普通じゃできない……」


 今回の怪異たちが、何者かに率いられていると感じている修司。

 事実、いつもならただひたすらに襲い掛かってくるはずの怪異が、一部迂回をしようとしているのだ。

 何か目的があってそう動いている……そう感じつつもこれといって目立つものは見つからない。


 修司がそうしている間にも、山から怪異は続々と現れる。

 小鬼や鬼、狼のようなものから人のように見える異形、あるいは骨だけの物。

 それらを協力して倒していくうちに、修司には何かすっきりしない感情が産まれてくる。


(何か……何かが……)


 見上げるほどの大鬼の足を切り、倒れ込んだところで首をはねる。

 残り続け、積みあがる鬼の死体。

 これで生身だったらグロくて仕方がないな……。

 そんなことを思ったところで、ひらめきが修司の頭に飛来する。


「集まる場所が偏っている……天音っ! 空から見てくれ、どんな風に見える!?」


 思わずの叫びには焦り。

 その声に飛び跳ねるようにして舞い上がった天音が見た物は……怪異たちの目的。


「お兄ちゃん、なんかお星さまみたいになってる!!」


 頂点の数は5か6か。崩れているのか真っすぐなのか。

 修司がなおも問いかけようとした時には、もう怪異は目的を達成していたのだ。


 偶然からの一瞬の静寂。


 瞬間、怪異の躯は大地に沈み、黒い線となり星を紡いだ。

 それに合わせたかのように大地が揺れる。


「地震だ! 橋より前に戻れっ!」


「お兄ちゃん、あれ!」


 修司が振り返った先で、山から黒い波としか言いようがない何かが降りてくると、大地を黒く染め上げる。

 さらに強くなる揺れ。下手に橋を渡ると危険と考えた修司は天音とぶーたと共に立ち止まる。


 見つめる先で、黒い大地から何かが浮かび上がってきた。

 巨大な、ビルほどの髑髏だった。


「がしゃどくろ? いや、あれは……」


 正体を考えたところで、怪異も生きている物の想像を読んでいるのではないかと思い至った修司。

 天音の力や、自身のそれも結局、自分がどこまでどういう力だと信じるかだ。

 その力の傾向そのものはあるが、強弱は才能以外に己自身が決めている、それが異能の力。


「止めなきゃ……」


「そうだな。だがどうするか……砕くぐらいしかないか」


 小指1つとっても、巨木ほどもある巨大な髑髏。

 まさに巨人対小人の様相だが、修司には撤退の選択肢は無かった。

 逃げてどうなるということもあるが、立ち向かってるほうが生き残れる、そう考えていた。

 何より、天音を守るためには自分が惹きつけておく必要がある、と。


 修司が考えているうちに、ついに相手は脛部分まで出てくるのが見えた。

 もう間もなく、全身が出てくるだろう状況。


「あれだけ大きいと当てるのは簡単だよ」


「よし、やるか!」


 気合を入れ、直剣を鞘に納めて代わりに背中の刀を抜き放つ修司。

 まだ明るいというのに、その刃はほのかに光っているように感じられた。

 そのことに少し驚きつつ、自身の力を練り続ける修司。

 天音もまた、アニメのキャラクターがそうしているように自分だけでなく自然に呼びかけた。


「お願い。みんな仲良く暮らせる未来を!」


 冗談のような呼びかけに、周囲の自然が応えるのを修司だけでなく一時下がっていた異能者たちも感じた。

 顔を見合わせながら、橋を渡り直してくる姿に迷いはないようだった。


「遠距離が可能な奴はとにかく撃ちまくれ! 近距離の奴は……攻撃させてからそこを叩け!」


 叫び、先んじて修司は駆ける。

 髑髏の虚ろな瞳が修司を見るや、巨大な手のひらが頭上から迫る。

 横っ飛びで回避した修司がお返しとばかりに切り付け、地面を砕くようにしてその骨が砕ける。

 声のような何かを響かせ、髑髏は怒りの感情を全身にまとった。


 まだ明るい中を、数々の力が輝いた。

 炎であり、冷気であり、雷のようでもあり、岩の塊なんてのもある。

 運動会の玉入れのようにも感じる無数の力が髑髏にぶつかり、その動きを阻害する。

 全身を徐々にぼろぼろにしていく姿に、異能者たちの気持ちが浮つきそうになった時だ。


 髑髏の口元に陽光の元でもわかるほどに力が集まり光るのが修司にもわかった。


「天音ぇ! 障壁! 全員固まって耐えろ!」


 髑髏の向く先は修司。避けるわけにもいかず、刀を構える修司の後ろに天音たちが固まる。

 すぐさま展開される障壁もどこまで持つか……その不安が皆を包む。

 だが、前に立つ修司はあきらめていない。


「異能の力はさ……結局、どこまで信じられるかなんだ。鬼切りが斬るのは物だけとは限らない。鬼気だろうがなんだろうが、斬れない物はない!」


 そして放たれる咆哮のような光の塊。かつての時代であれば、陰陽師等と呼ばれていた存在がどうにかしていたであろう力を、修司は手にした刀で分断して見せた。

 別れた力が後方へと飛び、天音たちの生み出した障壁とぶつかり、拡散していく。


「今回は、俺たちの勝ちだ」


 素早く踏み込み、振り上げた刀で修司は髑髏の脳天から顎先までを一気に叩ききったのだった。




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