SOI-022
人間はしぶとい。
そのことを、店先で痛いほど感じる修司がいた。
「すごいね、お洋服がたくさんだよ」
「ああ。古着だけじゃないな……この辺なんかは新品だ」
毎日何かしらの怪異に関係した仕事をしているのでは息が詰まる。
自身はともかく、天音には色々な経験をさせるべき、そう考えた修司は彼女を町へ連れ出した。
向かった先は、以前から問屋街として有名な一角。
幸いにも怪異たちの攻撃を受けていないこの場所は、再開発を経ても町並みを残していた。
ここだけを見ると、町の外が自然にあふれた状態だと信じられないほどだ。
「一昨日西から入ってきたばかりさ。武装フェリーも運行を再開したらしいよ。これで西日本は安泰さ」
「随分早いな……でも、元々瀬戸内海とかは移動できたもんな」
話しかけて来た老婆の言葉に、腕組み考える修司。
太平洋側はあまり沖まで出られないが、沿岸部であれば行き来できる状況。
それが改善したということなのだろうか、と考える。
「聞いた話じゃ、フェリーの中にお社を建てて、なんていうの? 聖水?みたいに流してるんだって」
「随分と大がかり……ああ、本当みたいだ」
そんな話を聞いたような、と思った修司がタブレットで情報を探ると確かにその話が出て来た。
パワースポットを人間側に寄せる意図もあり、色々試した結果のようだった。
「おっと、そんなことよりお嬢ちゃんにはこの辺はどうだい」
「ははっ、商売が上手いな。もらうよ」
「わーい!」
試着室に飛び込んだ天音が、しばらくして出てきた時には笑顔だった。
修司もつられて笑顔になる。やはり、子供は笑顔であるべき、そう思えるものだ。
表情には出さないように気を付けているが、修司は今も自分に問いかけている。
一緒にいることを天音が後悔しないような人生を、と。
新しい服に身を包み、鼻歌を歌いながら町を歩きだす天音。
バイクは役所に置いたまま、2人は徒歩である。
かつては人でひしめき合っていた都会も……今では多くが空き家のままだ。
暮らすために集まっている区画を除けば、何年も前のように広い土地が広がっているのが見える。
過去の人間が見たならば、空襲跡?なんて思ったかもしれない状況である。
怪異の出現によって、人類はほぼ半減した。
これはあくまでも日本人の予想であった。
そして、怪異の被害を受けて人間の住めなくなった土地は元々過疎化が進んでいる場所が多かった。
結果、目に見えて人口密度が減ったのである。
「あっ、見て。工事が始まってるよ」
「へぇ、マンションが出来るのか……先を見てってことか」
事実だけを見ると将来が明るいとは決して言えない状況。
それでも人間はあきらめず、抵抗し、反抗し、そして一歩ずつ取り戻している。
そのことを感じることの出来る光景に、しばし2人も足を止めて工事を眺めていた。
と、耳に届く馴染みのある音。修司にとってはまさにいつもの、だ。
「お仕事?」
「みたいだな。ったく、後方をケチってるのか?」
前線で、被害前提の無茶な作戦に付き合うことを拒否した修司。
明確な命令権は誰も持っていない現状、異能者が嫌だと言えばそれで終わりである。
それでも異能を使った犯罪者がほぼいないのは、お国柄というべきか……。
いや、そんなことをしていても自分が生き残れないと実感しているからなのかもしれない。
「物資輸送用トラックの護衛だとさ」
「大事なやつなんだね。じゃないとお兄ちゃんを呼ばないもん」
バイクに乗るべく、天音を抱きかかえて走る修司。
ざっくりとした説明に、的確な判断を天音がしたことに、そのまま笑みを浮かべる。
彼女の言う通り、ただの輸送であればそんな警戒をしなくてもいいはずだからだ。
オリンピック記録を過去に置き去りにした走りで役所にたどり着いた修司。
そのまま中に飛び込み、詳細を聞くことにした。
やはり、前線への物資が足りなくなっているがための追加輸送作戦だそうである。
「修司さんの故郷にあるお水とかも一緒なんです」
「ちっ、俺がいた時代から変わってないってのか?」
言いながら、ここで愚痴を言っても仕方ないなと思い直す。
参加のサインを天音と共に行い、外に出た修司が見たのは大型トラック5台からなる集団だ。
(なるほど、かなり力入れてるな。準備はしていたが足りなくなった、と思ってよさそうだ)
行き当たりばったりで補給を要請するという戦い方ではないと判断した修司。
自身が前線にいたころはそういったことが多かったなあと思いつつトラックに近づいたときのことだ。
何かが、匂った。
きょろきょろとあたりを見渡し、天音にも聞いてみるが特に彼女は何もないという。
ではトラックの中身か?と思い、確認してみるも今度は何も感じなかった。
「えーっと……」
「ああ、すまない。歯磨きをし忘れたかなと思ってな」
不審に思ったらしいドライバーに身分証となるものを見せ、名乗る修司。
あなたがあの、と言われるぐらいには名前は有名なことに修司自身が驚く番だった。
直接戦ったりして話を聞く学園や異能者たちと違い、どう見ても一般人だからだ。
「親父に聞いてますよ。修司のように口酸っぱく準備について聞いてくる奴がいたら当たりだって」
「そうか……ああ、見覚えがある顔つきだ。親父さんは?」
口にしてから、修司は後悔した。
その心の動きを感じたのか、天音は修司の手を優しく握る。
そのことに感謝しつつ、ドライバーから告げられた返事……彼の父親の死を受け止める。
「無事に届けて、帰ってこよう」
「はいっ!」
そうして準備をする修司たちだったが、当然護衛が1組のわけがない。
異能者ではないようだが、他にも4輪車に乗った人員が10名ほどいることを知らされる。
向かう先は……旧愛知県名古屋市から北へ進んだ……旧岐阜県関市であった。




