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SOI-020


 修司に四方から迫る白刃。

 そこに遠慮や気後れがないのは、相手がまだ子供だからだろうか?


「よっと……早いが、それだけだな」


 陽気なステップを回避のダンスとして、修司は全てを回避して見せた。

 通称『異能学園』の今年の卒業生、つまりはすぐにでも実戦に行く可能性のある子らの攻撃だった。

 役所で修司が受けた新たな仕事、それは卒業生たちの特訓相手……模擬戦だ。


「そんな……」


「先生でも受けるのが精一杯だったのに……」


 息も絶え絶え、渾身だっただろうコンビネーションを回避され、若者5名は立ち上がれないようだ。

 男3人に女2人、男2人が後衛、残り1人と女2人が前衛というのはやや珍しいところだ。


 訓練用の装備に身を包み、歯を潰してある直剣を鞘に納める修司。

 一般の人を脅かさないため、としてある鞘だが、使い手の気持ちを切り替えるのにも役立つ。

 抜けば戦い、生き残るために戦う、そういう気持ちになるのだ。


「結果だけだとショックだろうが、悪くないと思うぞ」


 だからか、卒業生たちにかける修司の声は先ほどまでと違い、やや柔らかさを増していた。

 もっとも、それを聞いた5人がその通りに感じてくれるかは別の話である。


「さっそく明日にでも実戦の予定なのに、これじゃあ」


「そうなのか? そこまでは聞いてないが……うーん、よし、俺もついて行こう」


 卒業試験に落第したかのように青い顔になっていた5人の視線が修司に集まる。

 その瞳には期待と不安が入り混じっているのだが、修司は敢えてそれにはつっこまない。


「どうにも駄目だとしても天音の結界の中にいたら安全だからな、うん」


「天音って、あの修司先輩と一緒に来た女の子ですよね? 通ってはいないんですか?」


 彼らは都会で産まれ、異能の目覚めと共にこの学校に通い始めた世代である。

 よって、異能の力を持っているのに通っていないという存在を見たことが無いのであった。


 衣食住が提供されるとなれば、通わないという選択肢はかなり狭まるのも無理はない。


「まあな。でも実力は確かさ。おーい、天音。いつもの壁特訓やるぞ」


「? はーい。変……身っ! ばーりあ!」


 どこか気の抜けた声と共に、壁際でぶーたとともに教科書を読んでいた天音が立ち上がる。

 すぐさま流れるような手つきでステッキを取り出し、生徒たちを驚かせた。

 それだけでなく、瞬きの間に変身をして見せた挙句、彼らにも見える障壁が展開されたのだ。


 天音の異能はある意味イメージが全ての特殊なタイプである。

 バリアとは、結界とはこういう物というイメージの元があればそれを再現するように力にする。

 今もまた、うっすらとシャボン玉のように輝く膜が障壁となり展開されている。


「そらっ!」


 掛け声とともに、修司の抜き放った直剣が天音の結界に触れる。

 いや、叩ききる勢いでぶつかってきた。

 結果、大きな音が訓練場に響き渡り、修司の力と天音の力がぶつかり合う。


 当然、手加減はしてあるとはいえ当たればとても痛いだろう修司の攻撃。

 それを自分よりかなり小さい子がしっかりと防ぐのだ。

 これで奮起するか、自信を失うかはなんとも微妙なところだろう。


 時間にして3分ほどの間、天音は修司の斬撃を防いで見せた。


「天音ちゃんすごい……私の目標です!」


「学校に通わない育成はムラがある。その点では一定の力量が身につく学校の方がより安全ではあるな」


 実際、天音の素質と本人のやる気の合わさった結果の力であり、他もそうかと言われると疑問が残る。

 天音が学校に行っていたらどうなるかも、生徒を外に連れ出していたらどうなるかももしもの話だ。


 自主練をしたいという生徒を残し、修司は天音を連れて職員室へと向かう。

 気が進まないところではあるが、かといって適当に過ごすのも嫌、そんな気分であった。


 何年も前に通った廊下を天音と2人して歩いていると、不思議な気分になるのを修司は感じていた。


「お兄ちゃんと一緒に学校にいってたらどうなってたのかな」


「どうだろうなあ。学年もすごい違うし……ああ、異能者に学年はあんまり関係なかったな」


 どちらかと言えば力の発揮具合、制御の程度でクラスが変わっていたのを思い出した修司。

 決まった人数が力に目覚めるわけでもなく、その程度も様々となれば普通の学校では成り立たない。

 力の分類、横並びに出来るだけするバランスが重要視された。


 ちなみに修司のクラスはその中でも特別だったのは言うまでもない。


「ちゃーっす」


「誰かと思えば……生きてるなら何よりだ」


 修司を出迎えたのは、かつての恩師。

 口はやや悪いが、彼の考えを重視して押さえつけるようなことをしなかった大人の1人だ。

 白髪が増えたかと思った修司だが、それは口に出さないだけの分別は持っていた。


「視線が何よりも語ってるぞ。俺も年を食ったもんだ」


「ははっ、生きてるうちに日本海側で新年を迎えられるようになるんじゃないです?」


 自分の後ろに隠れたままの天音と左手をつなぎつつ、右手で訓練結果を手渡す。

 男の視線が天音に降りて驚き、修司へと戻る。

 声に出さずに笑みで修司は応え、そばの椅子に適当に天音と並んで座った。


「さすが卒業生、ですね。十分力は身についてる。後はまあ、やはり実戦経験でしょうね」


「かすりもせずに良くも言う。とはいえ、鈍っていない証拠ということで喜ばしくはある」


 ぺらぺらと報告書をめくり、途中でその手が止まる。

 額にしわが寄るあたり、想定はしていなかったようだ。


「付き添いまでしてくれるのか」


「袖触れあうもって奴ですよ。それに、そうした方がいい気がするので」


 曖昧な修司の答えに、それ以上の追及はない。

 というのも、異能者たちが時折感じる直感のようなものは意外と当たるのである。

 それは明日の天気だったり、一週間後の病気だったりするのだが、無視できない物だ。

 異能者として優秀な修司がそう感じたのであれば、それは優先した方がいいと判断された。


 卒業生たちが向かう先、時間を確認し、その日は宿へと修司たちは戻った。



 そして翌日、卒業生たちと合流し、現地へと向かった修司たち。

 実力者の付き添いによる安全な実戦……そのはずだった。


「下がってろ、何が起こるかわからん!」


「先輩っ!」


 お昼を過ぎたばかりだというのにひどく暗くなった空。

 青空だった場所に、月が輝いていた。

 赤黒いその月は、何かの嫌な笑顔のようにも感じられた。


 都市に近く、危険の少ないはずの場所で……予想外の戦いが始まる。



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