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SOI-018


 冬。それは雪の季節でもある。既に山々や、豪雪地帯と呼ばれる場所は白さを増していた。

 世界中を怪物・怪異が襲い始めてからの変化に、四季がはっきりしてきたという物がある。


 春は爽やかに、夏は暑く……秋、冬も同様だった。

 世界規模で工業に関する動きが激減したため、急速に地球の環境は改善に向かっている。

 人が住めない地域が増えているが、それは環境汚染がというわけではないのだった。


「お兄ちゃん、今年もよろしくねっ」


「ああ、今年は大変だぞ……」


 西日本奪還作戦が開始されて数か月。今のところは大きな作戦は実施されていない。

 まずは足元、既に結びついている地域同士の連携を密にし、バックアップを整える。

 そんな流れらしく、修司たちも特に出かけるほどの大規模な戦いは起きていない。

 その分、天音との特訓はこれまでとは全く別物になり、2人と1匹で山を駆け巡るのも日常になった。


「来週から、長いおでかけだ」


「うん……」


 ぎゅっと自分の手を握る天音の表情は少し暗い。

 やはり、置いていくべきか、自分だけにすべきか。

 そんな風に思い、声をかけようかと思った修司を、天音が見た。


「夢にね、大クスさんが出てきたの」


「大クスが……なんて言ってた?」


 出し入れにも慣れたらしいステッキを手に、修司の前で天音は覚悟を決めた顔になった。

 歴戦の戦士として戦い抜いてきた修司からしても、姿勢を正しそうになるほどの覚悟。

 それをこんな小さな、まだ子供にさせる自分と現状を許していいはずがない、そう思ったのだ。


 しかし……。


「不思議と普通がいっしょにくらせる明日を頼むって。頑張って、みんなでやったーってなろうね、お兄ちゃん」


「……ああ、そうだな!」


 修司は思い違いをしていた、と反省することになる。

 天音は優しいから、いい子だから、我慢してるんじゃないか。

 少しずつ無理をしているんじゃないか……子供はそんなもの、という思い違い。


 でも、そうではないのだと気が付いた。


 ちゃんと自分の意志で、もちろん全部が正しいとは限らないけれども……。

 1人の人間が考えて決めたことを、大人が否定してどうするんだと。


「よろしく頼むぞ、相棒」


「えへへっ」


 方やまだ中学生ぎりぎり、方やまだおじさんとは言えないが大人。

 ちぐはぐな2人は手を取り合い、戦う覚悟を決めたのだった。


 翌日、町民たちの見送りに驚きながら、西へと旅立つことになった。

 荷物の大半は着替えと、戦うための物である。

 食料は途中で確保するため、最小限だ。

 専門の学校を卒業し、事実上の異能免許を持っている修司がいればくいっぱぐれることはない。


 サイドカー付きのバイクに乗り、西へ、西へ。


 道中に怪異の退治を請け負いながら、2人の旅は続いた。

 道が悪ければ迂回路を探し、倒すべき怪異が多ければ数日は滞在する。

 突然現れては、厄介な怪異をあっさりと退治するでこぼこコンビは噂となっていく。


 修司がどこか侍を感じさせる装備なのに対し、天音は全く別物だ。

 アニメから抜け出してきたような格好に加え、最近では羽衣状の物をまとうのを好むようになった。

 立ち寄ったパワースポットとなる神社で残されていた絵巻物を見て感動したらしかった。


 大地を駆け、多くの鬼を切り裂く修司、そして時に空を飛び、舞うように戦う天音。

 いつしか、名前ではなく鬼切りの!だとか、天女と侍の!等と呼ばれるようになるのも無理はない。


 そうして冬も深まったころ、2人は旧愛知県名古屋近辺にやってきていた。

 昔から古い物、新しい物が混ざり合う都市……そこは前線に近い都市でもあった。


「ビルがたくさんだね……」


「ああ、このあたりは被害が少なかったらしい。それが何故なのかはまだわかってないらしいけど」


 通り一杯に、とはいかないが確かな賑わいが感じられる町並みを眺める2人。

 ゆっくりと進むバイクのサイドカーの中で、天音がビルを見上げた時だ。

 ようやくというべきか、彼女に馴染みのある重みが産まれる。


「ぶーた、おそかったねー」


「何かあったのか? ふむ、たまたまか」


 いつもならば、すぐそこに出かけるぐらいでもついてきたぶーたが旅の間は今日までいなかった。

 そのことを心配しつつも、影渡りでいつでも合流できると修司は考えていたが当たりだ。

 そんなぶーたを構う天音の声を聞きつつ、修司が向かう先はある意味馴染みのある場所だった。


 中部地方における対怪異専門の職業安定所。

 故郷でも役所がやっていたことを大規模に行っている場所だった。

 今、修司は特に何かのグループには所属していない。

 かつて所属していた前線向けのグループとは一応無関係なのである。


「だからってほいほいご紹介は出来ないんですよ、修司さん」


「まあ、そうだろうな」


 偶然か、運命なのか。修司を出迎えたのはかつて何度もやり取りをしたことがある相手だった。

 こんな時代にも関わらずスーツで決めた姿はまさに役人。

 自身は異能に目覚めていないが、剣道でいいところまでいっていると聞いたことを修司は思い出した。


「かといって自由にどうぞというのもお互いに困りますね。特に今回は……可愛いお嬢さんも一緒だ。修司さんだから信じますけれど、専門の教育なしにこれとはにわかにはね」


 男が叩くのは修司が提出した修司自身と天音の戦力表。

 ゲーム風に言えば可視化したステータスと言えるだろうか。

 もちろん、修司自身でわかる範囲、かつ表に出せる範囲に限られる。

 それでも天音の力は、異能者として学校卒業直後より上、そう記されているのだ。


「討伐の虚偽報告は問題になる。特に過大側は。俺もそのことは良く知っているよ」


「確かに。お二人には幸いというべきか、例の作戦の都合でこのあたりの異能者も移動してましてね。手が足りていません」


 大きな問題が無くなれば話は転がっていくのが世の中である。

 結局、近場に出現した怪異の退治依頼を仕事として受け、情報収集に励むことになるのだった。




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