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SOI-017


 謎の壁、龍壁と呼ばれるようになったソレが日本を東西に分けてからしばらく。

 異能者、そして自衛隊らを中心に日本は1つの作戦を開始する。

 それは西日本の奪還作戦。


 沿岸地域、瀬戸内海等の海は怪異の脅威が比較的少なく、なんとか物流が確保できている。

 陸地で言えば九州地方の一部を除き、四国は無事。

 山陽側のほとんどと、大阪から中部地方もかろうじてつながっている。

 道中には怪異の出現する地域、山間部が残っているものの平野部は行き来は不可能ではない。


 そこを、大きく解放していこうという作戦であった。


 そして、向かう先は山陰地方の奪還、大陸からの進撃に備えるという物だ。

 同時に東日本、特に関東方面との連携を視野にいれた大規模な物になっていた。


「修司君、私たちは大丈夫だ。君の力で救える人を、救ってあげてくれないか」


「おじさん……」


 前線からある意味逃げ出してきた形の修司。

 異能の力を、一部のエースだけを頼りに建てられた作戦に異を唱え、故郷に帰ってきたのだ。

 故郷の人々、そして偶然一緒に住むことになった天音の両親もその気持ちは嬉しく思っている。


 と同時に、頼りきりではいけないとも考えていたのだった。

 事実、前にも増して町の人々は自衛に力を入れている。

 最近では複数人によるものであるとはいえ、身長3メートル近い鬼を撃退したこともあるのだった。


「卑怯な言い方だとは思うけれど、出来れば天音やその子供が出来たとして……学校に行って学べる、そんな未来を取り戻せたらいいなと、思ってしまうんだ」


「それは俺も思います。やはり、戦う力を持つだけの勉強は……出来ればない方がいい」


 今の世の中、学校という物はないに等しい。ぎりぎり、異能者向けの物がある。

 だがそれはどちらかというと生き残るための勉強であり、将来の選択肢を増やす物ではなかった。


 今はまだいいが、この先国として、人間として維持するためには教育は大事だ。

 そのことは修司自身、痛いほど味わっている。


「都市部に残ってる知り合いからの物で噂レベルだけど……海越しに通じた無線だとひどいものらしい。国土が広いほど国を維持できず、地域別に小国が乱立しているような状態らしいよ。日本は恵まれてるよ」


「ははっ、わかりました。全部、斬り捨てて見せますよ」


 まるで何百年も前に戻ったかのような人類の生息域の噂。

 そのことが事実ならば、人類という種はここで終わりを迎えるのか?

 一部にはそんな話があるのかもしれないが、修司はあきらめてはいなかったようだった。


「ああ、忘れずに連れて行ってくれると嬉しい」


「連れて……それは……」


 既に戦いに連れて行ってるのに今さら、そう言われると思いつつも修司は躊躇していた。

 これから起こるだろう戦いは、今までとは毛色が違うのだ。

 ちょっとそこまで、なんて言えないような土地での戦い。

 そこに子供でしかない天音を連れていくのを許す、と言っているのだ。


「あの子はいい子だ。だから、じっと待ってるより飛び出してしまうだろう。そうなったときに君がそばにいてくれたほうが逆に安心できるというのは変かな?」


 そう言われてしまえば修司も頷くしかなかった。

 一人より、信頼できる同士のほうがいいに決まっている。

 修司は覚悟を決めて、頷きを返した。


 と、玄関から声。天音と母親が帰ってきたのだ。

 最近ではこうして近所の人と農作物の交換に出られるぐらいには母親も元気を取り戻してきたようだ。


 その夜、修司たちの家ではいつも以上に陽気な声が聞こえていたという。




 翌日から、修司は行動を開始した。


 今までもそうであったが、これまで以上に町の自警団的な存在に力を入れ始めたのだ。

 戦い方、道具の確保、そのほか諸々。

 多くが兼業のような状態だったが、異能者でなくてもやれることがあるという事実はウケた。


 少しずつ、少しずつ。木の柵程度であるが町の土地を増やし、畑を増やす。

 木造住宅を増やし、生活の余裕を増やす。

 そうして手に入れた物を都市部へと売り、地力をつけていく。


 確実に、この町は地方としてはこれ以上ないぐらいの力をつけていく。

 怪異の大軍でも来ない限りは東からの侵攻を防げる、そう修司に感じさせるものだ。

 西日本の作戦も徐々に進み、新しくパワースポットを認定して信仰もどきを集めるようなこともしていることが伝わってきた。


「お兄ちゃん、どっかーんってやらないの?」


「やってもいいけどなあ。その後、お家が壊されたーってお化けがたくさん散らばったら大変だろう?」


 多くの大人や天音のような子供にとっては、修司の行動は少しもどかしかったのかもしれない。

 修司なら、近くの良くない場所とそこの怪異を退治し、解放することができるだろうと思っている。

 しかし、修司はそれをしない。誰もが立ち上がれるのだと、示しているだけとも言える。


「だから、そうなってもいいようにしてからだよ」


「そうなんだ……そっか、準備しないでハチさんを退治しようとしても刺されちゃうもんね」


 少し違うがそういうことだな、と天音を撫でつつ、周辺の町との連携計画を眺める修司。

 ようやく、この町だけでなく近隣の町村との連携が可能になってきたのだ。

 慣れた戦士、かつての狩人のように熟練者となった町民が一時的に引っ越し、教える。

 異能者に頼らない生活というのは修司が思った以上の結果を産んだ。


 これまではどちらかというと特権階級、あるいは怯えられていた異能者たち。

 だが、徐々にあくまで職業の一つであり、才能と技術であると認識が広まったのだ。

 得体のしれない不思議な存在から変化していく……言うなればスポーツ選手のような扱いになる。


「よし、これで空を飛ぶ奴とも戦える」


「天音も飛べるよ? びゅーんって」


 元気よくポーズをとる天音の姿もかなり変わってきたように修司には感じられる。

 元々は小柄な子だったが、最近はこれまでの遅れを取り戻すかのように成長しているようだ。

 時折、膝が痛いと言っているから成長痛だろうか。

 少しずつ、大きくなっていく相棒に目を細める修司だった。


「頼りにしてるさ。おっと、ぶーたもな」


 突然2人の間に湧き出るようにやってきた猫、ぶーたの尻尾は2本、つまりは猫又である。

 人の言葉は喋らないが、わかっているかのように動くし、戦う力もある。

 俺にもぶーたみたいなのが欲しいな……と修司に思わせるほどのサポート力であった。


 そんなぶーたが鼻をひくひくさせながら町の外を見たことで修司と天音の表情も変わる。

 互いの武器を手に飛び出せば、一足遅れて警報が鳴る。

 町独自に作り出した物で、この近辺に怪異が感じられた時の物だ。


 そのまま町民と合流し、迎撃に出る2人。

 戦いそのものは無事に終わり、必要な物を採取してまた次の戦いのための準備を。

 既に日常の一コマとなったその流れは手際の良さを感じさせた。


 だが……。


「多い……な」


「ええ、修司さん。今週でもう2度目です」


 山間では雪が降り始めた季節、確かな変化を修司たちは感じていた。


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