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SOI-016


 結論から言えば、修司の懸念は半分ほど外れた。

 龍らしきものが昇り、大地へとまた降りてきた東の地。

 そこに現れたのは、大量の怪物たち……ではなく、壁だった。


「こんのっ!」


 修司の故郷から東へしばらく。車であれば2~3時間は走るだろう場所に彼は1人でいた。

 そうして出会ったのは、かつての静岡県を南北に分断するナニカ。


 科学が世界に行きわたり、鉄の乗り物が当たり前の時代。

 その後継の世界で見ることはないはずの……壁。

 表面はうろこ状の何かで覆われている。高さは大よそ30メートル以上。


「普通には傷1つつかない、か。人工物じゃないな、これ」


 龍を目撃してから数日、胸騒ぎがした修司は単身、東へと駆けていた。

 中部地方の東の前線よりさらに東、既に周囲は怪異の巣窟だ。

 こうして明るい昼間でも、いつ木陰から怪異が出てくるかわからない。

 そんな中で、修司が見つけたのはどこまでも続く壁だったのだ。


「生暖かい……それにこの見た目、これ全部龍か? 一体何のために……」


 言いながら、なんとなくだが修司の中にも答えが湧いてくる。

 東西どちらかに、大きな騒動が起きるからそれを防ぐための物じゃあないのか、と。

 そして、一番当たってほしくない可能性は富士山であると。


 恐らく日本で一番の天然パワースポットはと言われれば誰もがあげるだろう場所、富士山。

 古代より日本人の諸々の意識を集めて来た霊山は今、あらゆるものの侵入を阻んでいた。

 そう、あらゆるものだ。今のところ、怪異が住み着いている様子は修司には感じられなかった。


 そう言った問題を抜きにしても、この壁はどうにかしないと今後、問題が出るのは間違いない。

 日本を2分割する物理的な壁は橋を作るかしなくては通ることができないのだから。


「地下にも少しは潜ってそうだな……帰るか」


 いざとなれば歩道橋のように建造物で超えることもできるかもしれないが、今は無理だ。

 名も知らないよくないパワースポットが多いのか周囲には怪異が良く出てくるらしい土地。

 そんな場所でこれ以上は情報が得られるか怪しいと判断し、帰路につく修司。


 昼を過ぎ、段々と数を増やしてくる怪異を捌きながら戻っていけば、逆にその数が減ってくる。

 途中に見えるのは放棄され、自然に飲まれ始めたかつての人の営み。

 多くがかなり痛んでいるが、それでもまだ100年たっていないという時間は短い。


 庭には雑草が多く、木々も飲み放題だが建物……町そのものはまだ形がしっかり残っている。

 山間で過疎化が進んだ場所と違い、自然の少ない場所が放棄されるというのはそんなものなのかもしれない。


「おかげでちゃんとやれば雨を防いで過ごすぐらいはできるのはいいけどなあ」


 突然の悪天候に、修司は廃墟の中の体育館らしき場所に飛び込んだ。

 住宅では、いざ怪異が出た時に発見が遅くなるからだ。

 天井の一部や窓ガラスなどが崩落しており、決していい環境とは言えないが休息には十分。

 かつては磨かれ、輝いていたであろう床も既にめくれ上がりコンクリートが見えていた。

 そんな消防法も関係ない場所で、集めた薪代わりの木片に火をつける修司。


 暇つぶしにタブレットを手にするが、特に目新しい情報はない。

 衛星がほとんど死んでしまってる現状では天気予報さえその精度は当てにならない。

 分断された地域を少しでも取り戻し、安全圏を確保していくことで徐々に人類は力を取り戻すだろう。


 もしかしたら、生き残った人類の少なさに絶望するのかもしれないが。


「隣国でさえ様子がわからない。海と空に今、何があるんだ?」


 つぶやきがたき火と、雨音に消える。


 そうして雨宿りをしているうちに、夜は闇深くなったが代わりに雨も止んだ。

 普通であればそのまま朝まで待つのが常套手段。

 怪異の増える夜となれば危険度も段違いなのだから。


「あれは……」


 たまたま穴の開いた壁から見えた方向。そこに光があった。

 夜の闇も切り裂いて昇る光。それはつい先日見た龍の物に似ていて、そして違う物だと感じた。

 赤黒い、良くない物を感じる光の柱。その光が伸びたのは、方角的には日本海側の土地。

 胸騒ぎに、修司は火の始末をして夜の闇へと躍り出た。


 あちこちに怪異の気配を感じながらも、このままこの廃墟にいるよりはと駆け抜ける。

 大通りだった道路に出、力強く走り出した修司の肩に重み。


「ぶーた、俺は良い。天音を守ってろ」


 猫又として感じる物があったのだろうか。

 影渡りで現れたぶーたを主人である天音の元にいるように促して修司は走る。


 異能の力で強化された足は自転車による物を超え、自動車に迫る物になっていた。

 そうしていくつもの街を超え、減ってくる怪異を振り切っていく修司。

 怪異の数を考えると、多い場所に何かあるのは明白なのだが探索の余裕はない。

 徐々に、徐々に場所を拡大していくしかないのが実情なのである。


 最終的に1つの川を超えたところでほとんどの怪異の気配は消えた。

 それは修司の故郷が見えてくるころであり、ようやく緊張が少しほぐれる頃でもあった。


「じゃあな、さよならだ!」


 しつこく追いついてきていた鳥の姿をした怪異と向き合う修司。

 動きを止めた彼に本能のままにか襲い掛かってきたそれはあっさりと叩き落された。

 なぜか、鳥のように飛ぶタイプの怪異は少ない。

 多くない方がいいのだからありがたいが、理由が不明なのは不気味だと感じる修司。


 普通の足の速さに戻して町へと戻る時にはそんなことを考えているのだった。


 夜中だというのに、役所には灯りがついているのを見つけた修司はそちらへと向かう。

 予想通りに、中では何名かの職員が動いていた。


「あっ、修司さん。どうでしたか?」


「東は色々あったがひとまずは大丈夫だと思う。それより、こっちは?」


 答えの代わりに地図を出してくる職員。

 そこに記されたのは、日本地図に赤丸。赤丸が付いているのは……。


「ここどこだっけ……旧島根県……出雲大社!? まさかっ!」


 東で壁を見つけたときにも修司が感じた物。

 それは富士山のような場所がどちらかに傾いたらバランスが大きく変わるだろうという物。

 人間側に傾き、大クスのように良いスポットになってくれればいいのだが、逆ではどうか。

 情報の伝達や蓄積が難しくなっている今の時代でも有名な場所はいくつもある。

 その中の1つ、むしろ最高位に位置する場所……それが出雲大社だ。


「なんとか悪化は避けられてるみたいなんですけど、今後はどうなるか」


「確かほとんどが避難してるのにそこだけ土地に引きこもってるんだったよな」


 日本を襲った怪物たちは日本海側や東北全体、北陸から甲信越の西半分ほどをその支配下に置いた。

 正確には、どこからか出現してくるので住んでいられなくなった、ということだ。


 と、考え込み始めた修司の荷物の中で、タブレットが音を立てた。


「なんだ?……西日本、日本海側への反撃計画? 著名なスポットを奪還して西日本を安全域にする……」


 それは修司が異能者向けの学校に通っていた頃からあった構想だ。

 通常の教育関係が縮小され、生き残るための専門分野だけが残っている現代。

 10年先はまだいいが、20年30年となると文明は衰退するのではないか、そんな危惧もある。

 そのためにも、安定して過ごせる生存地域確保は急務であった。


 だからこその、反撃作戦。


「修司さんも呼ばれますかね……」


「どうだろうな……」


 つぶやきは、いつになく弱弱しい物だった。



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