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SOI-015


「そういえば、たくさんお土産貰ったね」


「ああ、これも天音が頑張ったからさ」


 山間の町での戦いから数日。地元に戻った修司と天音は、そろって畑にいた。

 異能の力を農機具のように使い掘り起こし、異能の力で水をまいたりもする。

 普通とは少し違う現代の畑仕事がそこにはあった。


 本当は、戦い以外にこうして異能の力を使う日々が来るのが一番いいと修司は感じている。

 今は怪異、妖怪のような相手が共通の敵として存在しているからいいが……。


「天音が大人になって苦労しないといいんだがな……」


「? なあに?」


 なんでもないと告げ、自宅近くの畑に種を撒いていく。

 人力ならもっと時間がかかるだろうに、午前中の少しの時間で大体の作業が終わりそうだった。

 もちろん、ただ楽をするために異能の力を使っているのではない。


 検査も挟まなくてはならないが、促成栽培、あるいはそれに近いことが出来ればと考えているのだ。

 異能のほとんどが怪異撃退用に使われる現状、その先にあるのは人間同士の争いだ。

 獲物が無くなれば狼は煮られるか犬になるかしかない、そう感じている修司。


(上手く使った方がいいぞって思わせないとな)


 比較的応用の効く天音のような力と違い、自身のソレは力仕事が主になってしまうなという思いもある。

 出来ることなら、戦闘向きの異能者を何人集めているかが国の発言力になる、そんな未来は来てほしくない。

 楽しそうに水やりをする天音を見て、修司はその思いを一層強くした。


「終わったよ。大クスさんに挨拶にいこっ?」


「お供えも持って行かないとな」


 土汚れを洗い流し、2人で歩きだせばいつの間にかぶーたが天音の足元にやってきていた。

 影渡り……猫又であるぶーたの得意技の1つだ。こうしてどこからでもやってくる。

 ぶーたのことは一部の人以外には秘密の状態だ。

 まだまだ普通じゃない動物は、怪異の一種として追い出される可能性があるからだ。


「あんな場所にいる仲間を感じるんだから相当だよな。一応大丈夫そうだったけど」


 そんなぶーたを抱きかかえ、修司が思い出すのは先日退治した怪異。

 黒猫に見えて、恨みつらみによる人型の集合体だった物。

 退治後、そこには黒猫が1匹。尻尾は2本。

 一鳴きした後、森に消えていった。危険性はなさそうだったので追わなかった修司であった。


 そんなことを考えているうちに、町外れの大クスのある丘についた。

 周囲は歩きやすいようにと造成され、お手製の階段や柵が真新しさを感じさせる。


「今日も明日もみんな笑顔で過ごせますように」


 素直な言葉を願いとする天音の横で、静かに祈る修司。

 一見するとただの自己満足のための行為だが、この場では立派な意味を持つ。

 祈り続ける2人から一部の存在しか見えない柔らかな光が大クスへと伸び、大クスのそれと絡み合う。


 そう、大クス自体もほのかな光に覆われているのだ。

 修司たちのような異能者か、素質がある物には見えるその光は人間にとっては希望の光。

 その土地と、ご神体であるとか象徴となる物と共に生きていくための力。

 そっと幹に手を添えると、周囲の土地とつながったような気がする修司だった。


「頑張れって言ってくれてる?」


「たぶんな。天音、見て見ろ」


 修司が指さす先では、色とりどりの花が咲いていた。

 誰かが作ったであろう花畑だ。そうやってみると小さな公園のようでもある。

 お年寄り向けのベンチもあり、もう少ししたら憩いの場にもなるのかもしれなかった。


「綺麗……私も何か植えたいな」


「ははっ、そうだな。お父さんたちに聞いてみろ」


 くしゃりと天音の頭を撫でつつも、そんな未来が出来るだけ長く続くように頑張る決意を固める修司。

 そう考えながらも、天音を戦場に連れ出して経験を積ませていく必要性のある世界に悩みもある。

 

 悩みが顔に出るかというところで、柔らかな風が吹いた。


 思わず大クスを見上げ、その木漏れ日に目を細め……修司も微笑みを浮かべる。

 暗いことを考えずに前を向け、そう叱られたような気がしたのだった。


「よし、釣りに行くか!」


「10匹ぐらい釣っちゃうぞー」


 年の離れた兄妹のように仲良く駆け出す2人。

 家に戻って釣り道具を持てば後は周囲の見回りついでに釣りスポットでお楽しみという訳だ。


 平和な時代であればどこかの会社で働いていそうな歳の修司と、学校に行っているはずの天音。

 異能の力で戦うことをある意味職業とした修司はまだいいが、天音が特に学校に行っていない理由。

 単純な理由として、制度が維持できていないということがあげられる。

 工業といった分野も生き残りに必死であり、人材の確保も難しく自主学習と通信講座ばかりなのであった。

 かつての寺小屋のごとく、地方別にばらつきがあるのが今の教育状況だ。

 それがいいのか悪いのかを判断できるほど実際に人類に余裕はない。


 こうして過ごしている修司たち以外の場所では、今この瞬間もぎりぎりの攻防をしている場所もあるのだ。


 タブレットに連絡の入っている修司と、役所の一部の人間は知っている。

 関東方面は一進一退、北海道付近は海の向こうからの襲撃にさらされていると。

 問題は諸外国である。インターネットは分断され、衛星も機能していない状態では詳細不明。

 もしかしたら、日本以外は全て人類が死に絶えたかもしれない。

 そんな時代に修司たちは生きているのだ。


「今日も小鬼が複数……か。どこから出てくるんだろうなあ」


「山を綺麗にしたらいいのかな?」


 つぶやく2人の前には、既に倒された小鬼が数体。投げつけたお札によってもう燃え始めている。

 小鬼程度だと、使える素材部分は少なく、こうして残り処分するしかない。

 研究が進めば違うのかもしれないが、なかなか農作物のようにはいかないようだった。


 そうして毎日の見回りを終えた2人は横に並びながら座って釣りを始める。

 幸いなことに、異形の魚、なんてものは今のところ出てきていないのだ。

 2人以外には釣る人もおらず、自然と魚も警戒心が薄い。

 そんなに時間がかからず、家族で食べる分だけの量が釣れることになる。


「昔の人はこうやって毎日頑張ってたんだよねえ」


「たぶんな。お肉もあまり食べられないしってそれは今も一緒か」


 かつてよりはマシであろうが、今の時代では牛肉などの肉類は値段が上がっている。

 輸入が出来なくなり、名産地とも思うように買い付けが出来ないためだ。

 まだ西日本は日本人の生存領域は広く、徐々に回復しているのが救いだ。


「食べられるお肉のお化けさんいない?」


「今度試すか……出てきたら、だけどな」


 そんな冗談のようなことを言い合いながら川沿いの岩の上で休憩する2人。

 なんとはなしに遠く、東を見ていた修司の目に見慣れぬものが飛び込んでくる。


 空へと伸びる、何か。


 まるでロケットやシャトルが空へと飛んでいくかのような長い長いそれは……人間の手による物ではなさそうだった。


「お兄ちゃん! 龍だよ、龍!」


「言われてみれば確かに……龍が……現代に復活した」


 幻想生物、怪異、妖怪、怪物。色々と呼ばれつつ、実際に人間の脅威となっている彼ら。

 その中にいるだろうと思われつつ目撃例のなかった存在、それが龍だ。


 伝承からもどちらかというと敵でもないし味方でもない。

 力が強すぎてどうにもならない相手、それが龍。


「あの方向は確かでかい川があったな……あれか、鯉が昇竜になったんだろうか」


「すごーい! あっ、降りて来た」


 2人と、恐らく色々な土地の人間が見守る中で龍が舞い上がった状態から降りて来た。

 そのまま頭を下に、地面へと勢いよく駆け下りていく。

 遠く離れていても、修司には直感することがあった。


 東が、荒れると。

 

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