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SOI-013



「天音はそこから動くなよ! 援護頼む!」


「うんっ!」


 戦いは、修司の予想以上に早く始まってしまった。

 歴史を感じる建造物、その周囲に集まっている寺の関係者たち。

 少し離れたところでは戦いの音が響いているのが聞こえた。


 自己紹介もそこそこに、修司は天音を見晴らしのいい場所へと乗せ、自身は前線へと向かった。

 まるで絵画から抜け出てきたような、昔日本にいたと言われる怪異が複数うろついているのが見える。

 あちこちで異能者だろう人間と、それらの戦いが続いていた。


「フリーの剣士だ! 必要なら下がってくれ!」


「助かるっ!って……修司かっ!」


 複数の鬼と小鬼に襲われていた男を助けるべくすべり込んだ修司。

 目についた相手を斬り捨てつつのセリフには、思っていなかった返事が返ってくる。

 顔だけを見れば、確かに見覚えがある。


「先輩、地元こっちでしたっけ? ってあぶなっ!」


 離れた木の上から飛んできた何かを叩き落とせば、それは力を失って地面に落ちる。

 修司が叩き落したのは、ただの葉っぱだった。

 先ほどまでは、分厚い木の板でも食い込みそうな力を感じたのに、だ。


「奥に天狗っぽいやつがいるんだがどうにも上手く行かなくてな」


「なーるほど。天音ぇ! マジカルネット準備!」


「はーい!」


 周囲はいかにも日本的な建物と庭などの中、場違いにも感じる単語が響く。

 そして周囲が戸惑う間に、修司はポケットから取り出した小さめの球を木々に投げつけた。


 瞬間、異能の力を持つ者にはわかる衝撃が広がった。

 修司お手製の、異能・怪異向けの閃光弾のようなものであった。


 周囲の戦いが強制的に止まったかと思うと、木々へと大きな網が飛んでいった。

 物理的な網ではなく、異能による力の網だ。


「よしっ、かかった!」


「よくわからんがチャンスだってのはわかるぞ」


 修司の目には、枝の上にいた何かが数体網に絡まり落ちてくるのが見えた。

 その隙を逃さないよう、戦いの間を縫うようにして駆け寄り……影へと直剣を突き出す。

 悲鳴と、怪異を切り裂く手ごたえ。


「カラスがでっかくなって手足が付いてる……カラス天狗ってこうじゃなかったよなあ」


「別物でしょうね。おっと、他を片付けないと」


 口調が学生だったころに少し戻ったのを感じながら、修司は男と一緒に駆け出す。

 異能者向けの学校に通っていた頃、数学年上にいた先輩、それが今共にいる男だった。


 相手には援護がなく、こちらには援護と安全な場所がある。

 となれば有利なのはどちらか言うまでもない。


「こいつも……こいつもか。なんか羽根が生えた奴が多いな」


「この辺はそういう伝承が多いんだ」


 修司たちに切り倒されていく怪異。その中には飛びようがないだろうという大きさの翼を持つ者が多かった。

 大人ほどの鬼の背中に、手のひらほどの羽根があったところでどうなるというのか。


 怪異は昔の伝承の姿を取る……そのことは世界中で半ば公認の事実である。

 ところが、修司も経験上、全部が全部全く同じ姿ではないことも知っている。

 そう考えるとこの歪な羽根持ちも伝承がゆがんでいるがためなのかもしれない。


 そうこうしているうちに落ち着きを取り戻した寺の関係者たちも加わり、怪異の集団はその存在を失っていく。

 力尽き、溶けるようにいなくなるもの、専用のお札によって燃やされるもの、といった違いはあった。


 一通りの対応が終わり、修司が天音の元へ向かうとずっと真面目な顔でステッキを構えていた彼女も笑顔になる。


「お帰りなさい。天音、大丈夫だったかな?」


「おお、すごかったぞ」


 天音ぐらいの歳の子供はすぐに成長する面と、まだまだ幼い部分が同居する微妙な時期だ。

 大人びて頑張れるときもあれば、小さい時のように甘えたいときもあるのである。

 特に、自分が役に立っているかどうか不安となればなおさらだ。


 だからこそ、あこがれる相手に褒められればその気持ちも高ぶるというもの。


「小さいのにすごいな……ここにいるってことは通ってないのか」


「俺が、教えてます」


 修司の短い返事の裏にあるものを感じ取ったのか、男はそれ以上追及してこなかった。

 その代わりに、後片付けをすべく周囲に声をかけていく。


「お寺の神様にね、ちゃんとお邪魔しますっていったら返事があったんだよ。よろしく頼むって」


「マジか……なあ、あんたらは聞けたのか?」


 修司は天音の話を基本的に信じている。嘘を言う必要もないのだから当然だ。

 子供と言えば思い込みから嘘を嘘だと思わずに口にすることもあるのだろうが、今回は周囲の大人も味方だった。


 何人かの関係者が、それらしい声を聴いたというのだ。


 だが、それはそれで別の問題も出てくると修司たち異能者は感じるのだ。


「そりゃあ異能の力があるんだから神様の一つや二つ……と思ってたが……」


「詳しい話はもう少し後でもいいかもしれん」


 硬い声。そこに込められた感情に修司が天音と一緒に振り返れば、視線の先には力があった。

 かなり離れた場所のようだが、山の中に黒い光が立ち上っている。

 遠くから見えた限りだが、修司には自分の後ろにあるお寺たちの建物に似ているように感じられた。


「かなり昔、一度だけ大火で焼け落ちてしまってな。それから今の場所に立て直したと聞いている」


「そういうことか……」


 日本だけでなく世界中に出現する化け物、怪異たちの出現理由は未だに不明である。

 正しくは、規則性があるようでない、そんな微妙な状態なのだ。

 ただ、1つだけわかりやすいものがある。


 それは、忘却への恨み。


 自分のことが忘れられていくのが許せない、言い換えるとそんな言葉になる。

 事実、怪異が出現する地域にはそういった戦場跡、遺跡などが多数存在していたのだ。

 一応の理屈はそれでつけることができる。


 ただ、そうだとしてもだ。


「何故今なんだろうなあ……神様に後で聞いてみるか」


 修司はそんなつぶやきと共に、第二ラウンドの始まりを周囲に告げるのだった。



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