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SOI-012


 朝日が降り注ぐ道路を、西へと走る物が1つあった。

 この時代にはかなり希少な、サイドカー付きのバイクだった。


 ガソリン燃料から、藻類による燃料へと切り替わったのは世界が異変に襲われる10年ほど前。

 走るバイクもまた、その技術の恩恵にあずかっている。


「トイレは大丈夫か?」


「うん。寒くないよ」


 バイクを運転するのは修司。サイドカーにいるのは当然天音と、ぶーただった。

 隣町程度であれば徒歩、あるいは走ってでも十分行けるのだが今回はバイクである。

 それはいざという時の機動力の問題もあるが、一番の問題は天音のことであった。


 異能者として一部には名が売れている修司と違い、天音はその意味では一般人だ。

 そんな彼女、しかもまだ幼い子が大人の異能者と一緒に移動できるというのは異常事態でもある。

 時間の問題かもしれないが、大きな戦いが来る前に出来るだけ経験を積ませたい修司。


 既に結界とでもいうべき守りの障壁の展開、アニメやゲームのように力を放つのはお手の物。

 それも捕縛と撃退、切り分けが出来るのだからある意味贅沢な状態であった。


 かといって、近場ではそうそういい経験になるほどの事態は起きていない。

 そんな彼らが外出することになった理由は……。


「天音、ぶーたが教えてくれたのはあの山であってるか?」


「そーだよ。うん、ばっちり」


 人口が半減し、ちょっと旅行をなんてことが難しくなった時代。

 道路を走るのは、物資輸送用のトラックやそのぐらいなもの。

 自然と、道路によっては全くと言っていいほど交通量が無い道もある。

 修司がバイクで走ってきたのもそんなルートだった。


 広めの路肩に止め、天音と共に見つめる先にあるのは1つの山。

 標高にして700メートル弱のものだ。

 コノハズクが生息していることで有名だったこの山は東海地方の前線の1つだ。


「ぶーたの親戚がここにいるけど、危ないんだって」


「どんだけ遠くから来てたんだよぶーた……」


 猫、正しくは猫又にそんな考えがあること自体修司には驚きだったが、連絡が取れることも衝撃だった。

 修司の脳裏には、たくさんの猫又が集まってる絵が浮かび、慌てて首を振る。


「ここがダメになると南まで一気に来るからなあ。異能の戦士もいるはずだ」


「私は家族に会いに来るためにわがままを言ってる子って役なんだよね?」


 その必要があるかは別だけどな、という修司の言う通り、天音の設定に出番があるかは微妙だった。

 連絡が取れるのは分断されていない地域のみとなれば故郷が別の土地にあるともうどうしようもない時代。

 どれだけ故郷が懐かしくても、関東、北海道などとなると無謀の一言だった。


「町が見えて来たな……もうすぐ夕方だ、どこかに泊まれるといいんだが……」


 この時代、旅行はあってないようなもの。つまり旅館業はかなり衰退している。

 役所にでもいって異能者向けの宿泊所を借りるしかないか、そう修司が考えた時だ。


「お兄ちゃん」


「ああ、感じたか」


 まだ町までは距離がある。警報がなるような距離でもないが、安全とは言い難い距離でもあった。

 その証拠に、道路にひょっこり出てきたのは人間でも、馴染のある獣でもなかった。

 これだけ離れていてもそうとわかる大きさの……怪異としてのクモ。


「くそっ、大グモだ。子グモがいたら厄介だな……天音、包んでくれ!」


「はーい!」


 サイドカーに座ったまま、天音は器用にステッキをかざし光に包まれる。

 ブレーキがかかり風も弱まったころには魔法少女としての天音がいた。

 そのままステッキの先から伸びる光が、修司たちに向かってくる大グモを包む。


 まるで綿あめに包まれたかのような光景はある意味コミカルだ。

 だがそこにバイクから飛び降りて向かう修司にとっては逃すべくもない大きな隙。

 急所を一撃、大グモを絶命させる。


 そして本来であれば腹の部分が弾けるようになるのを天音の異能、魔法が防ぐ。

 中で子グモが暴れ始めたのを感じつつ、懐から1枚の札を取り出し中に放り込んだ。

 瞬間、膜の中が炎で包まれる。怪異を焼き尽くす浄化の炎だ。


「終わった?」


「ああ、助かった。微妙な強さなんだよなあコイツ」


 実際、鬼のように叫ぶこともなく、近づかれるまでわかりにくい性質。

 死んでしまうような事態には異能者であればなりにくい強さ……だからこその厄介さ。

 その多くが討伐され、怪異の領域へと押しやられた……はずだった。


「何かおかしいな……」


 天音に変身を解かせ、またバイクを進める修司。

 そうして町に入った時、外で感じていた違和感はますますひどくなった。


 活気が……ないのだ。かといって怪異に全部入れ替わってるといったような怪談でもなさそうである。

 単純に、疲れている、そんな様子だった。


 その姿に、修司は異能者としての顔になると役所へとバイクを向けた。

 既に天音のことを隠しておきたいという気持ちが少し後退するほどの事態だと感じていたのだ。


 新しさを感じる役所は、忙しくありつつも余裕がない、そんなものを修司は感じた。

 カウンターに近づけば、疲れた様子の男が迎えてくれる。


「フリーで地元にいる異能者です。たまたま来る機会があったんですが……何が?」


「フリーの? ってこの名前……本物、ですよね」


 命のやり取りをすることになるだけで別段高給取りという訳でもない異能者。

 そんな異能者の身分証明を偽造する人間はほぼおらず、修司のことを本物だと理解した男は表情を一変させた。


 すぐ後ろの机に積まれていたファイルを数冊、どんっとカウンターに置いたのだ。

 その音に天音が驚いてぶーたを抱きしめてしまうほど。


「実は、山にある寺回りが怪異に飲まれ始めたんです。今のところはぎりぎり対応してるんですが、その分町の防衛に余裕が無くて……どうにかして押し返せば何とかなると思うんですが」


「寺が? そうか……わかった。2人と1匹の泊まる場所だけ確保を頼む。後、外のバイクの保管もな」


 その子も異能者なんですか? そんな問いかけに、修司は頷きだけを返した。

 なおもまだ呆然とした様子の男の視線の先で、天音は修司の許可を得てその場で変身して見せる。


 修司が預かった地図からすると、下手にバイクで行くより走っていった方が確実そうな距離だった。

 恐らくはこの土地の防衛線の1つで、欠けるわけには行かない場所だと修司は判断する。


「天音、離れるなよ」


「うん、お兄ちゃんと一緒」


 夕暮れがその赤さを作り出す直前。まさに逢魔が時が目の前であった。

 怪異と異能が、ぶつかる戦いが始まる。




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